No.84「逆攻勢」
少し時間を遡る。
撃神が背中にケーブルを刺し、宙に浮いた直後のことだ。
木々が生い茂る中、その背中を見上げる二つの影があった。
シロホンとティーだ。
ティーの首輪は既に外され、口には必須の青いキセルを咥えている。
「なんだアレ」
シロホンは上空の撃神を見上げ、呆れたように言った。
そして、視線を足元へ落とす。
「なんだコレ」
そこには、巨大な金属の杭に貫かれ、さらに金属の紐に巻きつかれたモドキが転がっていた。
ティーもその惨状に目を丸くする。
シロホンは屈み込み、金属の拘束を外そうと無造作に右手を伸ばした。
「何やってんだよお前は」
呆れ交じりに手を伸ばした、次の瞬間。
瀕死のはずのモドキが勢いよく飛び上がり、シロホンの中指と薬指に喰らいついた。
骨ごと噛みちぎった。
「ふんぬうううううう!!」
モドキの奇声に対し、シロホンは沈黙を選んだ。
表情を一切変えず、ゆっくりと立ち上がる。
「おれ様の豊満なボディーによくも風穴をおおお!! 許さん!!」
そして──強烈な踵落としを見舞った。
衝撃で、モドキに巻きついていた金属が粉砕される。
「ぬあああああ!?」
「噛み切るならその前に一言言え!!」
拘束から解放されたモドキが起き上がり叫び、シロホンが怒鳴り返す。
「すみません」
「噛み切るのは良いのかよ……」
即座に謝罪してしゅんとするモドキに、ティーは背後で冷や汗を流した。
「そんなことより早く合流を……」
「お、ティー君。ちゃんと解放されて……良かった」
ティーが焦燥を滲ませる中、モドキは呑気に再会を喜んでいる。
その時、上空の撃神が巨大な銃身を生成した。
「!! あ、アレ……金属に呪いが仕込んである」
ティーは撃神の背を見上げ、戦慄する。
「そこは問題ない」
シロホンは右手でモドキを掴み、左手でモドキの腹部に刺さったままの金属杭を雑に引き抜いた。
「よし、役割分担し……あああああっ!? 優しく抜いて!!」
モドキの絶叫が木霊する。
「ってかその身体で能力扱いきれるのか?」
「うん、まあ微妙! キャパ足りない!」
「おい」
シロホンが問う。
現在のモドキはマシュマロのような真ん丸な姿だ。
出力には限界がある。
とはいえ、本体に戻れる時間も限られている。
「まあ……いざという時はよろしく」
モドキは口元に他人の血をつけたまま、不敵に笑った。
◇
そして、現在。
撃神の金属生成により、巨大な銃身が虚空に構築されていた。
動力を電気、実弾を金属とし、その弾丸には呪いが込められている。
「攻撃が電撃主体でなくなれば、どうでしょう?」
撃神は冷たい瞳で見下ろしながら告げる。
辛は立っているのがやっとの状態だ。
背後ではヒユがアナナスを支え、凪が気絶した爪戯に寄り添っている。
ただの電気なら金属をアースにして防げるでしょう……ですが、能力で強化された攻撃だった為、熱による損失も利用したと言ったところですかね。
撃神は冷静に辛の行動を分析済みだ。
ですが、次はさらなる火力で障壁ごと物理的に突破しましょう。
仮に弾丸を破壊できたとしても、弾には呪いを込めておきますので……破片を媒介に呪いを発動させます。
撃神は轟音と共に弾丸を発射した。
「結界はもたねーぞ!」
辛の後ろからヒユが叫ぶ。
万事休すと思われたその時、どこからともなくティーの声が届いた。
「結界を張って身を守ってな」
「この声は……!」
ヒユが声のする方へ振り向く。
「オレが歌で補強する」
ティーの歌声、ヒユの印、アナナスの文字。
三つの力が重なり合い、三重結界が展開される。
「でもちょっと補強したぐらいじゃ……」
アナナスが諦観混じりに呟く。
つーか何処に居るんだよ、とヒユも小さく毒づいた。
「問題ない、奴の攻撃を防ぐ為の物じゃなくて──……」
ティーが言葉を紡ぐ中、シロホンが空中に生成した木の板の上を疾走していた。
音媒介『木琴』の能力により身体能力を強化し、加速する。
音速を超え、弾丸に追いつく。
シロホンは空中で身を翻し、強烈な回し蹴りで弾丸を蹴り砕いた。
「!?」
撃神の目が見開かれる。
追いつけるんですか……!
初速の出る電磁投射砲の弾丸に追いつく脚力。その事実に驚愕する。
「巻き添えを食らわない為の結界だからな……ってかすぐ物理で殴るよな」
ティーは腰から翼を広げ、空から舞い降りながら言った。
シロホンが弾丸を破壊した際の破片や衝撃波から、凪たちを守るための結界だったのだ。
撃神の目の前に着地したのはシロホン。
ヒユは兄の登場に露骨に嫌な顔を見せる。
金属には呪いを仕込んで──……発動しない!?
撃神は焦る。
弾丸は砕かれた。ならば破片から呪いが撒き散らされるはずだ。
そう言えば……私の呪いを無効化できる者が奴らの中に居ましたわね。
撃神は金属の壁で覆った際、二面だけ無効化された事実を思い出す。
シロホンは触れた対象に『印』をつけることができ、呪いを上書きできる。
弾丸を蹴り砕いたあの一瞬の接触で、弾丸全体に印をつけ、呪いの効果を上書きして無効化したのだ。
もう一撃……殺すためではなく、私が逃げる為の──……。
撃神は撤退を決断し、目くらましのために再度砲撃の準備に入る。
「お返しするぜ!!」
その背後を、モドキが捉えた。
巨大なシャチの姿で空中を遊泳し、その背には辛を乗せている。
「!!」
撃神が振り返る。
辛は金属生成で長大な刀を作り出し、すれ違いざまに撃神の腹を真一文字に斬り裂いた。
腹部が裂け、鮮血が空に散る。
撃神の口元からも赤が滲み出した。
私は……まだ……終わるわけには……。




