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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
襲撃

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40/70

No.40「即死撃」

 なぎ達が滞在している宿の玄関前。


「報告します! 民家を破壊し、その住人を殺害。そして──……悪魔と接点を持ったようです!」


 かのとがかつて属していたあやかし退治の軍の男が、夜の闇に紛れて音もなく現れ、同じく軍服を纏った女に駆け寄った。男は、頭に鉢巻を巻いており、腰には抜き身でも光を放つような刀を差している。


「悪魔、あやかし、退治対象」


 報告を聞いた小柄な女は無機質にそう言い、目の前の門扉を真っすぐ見つめた。

 そこにはもう一人、軍とは関係のない黒いフードを頭から深く被った男が一緒に立っていた。


「こっちは仲間に加えて貰えて感謝だよ」

「こちらの邪魔さえしなければ好きにすれば良い!」


 宿の周りは木々に囲まれ、夜は一層しんと静まりかえっている。人通りもなく、三人の不穏な動きに気づく者は誰もいない。

 女は、氷点下の冷たい声で号令を下した。


「……退治開始」


 ◇


 ヤナギ達の会話を聞いてしまったなぎは、真っ先にかのとの顔を思い浮かべた。

 笑うことが出来ない。

 確かにかのとはいつも無口で不愛想だが、しないのではなく出来ないと説明されたことは無かった。

 しかし、なぎは無視できない違和感が残り、記憶を辿ると爪戯つまぎの家で刺客に狙われた際に蝶神ちょうがみが刺客に言っていた言葉が脳裏に浮かんだ。

 あの子の何を知っているの。

 蝶神ちょうがみはその時、かのとを化け物扱いした刺客に怒りを露わにしていた。

 周囲の人々から嫌われて、命も狙われて、笑うこともできない。

 確か蝶神ちょうがみさんもそんなこと言って。


「盗み聞きとは良い趣味してるね♪ おね~さんっ!」


 なぎの肩が大きく揺れた。過去の会話を辿るのに集中し過ぎてしまった。

 いつの間に。

 振り返るとヤナギとシロホンが立ち止まり、なぎをじっと見ていた。なぎは慌ててしどろもどろに言い訳を連ねた。


「あの、いや~偶然偶々居合わせただけで、決して盗み聞きが趣味ではなく!」

「でもお姉さんはボクらの会話を聞いてしまったよね?」

「あ、いや……」


 これで責められでもしたら武力的に分が悪すぎる。ただでさえ戦闘力がないのがなぎの悩みだと言うのに、今はかのとの短剣すら持っていない。丸腰だ。


「確かに聞いたけど、意味がよく分からなかったというか。あ……聞いちゃ駄目だった感じ? それはごめんなさい忘れるから!」

「いや別に良いよ」

「ですよね~駄目ですよね~ああごめんなさい命だけはとらないで……って良いのかよ!!」


 なぎは慌てて敵意がないことを示そうと必死になったが、ヤナギは拍子抜けするほどあっさりとしていた。


「じゃあさっきの無いとかってどういう……」

「んんんんー? そのままの意味だよ?」


 ヤナギは大したことがないように言い、詳細が気になっているなぎを置いてさっさと温泉のある方へ歩き始めてしまう。


「ほいじゃ! 後は任せたぜシロホン! ボクは先に行く!」


 脱衣場の暖簾をくぐり、ヤナギは振り返ってシロホンに向けて親指を立てた。


「何故オレが」

「だってお風呂に入りたいんだよ~。あ! 誰も入って来ないように見張っててね」

「いや無理だろ不法占拠すんな」


 悪魔二人だけの会話に置いていかれ、なぎは疑問符を浮かべながらそこに立ち尽くした。


「それと……二人っきりになったからって女の子に手を出すなよ~」

「ねーよ。オレの過去知ってて言うな」

「えー? でもAさんはそんな感じじゃん? つまりキミも~」

「いや違うだろ! ってか一緒にすんな!」


 悪魔達が騒ぐ中、廊下の窓の端にはあやかしの影がちらついていた。


 ◇


爪戯つまぎ!」


 短剣を取りに戻ったなぎと分かれたかのと爪戯つまぎは、ちょうど自分たちの部屋の前に到着する頃だった。


「え……その声……兄さん!?」

「久しぶり」


 廊下の奥から現れたのは、黒いフードを被った男――爪戯つまぎの兄だった。


「え……何? 急に現れて」


 爪戯つまぎは兄の来訪に、驚きよりも面倒くさそうに顔をしかめた。


「あーかのと、先に部屋に入ってて」

「……」


 かのとが部屋に入ると、爪戯つまぎは廊下に立ったまま兄に話しかけた。


「そういえばさ。家、飛び出して“悪魔探し”してたんだっけ?」

「そう。だからお前が悪魔と遭遇したと聞いて──……その悪魔どんな奴だった?」


 兄は何故かフードの先を摘まんで深くかぶり直し、顔を隠すように会話をしている。


「どうって言われても……」


 爪戯つまぎは直近四人の悪魔に遭遇していた。その内二人はつい先ほどまで同じ卓について食事をしていたヤナギとシロホン。そして残りは戦闘途中でヤナギ達に連れ戻されたヒユとアナナス。悪魔と一口に言っても、それぞれが自分たちに対する態度が余りに違うので、説明が難しい。


「“鬼”は居た?」

「“鬼”? う~ん、確か“めおに”って言ってた……違うの?」


 爪戯つまぎはアナナスの顔を思い浮かべて言った。


「それは顔がないのが特徴の奴だろ? “鬼”の特徴はそのまま……“角”。額に“角”が生えた存在。そいつのせいで姉さんとオレは──……」


 そこまで言って、兄は憎しみが収まらないといった様子でギリッと音が鳴るほど強く歯ぎしりをした。兄はその間、目当ての鬼の顔を鮮明に思い浮かべているようだった。


「会っていないなら良いんだ……」


 そう言いながら、兄はフードを押さえて顔を隠すような仕草を繰り返している。


「ところで爪戯つまぎ


 用はそれで済んだのかと思いきや、兄の纏う空気がそこで突然、絶対零度の冷ややかなものに変わった。


「さっきのアレ──……殺害対象だよね?」


 瞬間的に兄の発言の意図を理解した爪戯つまぎは、部屋の戸にさっと手をかけた。かのとを守らなければ。


かのとっ」


 戸が開かない。

 兄が爪戯つまぎに声をかけたのは、かのとだけを部屋に入れる為か。


「母さんは失敗したから粛清された」


 焦る爪戯つまぎをよそに、兄は淡々と話を続けた。


「何故それを……」

「だからオレが殺っても良かったんだけど……殺りたいって希望者が他にいてね──……何でも“あの化け物”に過去に仲間を殺されたらしい」


 ◇


 一方、一人で部屋に入ったかのとは、戸を閉めてすぐに室内に異様な違和感を覚えた。


「……?」


 電気を点ける前の部屋は暗く、視覚では何も判断できない。かのとは、戸にそっと手を触れようと腕を伸ばした。

 バチッ。その瞬間、かのとの手に激しい痛みが走り、戸はかのとが触れるのを拒絶した。


「結界を張る為の媒介ふだ──……部屋に入ったら発動するようにした」


 何も見えない暗闇に、突然男の声が響いた。


「そして札の表面にはあやかし除けの文字を刻んである。やはり」


 その侵入者の声に、かのとは聞き覚えがあった。同じ軍に所属していた男の声。


「おまえはてきだったんだ」


 濃密な憎しみが込められた声と殺気は、かのとの真後ろに迫っていた。男が刀の柄に手をやる音がする。

 かのとは勢いよく後ろへ振り返った。


 ◇


「それであの──……」


 ヤナギは湯の方へ行ってしまい、なぎは残されたシロホンに先ほどの話の詳細を聞き出そうとしていた。


「オレが知るか」

「え……ええー……」


 シロホンは腕を組み、なぎを見据えた。


「つーかお前に言いそびれたから今言っておくが。オレも“良い人”ではない」


 食事の際に、なぎが言った悪魔も悪い人だけではないと思うという発言に対して、シロホンも己の立ち位置をはっきりさせておきたいようだ。


「むしろ人としては最低」

「……」


 シロホンは過去を見つめるような遠い目をして言った。

 そもそもなぎは良い人とも言っていないのだが、こうして自分の何かしらの行いを最低だと自認しているのであれば、それはむしろ誠実であるようにも見えた。


「人間良いところも悪いところもあるって! 私も“敵”相手なら簡単に見捨てるし」


 なぎはため息をつきながら言った。なぎ自身、治癒能力を持っていても敵ならば放っておくし、武器を持ち戦うこともある。そこには悪魔かそうでないかは関係はないだろう。


「あ、そうだ。私行かなきゃ! じゃ~の!」

「さっさと行け」


 手を振るなぎを、シロホンは腕組みしたまま見送った。


「あ」


 そーいえば忘れてた。

 シロホンは去って行ったなぎに伝え忘れたことがあるのを思い出したが、それより先ほどからこちらの様子を窺っている人影の方が気になっていた。


「で? お前は何のアレだ?」


 殺気は、シロホンのすぐ後ろまで迫っているようで、なぎのことに構う余裕は無さそうだった。

 後でいいか。

 シロホンの問いに答えたのは女の声だった。


「個人的仇討」

「!? お前は……」


 シロホンが振り返った時に見えた見覚えのある女の容姿に、思わず声が出た。

 しかしまともな会話を交わす前に、女が繰り出した閃光のような一撃が、シロホンの左目ごと顔を貫通した。


「ん?」


 肉を抉る音が響く。

 攻撃がまともに当たり、顔に大きな穴を開け肉塊と血を撒き散らす嫌な音が廊下に響いた。なぎが何事かと振り返ると、さっきまで普通に話していたシロホンが、頭部を欠損させ血を噴き出して後ろに倒れていくところだった。

 えっ。

 重い音を立て、倒れたシロホンは血まみれで廊下に転がり、ぴくりとも動かない。

 シロホンを攻撃した軍服の小柄な女は、無残な姿になったシロホンを見て、淑やかに笑った。


「仇討完了」

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