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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
襲撃

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No.54「大気型」

 過去。


「困ったことがあったら訪ねておいで」


 木々が並ぶ中、地面に座り込んでいた軍服姿の(かのと)にそう告げたのは、デュオラスだった。


 現在。

 の国。


「体調はどう?」


 デュオラスの妹──ルリが団子を口に運びながら尋ねた。


「いつも通りだよ」


 デュオラスの背中には、無数のチューブが繋がれている。

 病弱な彼は、そうして命を繋ぎ止めながら、ヤナギに頼まれた通りトマトへの水やりを行っていた。


「あっちもどうなった? 大丈夫?」


 ルリは団子を頬張ったまま聞いた。

 心配というよりは、単なる興味本位の響きだ。


「無事だよ」


 デュオラスは答える。

 遠隔地の状況を把握し、(かのと)たちの無事を告げた。


「でも、これからも狙われるのでは?」


 ルリの懸念はもっともである。

 一度目をつけられれば、神の追跡は終わらない。


「【要因】は元々持っているよ。まあ……全員が知っているというわけではないみたいだけど」


 要因──彼らが抱える欠落や異質さのことだ。

 だが、敵対する神のすべてが、その情報を共有しているわけではないようだ。

 デュオラスは冷静に状況を分析していた。


 ◇


 (きゅう)の国。

 宿の一室。


「なんか色々あった……」


 (なぎ)は布団の中で小さく呟いた。


 脳裏をよぎるのは、塩神(しおがみ)が妖に貪り食われる光景。

 それを想起しながらも特段の感慨を抱けぬ己に、我ながら薄情だと自嘲する。


「今更か……」


 (なぎ)は敵に対して同情をしない。


 神は敵……?

 私の母親を殺したのもあんた達?

 悪魔と神が対立しているのなら、悪魔は蝶神(ちょうがみ)さんも殺すの?


 答えの出ない問いが、(なぎ)の思考を巡る。


「……」


 廊下では(かのと)が窓の外を見ていた。

 漆黒の闇に包まれた外の景色を、ただじっと見つめている。

 戦闘での負傷は、(なぎ)の治癒能力によってすでに回復していた。


「本気を出せば勝っていた」


 背後から声がした。

 だが、(かのと)は振り返らない。


「まあ、流石に君の能力では塩の方は無理だったろうけど」


 声をかけたのは(きゅう)。この国の王だ。

 顔は「玖」の文字が書かれた布で覆われており、表情は窺えない。


「石の方はわけなかったと思うけどね。でも使わなかった……『火』は相変わらず」


 (きゅう)の言葉に、(かのと)は沈黙を守る。

 (かのと)は半妖という体質ゆえ、火を使うことを極端に忌避する傾向にある。

 しかし今回に限っては──……


「いや、最大の原因はあの二人か。あの二人がいなければ(ごん)でも──……そもそも君の能力は殺戮向けだから」


 (きゅう)の指摘は的を射ていた。

 (かのと)が本気を出せば、周囲の人命はおろか、動植物や環境そのものまでも変質させ、破壊し尽くすことが可能だ。

 だが、彼はそれを行わない。


「……ああ、別に意地悪を言いに来たわけではなくて。今のままじゃ困るから──……最悪、あの二人を切り捨てるくらいのつもりでいてよ」


 そう言い残し、(きゅう)の分身は掻き消えるように姿を消した。


 (かのと)は一切振り返らなかった。

 (きゅう)は、(かのと)に敗北を許さない。

 たとえ仲間を切り捨ててでも、神に勝てと命じたのだ。


 (かのと)は思考を巡らせる。

 初対面の折から、苦手だった。

 気配や雰囲気だけではない。人として、根本的に相容れないものを感じる。


 (かのと)は無言のまま部屋へと戻った。


「そう言えば、短剣悪かったな。使い捨てて」


 部屋に戻ると、座っていたシロホンに声をかけられた。

 彼の右腕には弟ヒユと同じく『命』の文字が三つ。爪にも同様の文字が刻まれている。

 手には酒瓶。

 ちなみに、彼は底なしの酒豪である。


「……」

「なんか言えよ! 何か! 餓鬼が!」


 (かのと)の無反応さに、シロホンが声を荒らげる。

 そんな殺伐とした空気の中、部屋の片隅ではかるた大会が行われていた。


「人にものを返せないシロホンはろくな大人じゃないけどね」

「お前らは何遊んでんだよ」


 かるたの札を凝視するヤナギがぽつりと呟き、シロホンが即座に反応する。


 読み手は爪戯(つまぎ)

 かるたを囲むのはヤナギとその使役精霊たちだ。


「シロホンは物を返せなかったお詫びとして、お兄さんたちの手助けをするのはどう?」


 ヤナギが提案する。


「血の補給はどうするんだよ」


 シロホンが返す。

 現在、彼は吸血鬼の能力を発動させている最中だ。

 定期的に他者の血を補給しなければならない。もっともな反論である。


「武器ぐらいいつでも作れる、それより……いや、いい」


 (かのと)は何かを言いかけて口を噤んだ。

 その様子に、爪戯(つまぎ)が不思議そうに首を傾げる。


 精霊のスズノがかるたを取り、嬉しそうに掲げた。

 キルキーがそれを褒め称えている。


「そう言えばどこを目指していたの?」

「目指す?」

「場所、目的地」

「あ……えっと“羽方”?」


 ヤナギの問いに爪戯(つまぎ)が答えた。


「じゃあ、子孫の不始末は先祖に任せよう?」


 ヤナギがそう言うと、ハクレイが何処からともなく、モドキの“ましゅまろモード”を引きずりだした。


「やめろ! せっかく隠れていたのに!」


 モドキは白くて丸いフォルム──通称“ましゅまろモード”のまま抗議の声を上げる。


「つか! 先祖はご主人様だろ!」


 怒りながらモドキが叫ぶ。


「居たんだ?」


 爪戯(つまぎ)は目を丸くして呟く。


「オレは認めねーぞ! アレが先祖? ふざけるな!」


 短気なシロホンも声を荒らげた。


「事実じゃん」


 ヤナギが冷静に指摘する。


「ま~~~~いいけど~~超ぷりてぃなおれの心は海のように広く澄んでて~優し~~から。どこへでも送ってやるぜ」


 モドキは尻尾を振りながら調子よく言った。


「で? Y氏はどうするの?」

「ボクは一度戻ってシンを置いて来るよ」


 モドキがヤナギに問う。

 ヤナギは今回回収した塩神(しおがみ)石神(いしがみ)のシンを、本拠地に保管してくるつもりだ。


 そんなやり取りの最中、スズノが取ったかるたの札をモドキの柔らかいボディに突き刺して遊び始めた。


「だからやなんだよ、お前らああああ!」

「うるせえな!」


 モドキの悲鳴とシロホンの怒声が部屋に木霊した。


 ◇


 翌朝。


 宿屋の玄関前。

 旅支度を整えた(かのと)(なぎ)爪戯(つまぎ)の三人が並んでいた。


「え……これが一瞬で移動させてくれるの?」

「そうそう」


 (なぎ)が驚きの声を上げる。

 爪戯(つまぎ)(かのと)は、既にその利便性を経験済みである。


「これって失礼な!」


 モドキは軽く抗議したが、本気で怒っているわけではない。


「ま! 能力を使えば一瞬だけど、“羽方”くらいなら飛んで行こうか」


 そう告げ、モドキは形態を変化させる。

 白い身体が瞬く間に黒へと染まっていく。


「偶にはイイだろ」

 

 黒く、シャチのような流線型の姿に、ドラゴンのような強靭な翼が生えた魔物へと変貌を遂げた。


「乗りなよ」


 目の前の光景に、(なぎ)は目を丸くした。

 爪戯(つまぎ)も同様に驚いたが、その理由は異なる。


 初対面の折は、四足のシャチを思わせる姿だったからだ。

 さらに別の形態が存在するとは予想していなかった。


 (かのと)は相変わらず表情を変えることなく、無言のままその姿を見つめていた。

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