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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
蝶妖

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30/70

No.30「再出発」

 蝶神ちょうがみは森の切れ間に立ち、遠くの山々を眺めながら一人物思いに耽っていた。


 頭に浮かぶのは、忘れられない過去の記憶。

 その日は、冷たい雨が降っていた。泥に濡れるのも構わずに、息を切らしながらそこへ駆けつけたときに見た光景は、今でも鮮烈にはっきりと思い出せる。

 大地を染めるほどの鮮血にまみれ倒れた人間と、それを斬った男が、ただ虚ろに立ち尽くす姿。降りしきる豪雨が地面を叩きつける音が喧しく、視界もうっすらと白く遮られていた、あの日。


 簡単には会いたくないってことなのかしらね。

 私はただ。

 言葉は風に消えた。


 ◇


「あれ? 蝶神ちょうがみさん、帰って来てない?」


 なぎ爪戯つまぎかのとの家に戻っても、蝶神ちょうがみの姿はなかった。


「急用を思い出したから帰るって、さっき知らせが来たが?」


 北王ほくおうかのとの封印を終えたようで、手慣れた様子で薬草を刻み、薬を調合しているところだった。


「えぇ……私達にも一言言ってくれてもいいのに」


 北王ほくおうなぎの言葉に、一瞬何かを察したような複雑な表情をした。だが、それを悟られないようにするためか、すぐに明後日の方向を向いてしまった。


「あいつにも色々あるんだろ」

「ってか思ったんだけど。神って普段何してるの? 神社に居るの?」

「さあ」


 ふと疑問に思ったなぎが質問しても、北王ほくおうは興味なさげだ。


「ニートか? ニートなのか?」

「一応神も人間なんだし、普通に働いてるんじゃね?」


 北王ほくおうの雑な回答に、「そういうもん?」となぎ爪戯つまぎの返答が綺麗に重なり、爪戯つまぎも神の実態については知らない様子が窺えた。

 その後凪なぎ爪戯つまぎは、部屋の前の廊下からかのとに声をかけた。


かのと〜大丈夫か〜?」

「お土産にお菓子買って来たよ〜」


 かのとは少しだけ引き戸を開け、無言でお土産を受け取った。その顔色はまだ少し悪いが、瞳には確かな理性の光が戻っていた。


「ところでお前ら……人を探すって言ってもあてはあるのか?」


 三人が揃ったところで北王ほくおうが聞くと、なぎは呆けたように口を開けた。


「え? あて? うーん……」

「まさか……何も計画なしに……!?」

「ついて来ただけだし」


 爪戯つまぎがあっけらかんと答えると、なぎも同様に頼りない返事をした。


「何とかなるって信じているから……」


 二人のあまりにゆるい返答に北王ほくおうが言葉を失くして頭を抱えていると、部屋の中からかのとが腕だけをだし、お菓子のゴミを投げてよこしながら言った。


「一応周辺で聞き込みをしながらも、“羽方うかた”へ行ってる途中だったんだ」


 乾いた音がした。投げられたゴミは北王ほくおうの頭に一度当たって跳ね、床へ転がった。


「うかた?」

「まあ確かにあそこなら……つかゴミを投げるなゴミを! 親に向かって!」


 北王ほくおうがしゃがんでゴミを拾っている間、これまで一緒に行動していた割に、初耳だったなぎ爪戯つまぎは首を傾げた。


「えっと……地名だっけ?」


 何も分かっていなさそうな二人に、北王ほくおうが呆れながら説明をした。


「此処“きゅうの国”の中では、他に比べて隣国“の国”からの技術の流入もあって、文明の発展している処だな」


 羽方うかたは建物も近代化されていて、今いる周辺の古い村に比べて景色もかなり違うと言った。


「そこには知り合いの部下がいる──……そいつに頼めば“あいつ”に会わせてもらえる…………のか? たぶん」

「え……ええ?」


 北王ほくおうにしては珍しく、語尾が濁る自信のなさそうな言い方だった。


「“あいつ”に会えれば協力をして貰えるからな」

「でも会えるかは多分なんでしょ?」

「……」


 北王ほくおうの沈黙に、爪戯つまぎも「不安だ」と小さく零した。


 ◇


 数日経って、かのとの身体に刻まれた封印のための創が塞がってきた頃。

 かのとなぎ爪戯つまぎの三人は改めて旅を再開することになった。


「お世話になりました!」


 かのとはいつもの通り無表情で玄関の前に立ち、なぎ爪戯つまぎは明るく北王ほくおうに手を振った。これで三人にようやく日常が戻ったという実感が湧く光景だった。


「つーか、あんたは探さねーの。あんたにとっても息子なんだろ?」


 爪戯つまぎひのとのことを指して尋ねると、北王ほくおうは暗い顔をしてしばらく言葉を探しているようだった。


「……探したいのはやまやまだが、“今は”無理だ。そろそろ戻らねーと色々うるさいのが居るからな」


 なぎが「うるさいの?」と聞いたが、北王ほくおうはそれには答えなかった。


「だから今はまだお前らに任せる……。ああ……あとかのと、軍の方はオレが何とかしておくから、あっちのことは気にせずにいろ」


 封印の成功により、かのとの左の目もあやかしに似た禍々しい模様が消え、静かな緑色に戻っていた。

 玄関の外で旅立ちを見送る北王ほくおうは、改めてかのとに向けて言った。


「ともかくこれだけは覚えておけ」


 これまで幾度もかのとが絶望に打ちひしがれた日々、体に傷を負った姿、絶叫しながら封印の儀に耐える様子を目の当たりにしてきた北王ほくおうに、最後に言える言葉はこれだけだった。


「死ぬなよ」


 かのとも、父の想いを受け止め、真剣な表情で深く頷いた。


 ◇


 無事に三人が旅立っていくのを、北王ほくおうは姿が見えなくなるまで見守った。

 そして深いため息を一つつき、誰もいない場所に向かって話しかけた。


「これで良かったのか?」


 すると、背後からきゅうがぬっと現れた。


「い~や~、いいよこれで。善い善い♪」


 きゅうは宙に浮いており、家から半分だけ姿を出す形で、幽霊のように上半身だけが見えている。


「キミが彼の行動を阻むというのなら、オレは暴れるつもりだったよ~」

「……お前。本当にいいのか……?」

「えー……? 何言いだして……」


 北王ほくおうが鋭い目つきできゅうを見ると、きゅうは肩をすくめ、やれやれといった風に軽く両手を挙げて見せた。


「あー……うん、良いよ。別に」

「……」


 きゅうの飄々とした反応に、北王ほくおうは呆れたような、あるいは諦めたような顔をした。


 ◇


 一方、羽方うかたを目指し歩き始めたなぎ達一行は。


「いや~一時はどうなるかと思ったけど。なんとかなったのかな? ま、良いか! 次行こ次!」


 なかなかに激しい戦闘とシリアスな過去編を経験した割に、能天気なことを言うなぎに、最初は黙っていた爪戯つまぎも段々と調子を戻してきたようで、口数が増え元気に言い合いを始めた。


「え~? あんた何かしたっけ?」

「は!? 踵落としよりマシ!!」

「殺されたいんですかね?」

「直ぐそれ言う! ヨクナイヨ!」


 後ろで騒ぐ二人を他所に、かのとは黙って前を歩いた。


「ところで。その“羽方うかた”ってっこちの方向であってる?」


 ひと騒ぎしたあと、なぎがこれから向かう場所について、前を歩くかのとに尋ねた。


「……」


 しかし、聞こえているはずのかのとは、その質問に長時間答えず黙りこんだ後、しばらくしてようやく口を開いた。


「……いや……どっかの……街に……出て……」


 そこまで言って、また自信なさげに黙ってしまった。


「ん? んんん?」


 かのとは分かっているものと思い込んでいたなぎ爪戯つまぎは、ここまでしばらく歩いて来てようやく、誰も道順をあまり分かっていないことに気づいたのだった。

 かのと君まで。

 さすがのなぎもこれには不安しかない、といよいよ焦りを覚え始めた。前途多難だ。


 ◇


 場所は変わり――ある洋風の造りをした、立派な門扉を構え、いくつもの棟がそびえ立つ城がある。

 その一室に、先日辛かのとの封印が解ける原因となってしまった戦闘を崖の上から見ていた、そして悪魔のヤナギと邂逅した、機械耳の男――リューが居た。

 リューは大きな窓の枠に寄りかかって座り、好物の食パンを呑気に頬張っていた。


「はあああ? お前何もせずに帰ってきたのか? ふざけてんのか?」


 リューに向かって怒鳴っているのは、長い髪を後ろで一つに編んだ赤いワンピースの女だった。

 可憐な見た目に反して、女は激しい男口調でリューを責め立てている。


「うーん。だって何か~、沢山居たからね~」

「お前なあ! 俺は手下を殺されてんだぞ! 問答無用で死罪だろ! 死罪!!」


 女は苛立ち紛れに舌打ちをしたが、リューはにこやかな表情を崩さず、パンを頬張り続けた。


「意外だな~。君って手下の為に怒って戦うタイプだったんだ?」

「ただ単にキレてるだけだけどー!! 自分の“物”が壊されたら怒るだろ普通!」

「ん~詰めが甘かった君の手下が悪いだけだと思うな~」

「はあ!? てめえ! 喧嘩売ってんのか!? ああ!?」

「それよりさ~」


 喚き立てる女に、リューは遮るように言った。


「沢山居たって言ったじゃん? その中にはさ~……」


 リューはにやりと口角を上げた。

 女は興味を持ったらしく、急にすんと大人しくなり、リューの話に耳を傾けた。

 新たな火種が、そこで燻り始めていた。

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