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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
呪物

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No.77「再構築」

 の国。屋敷。


 ルリが頬に手を当て、のんびりと口を開く。


「あ~らら。おかえり」


 目を覚ました爪戯つまぎなぎの眼が、驚愕に見開かれた。


「!?」


 気が付けば、彼女たちは屋敷へと戻っていたのだ。

 ルリの傍らには、モドキの『召喚喚起』で呼び出された小さなシャチが泳いでいる。

 そして床には血液の袋と、能力で描かれた『命』の鏡文字が、印として残されていた。


 ◇


 伍の国。郊外。

 此処は結界のギリギリ外側に位置する場所。


「うわああああああっ」


 牢屋の中から、悲痛な叫び声が木霊した。


「もうレタスはやめて!!」


 声の主はモドキだ。

 気絶している間に、アヴェルスにレタスを無理やり食べさせられる悪夢でも見ていたのだろう。


「煩い!!」


 叫び声に反応したのはシロホンの弟、ヒユである。


「あれ? ヒユ君?」


 モドキはヒユの方へ向き直る。

 近くにはかのとが意識を失ったまま倒れており、ヒユの隣にはアナナスがいた。


 全員がロープで拘束され、さらに札が貼られている。

 呪い系の能力、媒介は『札』。


「寝惚けてないで助けろ!!」

「無茶言うな」


 ヒユの要求に、モドキは即座に返した。


「この『札』のせいで能力封じられてるよ」

「使えないな」


 モドキが冷や汗を流して訴えるが、ヒユはきっぱりと言い放つ。


「そういうヒユも無力だよね」

「うるせっ!」


 アナナスの的確な指摘。

 ヒユに反論の語彙がないのか、ただ煩いとしか返せない。


「にしても、かのっち起きないな~」


 モドキは近くで眠る辛にすり寄り、心配そうに言った。


「あ!! そいつは!!」


 ヒユが声を荒げる。

 辛とヒユ、アナナスは、かつてきゅうの国にて刃を交えた間柄だ。


「その人、半分妖だから……人間用と妖用の、二つの呪いの効果を受けてるんだと思う」


 アナナスが冷静に分析する。

 ヒユは緩い顔つきに戻り、「ふ~ん」と興味なさげに呟いた。


「人間封じも妖封じも有効なのか」


 モドキも納得したように頷く。

 辛は妖由来の身体を持つが故に、毒には耐性がある。

 けれど呪いには脆い。

 二重の呪いを受け、意識が深淵に沈んだままだ。


「んで? ヒユ君達は何で捕まったの?」


 モドキが問う。

 目が覚めれば二人が同じ牢屋にいたのだ。当然の疑問である。


「ティーの野郎に偶然会って、急に動きを封じられたんだよ!」


 ヒユは怒気を露わにする。

 ヒユとアナナスもまた、ティーと遭遇し、歌によって強制的に眠らされたのだという。


「許さん! 兄貴に言いつける!」


 ヒユが子供のように叫ぶ。


「ヒユ、お兄さんのこと嫌いなのにそこ頼るんだ?」

「うるせっ!!」


 アナナスのツッコミに対し、やはり「うるせっ」以外を返せないヒユ。

 彼は兄のことを毛嫌いしているはずだが、窮地では頼りにしているようだ。


「……」


 ティー君……。


 モドキは黙ったまま、心の中で仲間の名を呼んだ。


 ◇


 とある一室。


 窓辺に、長い黒髪をなびかせる一人の女が佇んでいた。

 その後ろ、扉の前にはティーとルト、ハルが控えている。


「悲しいですけれど、献上は私の任務ですので」

「……」


 女──撃神うちがみが静かに口を開く。

 ティーは沈黙を守ったままだ。


()()を手に入れた今となっては、必要ないことですが……此方の動向を悟られない為にも、任務は果たすことに致しますわ」


 撃神は【あるもの】を既に手に入れていた。

 ティーの肩が、小刻みに震えている。


「……あの」


 ティーが口を開く。


「ああ、そうでしたわ」


 撃神は手に持っていた青い棒状の物を、放るようにティーへと渡した。


「悲しい生き物ですわね、貴方って人は──……」


 ◇


 再び伍の国。屋敷。


「そうだ!! 変な頭の人の歌聴いて、寝ちゃって!!」


 凪は目を丸くしたまま頭を抱えた。

 視線の先では、小さなシャチが空中を泳いでいる。


「きみ達二人は何とか逃がせたけど、辛君とモドキさんは敵に連れていかれたって言ってる」


 ルリは小さなシャチを掌の上に乗せ、その意思を凪達に代弁する。


「た、助けに──……」


 爪戯が焦燥を滲ませる。


「でも何処に!?」


 凪は混乱したままだ。


「場所は分かるよ。ただ……うちは手を貸してあげられないから──……」


 ルリはこの屋敷を離れられない。

 居場所については、モドキの放ったシャチからの情報提供で特定できるようだが、直接の加勢は不可能だ。


「あ、そろそろ来るよ!」

「?」


 唐突なルリの言葉に、凪達が首を傾げる。


 床に描かれた『命』の鏡文字。

 そこから強烈な能力の気配が立ち昇る。

 ルリはその印を指さした。


「!?」


 凪と爪戯の目が見開かれる。


 硬質な音を立てて、血液の中から何かが浮き上がっていく。


「な、何? 文字が……!?」


 浮き上がった血液は、瞬く間に人の手の形をとった。

 その爪には『命』の文字が刻まれている。


 手から腕、胴体へと、急速に身体が構築されていく。


「はぁ~……この方法は疲れる……」


 身体が完全に出来上がると、そこに現れたのはシロホンだった。


 右腕には『命』の文字が三つ。

 背中にも同様の文字が刻まれている。


「!?」

「シンもマナも持っていかれる」


 凪と爪戯は呆気にとられ、眼が点になっていた。

 ルリだけが、変わらぬ緩い笑顔を浮かべている。


 全裸の男が、平然と胡坐をかいて座っている光景。

 あまりの事態に、凪と爪戯は言葉を失った。

 そんな二人を、シロホンは黙って見つめ返す。


 奇妙な沈黙が場を支配する。


「え……何? 今の何?」


 爪戯は目の前で起きた現象を理解できず、震える指で男を指さした。

 その横で凪は、両手で顔を覆いながら呟いた。


「ありがとうございます」


「あんた吸血鬼だよね?」


 爪戯の指摘はもっともだ。

 シロホンは吸血鬼であり、魔女ではない。

 空間移動と言えば、魔女であるモドキの得意技のはずだ。


「なんでお前らがいるんだよ」


 シロホンは不機嫌そうに言った。まさか部屋に先客がいるとは思っていなかったらしい。


「シロホンは、触れたところに『印』をつけることが出来て……その『印』に向かってマナを飛ばして身体を再構築。こうして強引に遠距離を移動したんだよ」


 ルリが解説する。

 呪い系の能力、媒介『印』。

 印により効果は変わるが、今回は『命』の印へ向かってマナを飛ばし、吸血鬼の肉体再生能力を応用して身体を再構築したのだ。


「シンとマナ、両方使うの!」

「便利過ぎない?」


 ルリの補足に、爪戯が呆れたように返す。

 呪い系の能力はシンを使う。そして、再構築はマナを使う。

 膨大なエネルギーを消費する荒業だ。


 凪は爪戯の横で、理解が追いつかないのか首を傾げ続けていた。


「それで、何で此処に?」

「……まあ、なんていうか──……」


 爪戯が突如現れたシロホンに疑問を投げかける。

 シロホンは部屋のクローゼットを勝手に開き、適当な服を見繕って着替えながら答えた。


 ◇


 少し時間を遡る。玖の国にて。


「それで、オレに何をしろと?」


 ピアノの前でシロホンが問うた。

 スズノとキルキーが近くを浮遊している。


『スズノ……まだ言ってないのですか?』


 キルキーが冷ややかに刃をスズノへ向けた。


『だって言おうとしたら姐さんが! 出てきたから!』

『私のせいですか』


 スズノは冷や汗を吹き出しながら言い訳をする。

 キルキーは冷静だが、刃を仕舞う気配はない。


 シロホンはその茶番を冷めた目で見ていた。

 そして、キれる。


「あ゛ぁ?」


 早く言えと言わんばかりの低い怒号。


『いや! だから!! 謹慎処分中にヒユが抜けだして! んで、捕まったんだよ!』


 スズノが早口でまくし立てる。

 ヒユが脱走したことを伝えに来たものの、肝心のその先を言えずにいたのだ。


『それを伝えに来たんだぜ!』

「早く言え!!」


 スズノは誤魔化すように天井を見上げる。

 シロホンは怒りを露わにしつつも、内心では弟ヒユの行動に呆れ返っていた。


「場所は?」


 シロホンはピアノの椅子から立ち上がる。


『伍の国郊外です』


 キルキーが即答した。


「此処からなら、印の方が早いか」


 シロホンは決断する。

 普通に向かうより、予め設置しておいた印へ飛び、再構築した方が早い。


『気になる音とシンについては、こちらで調査いたします』

『いってら~』


 キルキーはシロホンが気にしていた音の正体と、自身が捕捉したシンについて調べるつもりのようだ。

 スズノと共に窓へと寄り、すり抜けて外へと消えていった。


 ◇


 そして現在。


「捕まるという、醜態を晒した愚弟を……一発ぶん殴る為にオレは来た」


 シロホンは着替えを終えると、右手で拳を作りながら言った。

 爪戯はその様子を見ながら、「素直になれよ」と小さく呟く。

 助けに来たんだろ、とツッコミたかったのだ。


「で? こいつらは?」

「きみと同じだよ。はい、血をどうぞ」


 シロホンが凪と爪戯の存在を問うと、ルリは変わらぬ笑顔で輸血パックを差し出した。

 シロホンの悪魔としての能力には代償がある。

 定期的な吸血が不可欠なのだ。


「そうなの!! 辛君達を助けなきゃ!!」


 凪は冷や汗をかき、焦りを露わにする。


「てなわけで、よろ」


 ルリが軽く言った。


「まあいい……守ってはやれないから、そこは自分でなんとかしろよ」


 シロホンは血液をあおり、黒い上着の裾をはためかせながら言い放った。

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