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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
溶解

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No.32「地下室」

 目的地である“羽方”への道中で立ち寄った寂れた町で、正体不明の男女ヒユとアナナスに詰め寄られていた少年を助けたなぎ達一行。

 その後、礼も言わずに立ち去ってしまったその少年の母親を名乗る女性に声をかけられ、家に招待されることとなった。


「本当にごめんなさいね」

「いえいえ!」


 母親は改めて息子の非礼を詫びた。客間に通されたなぎ達が揃って出されたお茶を飲み始めると、母親は悲し気な顔でこれまでの経緯を語りだした。


「あの子……主人が亡くなってから誰にでもあの態度で」

「亡くなった……?」

「え、ええ……首を吊って自殺──……」


 生意気に見える少年の、想定外の話の重さに三人は言葉が出なかった。


「でもあの子は違うことを主張していて」


 母親は、事件直後の息子との会話を詳細に振り返った。


 父さんが自殺なんて変だよ! 明日遊びに行く約束をしてたんだ!

 父親の自殺を知った少年は、その時覚えた違和感を母親に必死に訴えたと言う。

 それに! 聞いたんだよ。あの日の夜──……“誰か”と言い争っているのを。


 しかし、証拠もなく他にそれを聞いた人もいなかったということだった。少年の訴えは、悲しみ故の錯乱として処理されたのだ。


 ◇


 話を一通り聞き終えた爪戯つまぎが、中座をして家の縁側を歩いていると、どこからか声がした。


爪戯つまぎ!』


 声をかけてきたのは、一匹の猫だった。

 しかし、額に不思議な文様があり、尻尾の先だけが薄紫に染まっている。そして体の周りには小さな狐火のような火の玉が二つ浮いていて、明らかに普通の猫の容姿ではない。


「猫……? ああ、猫神? 何か用?」

『きみの母、爪炎そうえんが殺されていた』


 唐突な訃報を聞いた爪戯つまぎは目線を落とし、何も言わずにしばらくそこに立ち尽くした。

 母との確執、そして別れ。あまりにあっけない結末。


『あの二人と居続けるなら、気をつけないかんよ。狙ってる奴らがおるけんね』


 猫神はあらゆることを見通せているかのような口ぶりで言う。黙っていた爪戯つまぎはその忠告を聞き、ハッとして我に返った。


「……!? 狙ってる奴、詳し……」


 しかし、質問をしようと口を開いた途端、猫神は陽炎のように揺らめき、その場から煙のように消え去ってしまった。


「教えて行けよ!!」


 爪戯つまぎが叫んでも、その声は誰もいない縁側にむなしく響いただけだった。


 ◇


「ただいま」


 なぎ達に遅れて、少年が自宅に帰ってきた。


「お帰りなさい。おやつあるわよ」

「要らない」


 玄関で母親が優しく声をかけても、少年は目もあわさずに、母親を通り過ぎ家の中へ入って行ってしまった。

 深いため息をつく少年が、自室の戸を開けると。


「あ」


 なぎかのとが本棚からそれぞれ勝手に本を取り出し、我が物顔で寛いでいた。


「人の家で何してんだ!」

「家宅捜索?」

「はあああ?」


 少年は母親がなぎ達を招待したことを知らない。なのでさっき道で会った怪しい人たちが、何故だか勝手にあがりこんでいるように見えても仕方がない。不法侵入だ。


「まあ、それは冗談で~、あんたを助けたお礼にって家に呼ばれただけなんだよね」

「早く出て行けよ!」


 少年は声を荒げた。


「え~もうちょっと居させてよ。ってかさ~今日泊まっても良い? 宿代浮かせたい!」

「出て行けって!」


 なぎが本を読む手を止めて少年と話し始めても、かのとはマイペースに座ったまま読書を続けている。我関せずだ。


「そうケチケチしないでよ~。野宿は嫌じゃん」

「ねえ! 何で他人の本棚漁ってんだよ!?」

「いや~春画的な本在るかなって~」


 なぎは最低な軽口をたたきながら、持っていた本を本棚に戻した。


「やめろよ! おまえらも……」

「んんん?」


 なぎは本を戻した棚の奥に、壁に埋め込まれた謎のスイッチがあるのを見つけた。


「これ何だろ?」


 見つけたらとりあえず押してしまう性格のなぎは、躊躇せずそれを指先で押し込んだ。

 重苦しい振動音と共に、部屋の床の中央部分が動き出した。


「え? ええええええ!?」

「なっ……!? 何だよこの仕掛け」


 床板がスライドし、そこに現れたのは、地下の闇へと続く階段だった。


「あんたも知らなかったの?」


 少年はなぎの質問に答えなかったが、階段を見つめる戸惑いを浮かべた表情は、無言の肯定を表していた。自分の家に、こんな場所があったなんて。


「行ってみよ~! この先に何があるのかな?」


 少年が困惑している中、なぎは探検気分でさっさと階段を降り始めた。


「ちょっ 何勝手に!」

「なんか分かるかも知れないよ? あんたのお父さんを殺した犯人……とか」

「なっ 別にお前らには関係ないだろ!」


 少年はなぎがそのデリケートな事情を知っていることに反応し、他人の介入を拒みたがった。


「関係はないけどさ」


 なぎは先ほど冗談を言っていた時とは打って変わり、真剣な声色で言った。


「私も親……殺されたから放っておけなくて」


 少年はその言葉に、何も言えなくなってしまった。同じ痛みを持つ者の目だった。


かのと君も行くよ~!」


 なぎはいつもの明るい調子にすぐに戻った。

 かのとは、返事はしないがその声かけを聞いてすっと立ち上がり、少年とともになぎの後に続いた。


「ねえ、他に何か知っていることはないの? 死ぬ前に言い争ってたんでしょ? その内容とか」

「いや、そこまでは……」


 地下へと続く階段は日の光を取り入れる場所がない。しかし、通路の上端には等間隔にカンテラのような灯りが設置されているお陰で、ぼんやりとした光で歩けるくらいの視界は確保できた。


「そっか~」


 階段を降り切ると、長い廊下が続いていた。その廊下にも灯りがついており、三人は湿ったカビの匂いがする薄暗がりの中をさらに進んだ。

 すると、これまでずっと無言を貫いていたかのとが徐に口を開いた。


「……それ……“人”は見たのか……?」

「言い争っているのは聞いたけど、姿までは──……」

「……いや……そうじゃなくて」

「ん?」


 かのとの質問に、少年は頭に疑問符を浮かべた。


「その日家に出入りした人間──……家族以外の……例えば客とか」

「……? 別にあの日は誰も──……」

「あ!」


 少年が記憶を辿っていると、前を歩いていたなぎが声をあげた。


「扉だ……!」


 廊下の突き当たりには、鉄製の重厚なドアが一つだけあった。なぎはその扉をそっと開けて中を覗き見た。


「うっ……」


 途端に、鼻が曲がるほどの酷い悪臭が立ち込めてきた。腐臭だ。

 なぎと少年は手で鼻と口を覆い、息を止めて臭いに耐えながら部屋を見回した。

 すると。


「あ……あれ──……!」


 部屋の隅には壁にもたれかかって座っている、腐敗が進み白骨化しかかっている死体があった。女性のようで、まだ残っている髪が長く、頬にかかる耳横の毛は、先がくるんと巻かれている。


「この人……え……でも──……」


 その特徴的な髪型にはなぎにも見覚えがあった。


「母さん……?」


 少年は事態が飲み込めず、眩暈がしそうな頭を必死で動かし、考えた。

 この状態、死後何日か経ってる。どういうこと? だって今、上に、家に生きて存在している。

 いや違う。今、家にいるあいつは誰だ。

 まさか。少年の心臓は早鐘のように打ち、冷や汗のせいか体は芯から冷えていくようだった。


「家族以外の出入りがなかったってことは、犯人は身内か身内に成り代わり、この家に潜入した者の可能性が高いと考えていたが……」


 後から入ってきたかのとはこういう現場に場慣れしてしまっているためか、眉一つ動かさず冷静だった。


「さっきの質問はそれの為か?」

「知らないうちに家に侵入してきた可能性も考えたけど……」

「じゃあ……犯人は成り代わっていた奴で、この子の父親と口論していたのって、正体がバレたから……とか?」

「でも何で成り代わってまで潜入してきたんだ……?」


 その時だった。なぎと少年が推理に没頭している中、かのとは何かに気づいたようにドアの方を向いた。


「あ~あ……地下室に閉じ込めておいたら死んでいたから放置していたんだけど」


 ドアの前に現れたのは、少年の母、であるはずの女だった。

 死体と同じ髪型、同じ服装をしているが、さっきまでのおっとりした話し方の様子がまるっきり変わっている。


「どうせ此処ならバレないと思っていたのに……処分するのも結構面倒だしね」

「おまえ!!」


 少年が叫んだ。


「何でこんなことっ……お前は誰だ!」


 控えめそうだった少年の母の雰囲気からは想像もできないような怪しい笑みで、女は顔を歪ませた。


 ◇


「あ~れ~? 二人とも居ない!?」


 一方、上の階。誰もいない部屋で間の抜けた声をあげていたのは爪戯つまぎだった。

 ちょっとお手洗いに行って猫神と話している間に置いていかれたのか。

 地下で何が起きているか知らない爪戯つまぎは、頭を抱えて一人叫んだ。


「あの女だけならまだしも! かのとまで! 何故だああ! 踵落としの恨みか!?」


 その背後で、知らぬうちにこの家の住人ではないはずの少女――ラルが、音もなく忍び寄っていた。

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