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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
溶解

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No.31「突当る」

 なぎ達一行は、ようやく長い山道を越え、古びた木造の家々が肩を寄せ合う、少し寂れた町へと足を踏み入れた。


かのとくん、此処は……?」

「……」


 道中ずっとだんまりだったかのとは、なぎが質問しても振り向きもせず、我が道を行くように進んで行く。

 返事がない。いつものかのとのようだ。

 ふいにゲームのテキストのような言葉がなぎの脳裏を掠め、彼女は首を傾げた。


「とりあえずまだ通過点の町? ってところじゃない? いや、かのとの考えは分からないけど、此処が“羽方うかた”ではないと思う」

「ふむ」


 かのとが返事をしないので、爪戯つまぎが代わりに会話を拾った。大抵こんな形になるのだが、なぎはめげずに声を張った。


「ってかね! 会話は大事よ! 大事!」


 そう言って大股で歩いた直後、なぎは前方から来た女の子と勢いよく肩をぶつけてしまった。


「あ、すみません!」


 慌てて振り返ると、相手は肩を抑えながらなぎをぎろりと睨みつけていた。


「はあ?」


 なぎがぶつかった女の子は、項が隠れるくらいの短い髪に、右側だけ触覚のようなものが跳ねている。

 名はラル。

 予想外の敵意ある反応に、なぎは狼狽えた。


「あ、えっと……いや……」

「痛いんだけど? すみませんの一言だけ?」


 女の子は怒りを露わにし、さらになぎの方へ威圧的に距離を詰めた。


「普通さ、もう少し何かあるよね? 何なのあんた。腹立つ」


 その剣幕にさすがのかのとも足を止め、振り返り、警戒を示した。

 まさにその瞬間、今度は後方からきた男が、ラルの背中を無造作に蹴とばした。


「邪魔だ。どけ餓鬼が!」


 男は左頬に×印の傷がついており、マントのように長く、袖が左側にしかない奇妙な上着を着ている。

 名はシロホン。

 シロホンに怯んだラルは、舌打ちをして逃げるように立ち去った。するとシロホンの方も、まるで何事もなかったかのようにその逆方向へ、足早に去って行く。


「えっ。えええ!?」


 次々に起こる理不尽な出来事に訳が分からず、なぎは左右へ交互に首を振り、二人が去って行く後ろ姿を見送った。


「あれ……さっきの人……」

「んー?」


 少しして落ち着きを取り戻すと、なぎは頬に傷のついた男──シロホンをどこかで見たことを思い出した。

 それはどこだったか。つい最近であることは間違いない。なぎは最近までいたかのとの家の近く、あの村の記憶を引っ張り出した。


かのと君の家の近くの村で貼り紙があって……それで見た人だ!」

「貼り紙?」

「うーん、有名人?」


 それはかのとの封印の儀式中に、爪戯つまぎと時間を潰しに村へ行ったときのことだ。掲示板に貼ってあったお知らせの中に、その人物がヴァイオリンを弾く姿が描かれていた気がする。

 なぎ爪戯つまぎがそのことを話している後ろで、かのとは男が去って行った方向を無言でじっと見つめている。


「何だと!? このクソガキ!」


 突然、路地の奥から響いた恫喝の声に、なぎは反射的に肩を震わせた。

 何事かと声のする方へ近寄ると、男女が学生帽の男の子を壁際に追い詰め、男がその胸倉を片手で軽々と掴んで持ち上げているところだった。

 何かよく分からないけど、あっちでも揉めてる。

 この町は治安が悪いのだろうか。三人は建物の影に隠れ、その後の様子を伺った。


「いいから早く答えろよ。何処に在るんだよ?」


 男は荒々しい声で今にも殴りかかりそうだった。男の子の胸倉を掴んでいる右腕の内側、服の隙間から命という刺青の文字が覗いている。


「……し……知らない……本当に知らない」


 男の子は首が締まって苦しそうに顔を歪めていた。男の腕を両手で握っても、子どもの力では当然びくともしない。それでも男に歯向かうように睨みつけている。


「っ! 知っていたとしてもお前なんかに教えないけど!」

「ああそう! じゃあ死ね!」


 男が切れて、ついに拳を振りかぶった瞬間。

 影から飛び出したかのとが、鋭い飛び蹴りで男の頬を目掛け、思いっきり蹴り飛ばした。

 重い打撃音と共に、男は蹴られた勢いで顔から地面に叩きつけられた。

 あまりの衝撃と不意打ちに、男の連れの女も、助けられたはずの子どもも、唖然とした表情で硬直している。

 かのとは飛び蹴りの姿勢から猫のように軽やかに態勢を立て直し、着地すると、何も言わず男を見下ろした。


「ヒユ!」


 男がよろりと起き上がると、連れの女が男の名を呼んで駆け寄った。

 髪を頭の高いところで一つに括り、やけに袖の長い服を着ている。そのせいで袖から手が見えない状態だった。


「おい! なにすんだ! 殺すぞ!!」


 ヒユ、と呼ばれる男は、口端から血を流しながらかのとに指を差して叫んだ。


「ヒユ! これ以上は……」

「……っ分かったよ!」

「あっ待って~」


 連れの女が止めに入ると、男は舌打ちをし、渋々といった表情でその場を立ち去った。


「あ、あんた、大丈夫~?」


 男の子は、男が急に手を離したせいで、地面に尻餅をついていた。

 しかし、なぎが声をかけると、彼に対し感謝どころか舌打ちをすると勢いよく立ち上がり、この子もまた何も言わず走り去ってしまった。


「何だあいつ。礼の一言もなく」


 爪戯つまぎは走り去る小さな背を目で追いながら呆れて呟いた。


爪戯つまぎ君は何もしてないじゃん?」

「あんたもじゃん?」

「ぬ!?」


 いつものごとく、なぎ爪戯つまぎが言い合いをして、かのとは傍でそれを黙って見ているだけ。

 そんな様子を、屋根の上から先ほどなぎにぶつかった女の子――ラルが、にやりと不敵な笑みを浮かべながら見下ろしていたのだが、三人は気づいていなかった。


 ◇


「あの……」


 なぎ爪戯つまぎがふざけあっていると、今度は髪が長く、頬にかかる横髪の先がくるんと巻かれた上品そうな女性に声をかけられた。


「さっきの帽子の子、うちの子なのですが、何か失礼なことをしませんでしたか……?」


 次から次へと三人の周りに人が現れる日だった。しかし今度は好戦的でなく、むしろ控えめな女性だった。


「いえいえ大したことは。ちょっと少年が絡まれてたところを助けたら、お礼も言わずに逃げ去って行っただけですね~」

「こいつは何もしてない」


 なぎが得意げに言うと、爪戯つまぎはすかさず冷静な指摘を入れた。


「まあ……あの子ったら……本当に申し訳ございません。お詫びとお礼を兼ねて何かさせてください」

「え……いいですよ別に!」

「甘いものはお好きですか? ご馳走させてください。それくらいしか出来ないですが……」

「好き! 特にあんみつが!」


 甘味と聞いて図々しく即答する現金ななぎに、爪戯つまぎは呆れた顔で会話を聞いていた。

 こいつ、ブレないな。


 ◇


 一方、学生帽の子どもを脅していた男、ヒユは歩いても歩いても腹の虫が治まらなかった。


「あー! くそっ! 腹立つ! ムカつく! ぶっ壊したい! どいつもこいつも」


 通りすがりの壁を蹴り、大きな声で騒ぎ続けるヒユに、連れの女はいい加減うんざりとして、大きなため息をついた。


「は~。兄弟短気だよねえ、似た者兄弟っていうか。ってかもう少し落ち着こうよ」

兄貴あんなのと一緒にすんじゃねーよ! 似てねーし!」

「もうね、そう言うところが似てる」


 女の言葉に、ヒユは幼い頃の忌まわしい記憶を思い出してしまった。

 子どもの頃に盗み見た、血にまみれた凄惨な現場の光景を。


「おれは……」


 兄貴を許さない。だから。


「あいつを超える……その為にもチカラが要る!」


 憎しみがどす黒い原動力となり、改めてヒユを奮い立たせた。


「よし! 行くぞアナナス!」

「え?」

「何処に……?」

「決まってんだろ」


 女──アナナスは考えてもヒユの言わんとすることが分からず、呆けた顔で立ち尽くした。

 それなのに、ヒユは説明もなしにさっさと歩きだしてしまう。


「……へ?」


 アナナスは慌ててその背を追った。

 彼らの行き先が、やがてかのとたちの運命と交差することを知らずに。

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