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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
襲撃

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No.46「不成立」

 スズノの案内に従って道を急ぎながら、爪戯つまぎかのとと離れている間に起きた出来事を説明した。


「で、現れたのが神だった」

「……」


 かのと爪戯つまぎの顔を見てしっかりと話を聞いているようではあるが、相変わらず返事はしなかった。


「っていうか“魔女”って何?」


 なぎを追いかけるためには、まず“魔女”に会いに行く必要があると言う。


「“悪魔”の種類の一つさ。ほら、そこ!」


 スズノが示した場所は、森の中の公園になっていて、ベンチには人ならざる丸い影が見えた。


「アレだ!」


 近づくと、まん丸な体に背びれのような突起と、先にハートがついた尻尾がついた生き物が、鼻提灯を作りながら居眠りしていた。


「こいつが? この饅頭が??」


 “魔女”と呼ぶには、あまりにも愛らしい見た目の小さな生き物だった。


「コレはこいつの姿の一つだ。ましゅまろ形態だ」

「げへへへへぇ、もう~ご主人様~こんなにたくさんの魚食べきれませんて~」


 魔女は、よだれを垂らしながら寝言を言った。夢の中では食事中らしく、幸せそうな表情をしている。


「おーい起きろ!」

「んにゃ~?」


 スズノがぺちっとはたくと、魔女はようやく眠りから目を覚ました。


「ひえええええっごめんなさい! ご主人様あぁぁあぁ!」


 魔女は寝ぼけて騒ぎながら、炸裂音を立てて辺りを煙だらけにした。


「ご主人様がなかなか帰って来ないから~ちょ~っと居眠りしてただけです~!」


 煙が霧散していくと、さきほどの丸い生き物だったものが姿を変えて現れた。


「今からは働くから! 頑張るから! 背ビレ取るのとご飯抜きは勘弁してくださいよおぉぉぉぉお!」


 脚の生えたシャチだ。

 椅子の上にちょこんと小さく眠っていた魔女は、その五倍ほどの大きさの脚のあるシャチの姿に変化した。


「あれ~? ご主人様は?」


 ご主人に起こされたと思っていたらしい魔女は、スズノが話しかけるとそれを遮ってマイペースに騒ぎだした。


「うっわ! Y氏のじゃん! うぁあああぁあ、トマトとか言って血塗れにしてくる電波なあの子じゃん! ご主人様と“同類”で苦手!」

「畜生の分際で言いたい放題言いやがって。貴様のトマト抜くぞ」

「ひぇっ」

「あ……あの……」


 盛り上がる二匹に爪戯つまぎが割って入ると、スズノは改めて魔女を二人に紹介した。


「あぁ……こいつが二番目の悪魔──……“魔女”、シュヴェールトヴァール=プレートテーヤだ」

「長いからシャチモドキとかで良いよ」


 魔女改め、シャチモドキは爪戯つまぎかのとへ向き直り、フレンドリーに話しかけた。


「……? 二番目……?」

「……」

「それより……」

「あ~いや、何となく察しはついてるよ。おれの能力で移動がしたいって話だよね? 位置情報教えて」


 シャチモドキはかのとの目的を察した。


「今送る」


 スズノは羽衣の先をシャチモドキの額に触れさせた。それで位置情報が伝わるらしく、シャチモドキは頷いた。


「うん、大丈夫。行けるよ。それじゃあ行きますか!」

「……! 行きますかって……」

「な~に、おれの能力を使えば一瞬さ」


 張り切るシャチモドキに爪戯つまぎが戸惑っていると、シャチモドキは能力を展開した。

 シャチモドキが地面に触れると、晴れた部分を中心に黒いモヤが辺りに広がり、そこにいる全員を包みこんだ。


 ◇


 神に攫われたなぎは、鍵神かぎがみの能力で開いた扉の奥に進んでいった。

 出口につくと、そこは先ほどまでいたはずの宿の周辺とは全く違う景色が広がっていた。


「本当に此処か? 別に良いけど」


 随分遠くに転移したのか、塩神しおがみ自身もその行先については把握していないらしく、辺鄙なところだと呟いた。

 辺りにはあまり民家や店もなく、一軒の家がぽつんと建っているだけだった。

 塩神しおがみが辺りの様子を探っていると、その体質故に空飛ぶ蛇のようなあやかしが寄って来て、塩神しおがみにかぶりつこうと大口を開けた。


「はあ……あやかしが寄ってきやがる」


 あやかしに寄られることが日常茶飯の塩神しおがみは、面倒くさそうに言った。

 あやかしは死角から襲おうとしていたが、塩神しおがみは視線もやらずに能力であやかしを瞬殺した。

 あやかしの身体は塩になってさらさらと地面に落ちていく。

 茶屋の前に塩の山ができていたのも、おそらく同じようにあやかしを処理したからだろう。

 なぎはまだ巨大な石の手に拘束されており、その様子を後ろから見ていた。


「あれが砂糖なら良いのに」


 塩神しおがみはいつものようにぼやいている。


「あんたら何が目的なの?」


 なぎにはここまで自分だけが連れてこられた理由について、全く見当もついていなかった。


「すぐに分かるよ~!」


 こいしは明るく返事をし、二人はなぎを連れて家の中に入って行った。


「にしても誰もいない……?」

「護衛兵とか居ないね~」


 家の中はしんと静まりかえっており、灯りもついていない。しかし、廊下を進んでいくと札で結界を張られた引き戸に行き当たった。

 塩神しおがみは手をかざして壁ごと塩に変え、その中に押し入った。


「どうも~初めまして! 一応挨拶!」


 結界で守られていた部屋の中には、きゅうがいた。きゅうはたった一人で上段の間に正座し、巻物を読んでいるところだった。


「……」


 神二人が話しかけても、きゅうは返事をしなかった。顔全体を、きゅうという字を書いた布で覆っている為に、表情を読み取ることもできない。


「まあいいや。それは置いておいて、今日はお願いが在って来たわけで」


 塩神しおがみきゅうを見つめ、きっぱりとした口調で言った。


「この国をボクら“神”に渡して下さい」

「!?」


 なぎは二人の発言に息を飲んだ。


「はあ? 何言ってんの!? 意味不明なんだけど!?」

「え? 何ってそのままの意味だよ?」


 なぎとこいしが言い合っていると、きゅうがようやく口を開いた。


「本当に何言ってんの」


 取り乱す様子もなく、冷たく突き放すような言い方だった。


「わざわざ出向いてんだけど!? 何その言い方、交渉しに来たのに」

「呼んでないし」

「って、コレ姫だよね?」


 取り付く島もないきゅうの様子に、塩神しおがみなぎを指して言った。


「娘? にしては似てないけど、殺しても良いの?」


 きゅうは一瞬(なぎ)の方に顔を向け、しかし迷う素振りも見せずすぐに答えた。


「どうぞお好きに」


 場の空気が冷えるようなその物言いに、神が黙るときゅうはさらに続けた。


「話にならないね。その小娘一人にそれだけの価値があると思ったの?」


 塩神しおがみは一度大きくため息をついた。


「穏便に済ませようって配慮だよ」

「その娘一人の命と国民すべての命だったら──……迷わず国民を取るよ」


 迷う余地もなく断言するきゅうからは、殺気のような圧が発せられていた。


「……はあ、今ここで国を渡してくれたらボクたちが攻め入ることは無いんだけど? 国民のことを思うならなおさら今ここで……この女と引き換えにでもすべきでは?」

「君達のしようとしていることは知っている。だからこそ渡せない。たとえ君達“神”と戦うことになっても、ね」


 なぎは何も言わずきゅうをじっと見つめた。

 思うように話が進まず、塩神しおがみは苛立ちを見せ始めた。


「それ、なんか矛盾してない? まあいいや。交渉決裂ってことで」


 塩神しおがみが手を翳し、攻撃の構えを見せた瞬間。天井から黒いモヤが現れ、中からかのと爪戯つまぎが姿を現した。


「キミは──……」


 塩神しおがみかのとを見て、すぐに以前会ったことがある者だと気づいたようだった。

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