No.83「熱損失」
「あまりやりたくはないのですが……必ず殲滅いたします」
撃神が低い声で唸ると、地面が大きく隆起した。
地中から、血管のように太いケーブルの束が露出する。
「!!?」
凪達の眼が見開かれた。
露出したケーブルが、生き物のように撃神の背へと突き刺さる。
撃神自身も電気を生成できるが、これは火力を底上げするための外部供給源だ。
「『敵』以外も葬る可能性があるので、あまり好きではないのですが」
そう言い残し、撃神はケーブルに持ち上げられるようにして、自身の身体を天高くへと配置した。
凪達が呆然と見上げる。
撃神は大きく息を吸い込み──次の瞬間、口腔から巨大な電撃砲を放った。
撃神の姿すら覆い隠すほどの、極大の閃光。
標的が見えないんじゃ右眼が使えない……!
爪戯は冷や汗を流す。視認できなければ反射は不可能だ。
「アナナス!!」
絶望的な光の中で、ヒユが叫ぶ。
「はいな!」
アナナスが地を蹴り、ヒユのもとへ走る。
そして二人は同時に能力を発動させた。
『印』と『文字』による二重結界。
ヒユの印、アナナスの文字。異なる系統の呪いを重ね合わせ、強固な防壁を展開する。
二人の結界が、直撃した砲撃を食い止めた。
「防げてる……?」
凪の眼が見開かれる。
「!!」
しかし、次の瞬間──結界が崩壊した。
撃神の出力は、二人の計算を遥かに凌駕していたのだ。
轟音。
あたり一帯を更地にするほどの衝撃が走る。
虫や小動物であれば、存在ごと消滅していただろう。
土煙が舞い上がる中、空中の撃神は冷徹に地上を見下ろしていた。
建物の一部が崩れ去る中、全員が満身創痍ながらも生存していた。
「破壊できたとは言え、結界に阻まれて殺し損ねましたわね」
撃神が低く呟く。
結界は破壊されたが、致命的なエネルギーの緩衝材にはなった。
それにより、辛うじて命を繋いだのだ。
爪戯は凪を庇うように覆いかぶさり、意識を失っている。
凪は身体を起こし、震える声で問うた。
「あ、あんた……何でこんなことするの? 目的は何? 別の奴が崇高がどうとか言ってたけど」
負傷しながらも、凪は撃神の真意を問いただす。
「『敵』を滅ぼそうとするのは普通のことですわ。争いは悲しいですけれど……『敵』がいなくなれば平和になりますので」
撃神は両手を広げ、慈悲深げに語る。
彼女にとっての敵とは、すなわち悪魔とそれに味方する者すべてだ。
「……まあ今は、貴方達が大人しく捕まってくださるのでしたら……私は助かるのですが」
撃神の言葉に、凪は反論の言葉を失う。
狂信的な正義の前に、言葉は無力だ。
「まあ、その場合ここで死ぬよりもっと凄惨な──……奴らの実験体にされますけど」
撃神は人や悪魔を攫い、献上していた。
それは研究材料、実験体を集める為の行為だったのだ。
「犠牲は悲しいですけれど、我々神の糧となりますので」
撃神は涙を流しながらも、その口元は微笑みを湛えていた。
「ご安心ください。無駄にはしません」
「出来るか!! あほ!!」
撃神の歪んだ慈愛に対し、悪態をついたのはヒユだ。
「……」
辛は黙っていた。
さっきの攻撃は電気が主体……か。
冷静に状況を分析し、思考する。
今は捕獲よりもさっさと殺して、この場を退場いたしましょう。
撃神はそう判断し、再び口腔内に電気を収束させる。
「オレの後ろから結界を頼む」
「!!」
辛は短く告げ、ヒユとアナナスの前へと出た。
ヒユはアナナスを庇いながらも、その背中に頷く。
……正直、よく分からない。
状況も奴らの目的も、思想も思惑も──……でも失わない為に、今やれることをする。
辛は此処まで呪いの拘束により意識を失っていたため、状況の全貌は見えていない。
加えて撃神の独善的な理屈も理解不能だ。
けれども、脳裏に浮かぶのは弟が攫われた時の絶望や、凪達の顔。
もう失わない為に、彼は覚悟を決めた。
金属と火の気配──。
再びの轟音。
巨大な閃光と衝撃波が周囲を包み込む。
だが、空中に居る撃神の目が細められた。
金属で受け止めつつ、熱で消失を……能力で強化しているとは言え、このままでは障壁に阻まれてしまいますわね。
撃神は即座に現象を解明する。
辛は電気を「金属」で受け流しつつ、「火」の能力で金属自体に高熱を籠めた。
導体の温度上昇による電気抵抗の増大。
運動エネルギーを熱エネルギーへと変換し、霧散させる『熱損失』狙いだ。
しかし、辛は妖の身体ゆえに、火を使えば自傷ダメージを負う。
皮膚が焼ける激痛と熱さに耐えながら、彼は左手を前へと突き出し続けていた。
ならば──……。
撃神は次なる手を打つ。
金属生成により、巨大な銃身が虚空に構築された。
動力を電気とし、金属弾を超高速で撃ち出す算段だ。
「攻撃が電撃主体でなくなれば、どうでしょう?」
撃神は冷たい瞳で見下ろしながら告げる。
辛は立っているのがやっとの状態だ。
背後ではヒユがアナナスを支え、凪が気絶した爪戯に寄り添っている。
防衛手段を変えた次の一撃が、彼らを狙っていた。




