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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
蝶妖

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No.28「三度目」

 かのとの家で、父である北王ほくおうに「さっさと出ていけ」と言い放たれたなぎ爪戯つまぎ

 しかしこれまでの三人のやりとりを間近に見て来た蝶神ちょうがみは、二人にかのとのこれまでの話を聞いた上で今後どう関わっていくか考えればいいと促した。

 二人は蝶神ちょうがみからかのとの誕生にまつわる悲劇とひのとの母の死、そしてあやかしの能力を封印したことなどを静かに聞いた。


「……てな訳で、ひのとはあいつの親族に盗られたんだけど」


 かのとは弟を探しているのだとは聞いていたが、あまりに過酷な過去に、普段は陽気な爪戯つまぎも腕を組み下を向いて押し黙った。


「盗るって……」

「一緒に居ない方が安全かもって考えて、預けたままにしてたらしいわ」

「安全?」

かのとあやかしの能力とか、この辺に出るあやかしとかまあ色々? かのとには戦い方を教えて自分の身を守れるようにさせたんだけど……ひのとには逆にそういうのとは無縁の生活をさせたかったようで。でも連れ去られてしまったのだけど……」


 二人がひのとが「連れ去られた」という話の詳細が気になり、蝶神ちょうがみの次の言葉を待った。

 しかしいつの間にか背後に立っていた北王ほくおうの無慈悲な拳骨が、蝶神ちょうがみの頭に振り下ろされ、その話は物理的に中断された。


「あ」


 蝶神ちょうがみは痛みに悶え、顔を机に突っ伏した。


「いた~い」

「オレの話を聞いていたか? あ?」

「……はひ」


 北王ほくおうは不機嫌な顔で、突っ伏した蝶神ちょうがみに詰め寄った。


「出ていけと言ったよな? あぁ?」

「ははは~、かのとのこと教えてただけですよ~」

「はあ?」

「……すみませんごめんなさい」

「もういい」


 北王ほくおうは深いため息を一つつき、なぎ爪戯つまぎに向き直った。


「だったら分かっただろ? かのとあやかしの能力がお前達を殺す──……」


 そう言えば引き下がってくれると思ったのだろう。しかし、なぎ爪戯つまぎかのとを怖がることはなかった。


「封印は……? もう一度──……」

「一度目は六年もったが二度目は一年……次で三度目になるが直ぐに外れるだろう。だから三度目はしない。かのとにも、お前らにも諦めてもらう」

かのと君は──……」


 北王ほくおうのきっぱりとした態度に、なんとか繋ぎ止める方法はないかと、なぎは喋りながらも必死に頭を巡らせた。

 次で三度目。話してもらったのが一度目なら、二度目の時はどうだったのか。


かのと君はそれで良いと言ってるの?」


 無口な性格で何を考えているか分かりにくいかのとだが、行動を共にした短い間にも彼の信念や義理堅さは十分に伝わっていた。

 かのとが諦めろと言われて、そんなに簡単に承諾するだろうか。


「弟君が連れ去られたって、それで探してて──……」


 なぎは何を言っても譲歩してくれなさそうな北王ほくおうに焦りながらも、説得を続けようとした。

 すると爪戯つまぎがすっと片腕を挙げ、なぜかなぎを制止した。


「分かったよ……」


 なぎの意に反して諦めの言葉を口にする爪戯つまぎに、なぎは思わず食ってかかりそうになった。

 しかし爪戯つまぎは間髪入れず、北王ほくおうに無茶苦茶な条件を提示した。


「ただし最後にかのとに会わせろ! じゃなきゃ帰らん!」


 思いがけない言葉に、その場は一瞬時が止まった。


「はあ? 今お前らがかのとに会ったら、死ぬって言ってんだろうが!」

「そこは何とかしろよ! 封印だの呪いだの出来るなら、一時的に無効とかも出来るだろ! やれ!」

「何だその理屈は!」


 爪戯つまぎ北王ほくおうの怒鳴り合いに、直前まで感情が昂っていたなぎも冷静さを取り戻した。

 すっげえ無茶ぶりするやん。

 両者自分の意見も一歩も譲らない平行線の言い争いになったが、そこに双方の事情を知る蝶神ちょうがみが割って入った。


「ねえ北王ほくおう、私からもお願いよ。このままってのはお互い納得出来ないでしょ?」

「……五分だけだぞ」


 やや悩む間はあったものの、切実な蝶神ちょうがみの願いに北王ほくおうはついに折れた。


「出来るやん」


 なぎ爪戯つまぎから、思わず同じ言葉が口をついて出た。


「うるせえ」


 みんな揃ってかのとの部屋の前まで移動すると、北王ほくおうは戸を開ける前になぎ爪戯つまぎに低い声で警告をした。


「正直、その場凌ぎにしかならん。かのとの妖力をオレが相殺するのは可能だが……準備したうえで結界を張るわけでもないからな。時間はもたない」

「よーりょく? ってかこの人何者」


 北王ほくおうはその問には答えず、無言で戸に手をかけた。


 ◇


かのと……」


 かのとが部屋で一人、絶望と共に布団に入っていると、廊下から騒がしい声が聞こえた。


「入るぞ。あいつらが最後に会いたいってよ。少しだけだがオレがお前のチカラを抑えてやる」


 かのとは驚いた。てっきりもう顔を見ることさえなく、このままお別れになってしまうだろうと思っていた。


「お前ら……まだ居たのか」


 父があやかしの能力の発動を抑えてくれると言っても不安は残り、かのと極力凪なぎ爪戯つまぎを見ないように目を反らした。


かのと君を放っておけないよ!」

「……オレはもうお前らとは……行動できない」


 断ることが仲間への優しさなのだと言い聞かせ、かのとなぎを拒絶した。

 しかしさすがに、本心でない言葉を口にするには躊躇いが声に滲んでしまった。


「でも!」

「殺したくないんだ。だからオレのことはもう──……」


 放っておいてくれ。そう言おうとした瞬間。

 衝撃音が炸裂した。

 かのとの脳天に、爪戯つまぎの容赦ない重いかかと落としがまともに直撃したのだ。


「何してんだてめええ!」


 間に入ったのは北王ほくおうだった。かのとはあまりの痛みに、頭を抱えて畳の上で悶絶した。北王ほくおう爪戯つまぎの髪を引きちぎる勢いで鷲掴み、かのとから離そうと引っ張るので、爪戯つまぎも痛みに大声をあげた。


「あ゛あ゛あ゛!」

「もう帰れお前ら!」


 おそらく北王ほくおうは、ただでさえ封印が解けている状態なのに、かのとに刺激を与えたらどうなるのかと思ったのだろう。

 そのまま爪戯つまぎを廊下までずりずりと引っ張って追い出そうとした。


かのと!!」


 しかし爪戯つまぎは諦めなかった。引っ張られながら叫ぶ。


「あんたが言ったんだからな! オレと来いって! だからオレはあんたについて行くんだからな!」


 かのとは痛む頭をさすりながら、思わず爪戯つまぎをじっと見てしまった。


「発言には責任を持てよな!」


 しかし父の能力がしっかりと効いているようで、かのとと目が合っても爪戯つまぎには何事も起こらず、黙れと言って抑える父と格闘を続けていた。


「……」

「……かのと君、ひのと君を探そうよ。大事な味方、弟なんでしょ?」


 部屋に残ったなぎは、かのとの目の前にきてしっかりと目を見て言った。


「私達も手伝うから! 私達は仲間だからね。一緒に必ず見つけよう! 仲間は協力だったよね」


 自分の秘密を知られても、化け物だと分かっても、それでもまだ仲間と言ってくれることに、かのとは胸が熱くなるのを感じた。


 全員が部屋から出て行くと、なぎ爪戯つまぎをガミガミと叱る北王ほくおうの声が廊下に響いた。


「何で私まで」

「許してあげて」


 北王ほくおうの説教に混じって不満を漏らすなぎと、庇う蝶神ちょうがみ

 この家がこんなに騒がしくも明るい声で満たされるのは、なんだか不思議な心地がした。


 貴方のこと……正体を知ってもちゃんと人として見てくれる人はいるはずよ。

 前に蝶神ちょうがみにそれを言われた時は、半信半疑だった。

 血のつながりもない他人でそんな風に扱ってくれる人なんて本当にいるんだろうかと、想像もつかなかった。

 だけどなぎ爪戯つまぎがその人達だった。


 だから能力は、そういう人の為に使って。

 かのと蝶神ちょうがみの言葉を反芻し、布団を握る手に力を込めた。


かのとを出せ! ここで終わらすな!」


 廊下から騒ぎ続ける二人の声が聞こえる。

 かのとは、もう迷ったりはしないと思った。


 ◇


 息子の友人という二人は、その後も諦めずに食い下がった。

 先ほど一度は分かったと言った癖に、その実どこまでも粘る気でいるらしい。しかし、どう言われたって封印が完全でない以上、諦めてもらう方がお互いにとっていいはずだ。


「うるさい……」


 北王ほくおうはうるさい二人と蝶神ちょうがみを廊下に残し、一人辛かのとの部屋に戻って戸を閉めた。


「……父さま……」


 かのとは、真剣な表情をしていた。

 いつも不安そうな表情でごめんなさいを繰り返していたかのととは違って、覚悟の決まったような、突然大人に近づいてしまったような、そんな目をしていた。


「……もう一度だけ機会をください」

「封印をしたところでいつまでもつか……」

「それでもオレは諦めたくない」

「封印がなくなった時はどうするんだ?」

「正直どうしたら良いか分からない。でも“今は”それしかないから」


 片方の目の色をあやかしの母と同じ色にしたかのとは、北王ほくおうの方を向いて真剣に言った。かのとが自分の意思をこんなにはっきりと発言することは初めてだった。


「……頼む」


 それで北王ほくおうは、これ以上ダメだとは言えなくなってしまった。

 目の前にいるのはもう、守ってやらなきゃいけないだけの小さな子どもではなくなったのかもしれない。


ひのとを攫った相手はおそらく手強いぞ?」

「……それでもやる。ひのとがオレを助けてくれたから、今度はオレがあいつを……。それに……あいつらと協力するって約束したから」

「あいつらとはまだ会って間もないだろ?」

「オレを人間と言ってくれた。それだけで十分だ」

「……」


 危険な状況であることには変わりない。北王ほくおうかのとを守りたいという気持ちも。けれど今は、かのと自身が他者を守りたいと思うようになったということなのだろう。


「あーもう、分かったよ」


 北王ほくおうは頭を乱暴に掻きながら、渋々了承することにした。


「ただし、次にあやかしの能力が暴走する前に自力で何とかしろよな」


 守り切れないところへ行こうとするのなら、この先は自分自身で何とかしてもらうしかない。

 不安は残るが、北王ほくおうは成長しようとしている息子に賭けることにした。

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