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【王家の食卓1】 岸田母 vs 女王宮料理人

拙い小説をいつも読んでいただき、ありがとうございますw

総合評価 8000pt越え記念小説w

本編とは多分、なんの関係もない?であろう小説なので、番外編扱いにさせていただきました;途中なのですが、長くなってきたので、ちょっと分けさせていただきました orz

 場所は昼食の準備に勤しむ第一厨房――通称『王家の食卓』であった。 




「どれだけ、お偉い流離人ルエイト様だか知らないけどね!ここはアタイらの持ち場さ!お嬢さんの来る場所じゃないよ!」




 啖呵を切ったのは、王宮料理人カルラだった。


 三十台前半ぐらいの女料理人だ。化粧っけのない清潔感に溢れる面立ちを嫌そうに歪ませて、顔半分は低いであろう東方系の顔立ちの女を睨みつけている。


 女の後ろに控えるそこそこ位の高い護衛の騎士。


 緘口令が末端まで下されているが流離人ルエイトであることはカルラも察していた。


 流離人ルエイトの家族がイシュルスにやってきたという噂は小耳に挟んでいた。

 本当か嘘か知らないが、馬を使わない馬車に乗っているだとか、巨大な黒熊を共にしているとか、牢屋にいれられているとか。

 

 就寝時間が迫っていた時に、王家の食卓で五人分の食事の追加が料理長から言い渡され、慌てて料理人一同は仕込みをした。


 それが噂に真実味を持たせていた。


 『王家の食卓』は、国の要人が滞在すると、食事を提供する。

 だから誰がやってきたかわからずとも、人数は把握しているつもりだ。


 勿論、何週間も前から事前に言い渡されている。


 だが祭りの時期でもないのに、突如として夜に五人分の朝食の追加が入ったことから考えても、その食事が王の配給係りの執事とメイドが運んでいくのを考えても、噂は間違いではないだろう。


 流離人ルエイトは王と一緒に食事をしたのだ。


 この『王家の食卓』に礼を言う人間は限られている。


 そもそも、国交先の要人は直接キッチンにやってくることなど、まずない。

 配給係に間接的に礼を言う程度。


 彼女が騎士を連れて、料理長に朝食の礼を言ったまではよかった。


 カルラだって、このリエと名乗る妙齢だろうが愛くるしい女のお礼を聞いて、内心当然だと思いながらも喜んでいた。


 男の料理人など、魅力的な女の姿に鼻の下を伸ばしていた。


 別に悪いとはいわない。

 彼女の纏う空気は柔らかく独特で、浮世離れはしていたが、カルラも不快ではなかった。


 



「大変恐縮なんですが、王様の昼食の料理、私が作ってもよろしいでしょうか?」





 ただ、彼女のその一言に料理長が答えるより先に、頭に血が上り、カルラは反射的に冒頭の言葉を浴びせていた。







  +  +  +







 カルラは旧体制のイシュルス王家にはありえなかった女料理人である。


 王宮料理人は完全なる男社会。


 明確な掟があるわけではない―――が、その伝統は何百年も前から当然のように続き、いくら腕がよくても、ただ女であるということだけで、厨房に入ることを許されなかった。



 だがレジィー=イシュルスが王座つき、長い圧制の終わりと共に、この国は新たな道を歩みだした。



 彼が行った改革のひとつ――職業差別の廃止。


 素質、能力とも問題がなくとも、旧王家では、身分・性別の壁はとても分厚かった。

 それを撤廃したのがレジィー王なのである。


 時間はかかったが、新たに優れた人材を徐々に受け入れだした。



 その流れが厨房にも押し寄せて、一番最初に雇われたのがカルラである。


 勿論最初から第一厨房である『王家の食卓』に配属になるはずもなく、王宮に勤める者たちの食堂である第二厨房――通称『王城の胃袋』――の下っ端として小娘の時に雇われた。


 だが旧イシュルス体制から勤めている頭の固い男の王宮料理人は、カルラを冷遇で迎えた。

 陰湿な嫌がらせはなかったが、泣き出す夜は多かった。


 それでも歯を食いしばって、なんとか続けてきたのは、最早意地だった。


 本当は後二人ほど女の料理人が雇われていたが、ようやく第二厨房の料理に携われるようになった時にはカルラしかいなかった。


 それから女盛りの青春を料理に捧げて、十数年経て、ようやくイシュルス料理の最前線といわれる第一厨房に配属なった。今年で二年目の下っ端ではあるが彼女はそれを誇っていた。


 だが、この町の数少ない女料理人の先駆者となったのだ。



 『王家の食卓』は料理人が一度は夢見る憧れだ。


 

 最高峰のイシュルス料理の伝統的技術を学び、一般では扱うことのできない最高の食材を扱うことができるのだ。

 

 雇われた当初は素晴らしいと思っていた『王城の胃袋』の食材も、ここでは極々普通に使われている。


 普通ならば一生口にすることもないであろう食材を調理できるのだ。



 この国を新たに作り変えた――そして、女の王宮料理人の道を開いた獅子王の為に。



 それが、ぱっと出てきた女に軽々しく請われて、カルラの怒りは爆発した。静止させようとする周りの声すら聞こえていない。

 

 悪魔のような形相で、敵意むき出しの言葉を浴びせたというのに、『でもぅ――』と、意外な事にリエは引き下がらなかった。

 

 またそれがカルラの怒りを煽る。


 感情のままに自分のきっちりと被られていたコック帽を取ると、リエに投げつけていた。

 カルラの誇りとプライドの象徴であり、王家の紋章の刺繍が入っている。


 『王家の食卓』の料理人がどよめく。


 




「だったら、食神しょくしんタイベルの名において、決闘を申し込む!アタイを倒してから、我侭いいな!!」






 カルラはこうして己の立場を確立し、言い分を通してきた。

 だから、第一、第二の厨房に関わらず『決闘料理人のカルラ』と呼ばれていた。



 伝統的な料理対決の申し込みに、リエは目を瞬かせていた。


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