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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
溶解

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No.34「溶ける」

「ラル……どうして此処に?」

「なかなか帰って来ないから心配して来てあげたんじゃない。お姉ちゃん甘いところあるし」


 先ほど爪戯つまぎと戦った少女──ラルは、なぎに擬態している女のことを姉と呼んだ。姉は変身能力を応用し、かのとに斬られた傷口を視覚的に隠している。怪我が治ったわけではないが、これで周りからは無傷に見える状態になっていた。

 爆発で全壊した家の跡地で、少年となぎ達はまだ立ち話をしている。姉妹はその様子が見える木陰に潜んでいた。


「まあ良いわ。今はあの女を捕獲し残りを殺す。“シン”を探すのはその後で」

「……ん?」

「報告によれば、あいつらにエマ達は殺された──……」


 ラルの言うあの女はなぎのことで、あいつらはかのと先日妖あやかしの能力で同士討ちさせ殺した二人のことだった。エマ達のことを思い浮かべた時、ラルの表情は強張った。仲間への情か、それとも戦力減への焦りか。


「私的にはあの女も殺してしまいたいけど。ぶつかって痛かったのよ」


 ラルは殺すことに対してはなんの抵抗もなさそうで、そんなことよりなぎへの個人的な怒りの方が上回っているようだった。そんな妹に対し、姉は話を聞いてもどこか上の空だった。


「……」

「“生きたまま捕獲”がお望みらしいのよね」

「あの少年も」

「はあ?」

「……何でもない」


 姉は何か思うところがあるようだったが、すぐに発言を引っ込めた。何かを見据えるようなその目は、姿はなぎを模していても本物のなぎとは異なる、冷徹な光を帯びていた。


「ふーん。さっさと片付けて“シン”を探すわよ」


 ◇


 少年の家があった場所は、今や瓦礫の山となっており、むせ返るような土煙が舞っていた。


「へー“シン”を狙った犯行? か~。チカラが欲しいってことか」


 なぎ爪戯つまぎに、地下室で起こったこと、女が「シン」を探していたことを一通り説明した。


「でもさ、“シン”って体内にある能力発動のエネルギーよね? 実体とかあるの?」


 少年の母に化けてしばらく家に潜伏していたということに、なぎが腑に落ちず疑問を口にすると、かのとが静かに口を開いた。


「体外に取り出すと球形で安定し、青色を放つ……」

かのと君知ってるの?」

「昔、蝶神ちょうがみが──……」


 ◇


 回想。

 シンを取り出すことについて聞いたのは、かのとが今より少し昔、蝶神ちょうがみに能力の使い方を習っていたときのこと。

 かのとは金属の能力で刀を作るということを安定してできるようになっており、その日も生成した刀でひたすらに素振りをしていた。


蝶神ちょうがみ……」

「何?」

「神様……も……死ぬ?」

「ええ、死ぬわ」


 蝶神ちょうがみはその日は全身真っ黒の喪服のような装いで、岩に腰をかけて穏やかな顔で言った。


「神なんて呼ばれているけど人間だもの。神ってのは“神のシン《オリジナル》”を持つ者のことで……コピー物との違いは何だと思う?」


 かのとは、答えが分からず首を横に振った。


「“シン”の容量が大きく出力も大きい。つまり、強力な能力の使い方が出来る。そしてそれを抑えた劣化コピーの“シン”を人間に与えることが可能。更にさらに! おまけとして不老長寿になるの」


 かのと蝶神ちょうがみの説明を真剣な眼差しで聞いた。


「一般の能力者との違いはそんな感じね。後は、保有可能な数くらい。ただ“神のシン”を持っているだけで不老にはなれるけど、不死にはなれないの」


 神が持つオリジナルのシンは一つしか持てないが、一般の能力者はコピーされた能力を複数持つことができ、その能力は子に遺伝するのだという。


「死んだらオリジナルは……どうするの……?」

「神の世代交代ってやつね。取り出して別の人間に与えるの」


 蝶神ちょうがみが何でもないことのように言うが、かのとは驚いて言葉を失った。


「コピーの方もだけど、出来るのよそれが!」


 かのとの反応に笑いながら、蝶神ちょうがみは話を続けた。


「“シン”は体内をめぐるエネルギーで、不可視な存在と言われているけれど、取り出す方法が存在しているの。そして体外へ取り出された“シン”は球形で安定し、青い色を放ち可視化する」


 取り出された球体のシンは手に一個持てるくらいの大きさで、それはそれは美しい輝きをしているのだと言う。


 ◇


 現在。

 かのとから説明を聞き、なぎ以前蝶神ちょうがみが言っていたことを思い出した。

 人間も神も悪魔も、この世界では等しく「人」よ。

 蝶神ちょうがみさんが前に神も“人”って言ってたけど、そういうことか。

 ん? 待って、神の存在意義って?


「じゃあこの子のお父さんが隠し持っていた“シン”は青い球状の物ってこと?」

「なんにせよ、いったい何の能力なんだろ?」


 立ち話をしていると、かのとが突然何かの気配に反応し、素早く少年の背中を強く押して、敵の攻撃を避けさせた。

 地面が焼け焦げる嫌な音がする。

 間一髪、先ほど爪戯つまぎと戦っていた少女──ラルが再び現れ、四人が立っていたところに大量の液体攻撃をぶちまけたのだ。瓦礫まみれの周辺一帯は、再び土煙が舞った。


 かのとは左手から刀を生成し、ラルに向かって素早く近づいた。しかしラルは余裕の顔つきで、かのとが作り出した刀に液体を放った。


「金属使いとは──……相性がイイみたい♪」


 激しい溶解音が響く。

 振りぬいたはずのかのとの刀は、柄から先の掌一つ分の上身を残し、液体がかかった部分はすべて、泡を吹いて溶け去っていた。


「あいつのアレ、水じゃないのか……!?」


 先ほどラルと戦っていた爪戯つまぎは、その様子を見て驚いた。水なら、金属をこれほどの速度で溶かすはずがない。


爪戯つまぎ君……早く加勢に……!」


 なぎが虚ろな目で爪戯つまぎに言い、そっと近づいた。


「待って! そいつは!!」


 少年がそれに気づき、声をあげた。爪戯つまぎの横にいるのとは別に、少年の側にもなぎが、気絶して横たわっていたからだ。

 そう言っている間に、なぎ──もとい、なぎに扮したラルの姉は刀を構え、爪戯つまぎの腹をめがけて踏み込んだ。


 肉を刺す鈍い音が響く。

 地面に血が滴り落ち、ラルの姉は勝利を確信して口元を緩めた。


「……えっ」


 しかし、実際に滴っていたのは刺したはずの女の血だった。気づけば自らの腹と口から一筋の血が垂れ落ちている。

 女は先ほど地下室でもかのとに斬られており、爪戯つまぎへの攻撃動作によって、とうとう限界が訪れたのだ。腹の帯に手を当てて血を触り、自分の出血を確認すると、女は力を失いその場に膝から崩れ落ちた。

 何故、こちらが傷を。

 爪戯つまぎは倒れた女を見下ろした。普段は長い前髪に隠れて見えない右目の中に、淡い幾何学模様が怪しく浮いていた。


「あれ!? 二人いる!?」


 先ほどのラルの攻撃の余波で吹っ飛ばされて気絶していたなぎが起き上がると、爪戯つまぎが驚きの声をあげた。


「え、気づいて反撃したんじゃないの?」

「痛てて」


 少年は驚き、なぎは倒れた時に打った頭をさすった。


「何かした!?」

「殺すところだったっぽい」

「はあああ!?」


 なぎ爪戯つまぎが喧嘩をしているところを、ラルはかのとと戦いつつも遠目で見ていた。


「あのザコっ!」


 かのとはラルがあちらに気をとられている隙を見て、新たに刀を生成した。


「だから金属は──……」


 先ほどと同じ攻撃のように見え、ラルは同じように液体の攻撃を繰り出した。だがかのとが刀を振り下ろすと、今度は溶けずにラルの上半身を切り裂いた。

 肉を断つ感触。

 ちゃんと防いだはず。


「金属が溶けていない!?」


 ラルは傷を庇い、血を流しながら後ずさりした。


「白金などの硫酸に溶けない金属で覆えばいい。それだけだ」

「ああ……貴金属ってやつ?」


 ってかこいつ、酸の飛沫がかかってると思うんだけど、何ともないの? 私は自分の能力だから自身にかからないように出来るけど。

 普通の人間なら飛沫が当たるだけで火傷のダメージになるはず。ラルは理屈の分からないかのとの身体の造りに身構えた。

 まあ、いいわ。


「よくこの酸が“硫酸”って分かったわね。別にいいけど」


 硫酸が効かなくても、ラルにはまだ手があった。


「じゃあ“コレ”ならどう?」


 ラルの能力は硫酸だけを生成するものではなかった。自分の勝利を確信し、ラルは背中から別の、さらに危険な液体を大量に出して宙に浮かべた。


「さっきの一撃で仕留め損ねた自分を恨むことね!」

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