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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
断念

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No.18「遮断壁」

「化け物」


 人間たちは、まだ幼いかのとにも容赦なくその言葉を放った。

 石を投げられ、泥をかけられ、そのたびに心に傷が増えていく。


 自分で選んでこうなのではない。好きであやかしの血を引いたわけではない。

 かのとにだって傷つく心はある。

 しかし誰もそんなこと、気にも留めない。


「化け物」


 繰り返し容赦なく降り注ぐ言葉の暴力に、かのとはただ唇を噛んで耐えるしかなかった。

 人間に、生まれたかった。

 その願いは、誰にも届かないまま泥にまみれていく。


 ◇


「あー…死んじゃったか~。詰めの甘いあいつらが悪いんだけどね」


 崖の下。かのとの能力によって精神を汚染され、お互いを殺し合うこととなった男二人が血まみれで横たわっている。

 その惨状を崖の上から眺めていたのは、額に星のマークのついた裸足の男。

 頭部には生物的なものではない、機械仕掛けの無機質な耳がついており、それが駆動音を立てて揺れた。名はリュー。


 彼は呆れ顔で呟き、かじりかけの食パンを持ったままその場で座り込む。

 あやかしの動き封じは出来ていたけど、能力封じの結界は張れてないんだよなあ。

 しばらく思案を巡らせる。


「う~ん……それにしても彼は脅威になり得るかな~? なるようには思えないんだけど……放っておいて良くない? みずち君とは違うし、“他の”、の方が怖い」

「誰と喋ってんの?」


 不意に背後から声をかけられ、振り返るとそこにいたのは悪魔のヤナギだった。リューはしばらく無言でヤナギを見つめ、ヤナギもまた無言でリューを見つめ返す。奇妙な間が生まれる。


「誰って、この食べかけの……食パンに決まっているだろ?」


 リューが自慢げに手に持った食パンを指し示し、さも当然のように返事をすると、ヤナギは不審そうな目でそれを見つめた。


「しょくぱん? ボクはトマトの方がいいなぁ」

「トマト? トマト……トマトか~」


 ヤナギもまた不思議な返答をするので、リューは一瞬面食らうものの、すぐに調子を持ち直し、営業スマイルのような笑顔で答えた。


「トマトは良いよね、色んな料理に使えて──……グルタミン酸といううま味もありつつ酸味と甘みを兼ね備え、水分も摂れる。小麦との相性もいい! というかパンとの相性もいい! トーストに塗って食べたい! 今すぐに!!」

「流石にそこまでは……」


 なぎたちを相手にしていた時は自分の世界観に浸りきっていたヤナギも、癖の強すぎるこの機械耳の男を前にするとテンションが落ちるようだった。


「かは~、おなか空きすぎて~なんか食べたいんじゃ~。このパン一切れじゃ足りないっ」


 乗ってこないヤナギに対し、リューはさらに騒ぎ方に拍車をかけて、子供のように地面にごろごろ転がりながら大声で空腹を訴えた。


「……じゃあ」


 しかし。その茶番もヤナギの次の一言によって突如終幕を迎えることとなった。


「その空腹、止めてあげよっか?」


 子どもらしからぬ陰鬱とした笑みを浮かべ、ヤナギは寝転がるリューにめがけて大きな刃を二振り同時に飛ばした。

 殺意の塊が飛来する。


「う~ん」


 ところが、リューはそれに即座に反応し、重力がないかのように軽やかに刃を交わし、空中にふわりと浮かんだ。

 驚くヤナギを空中から見下ろすリューからは、先ほどのふざけた表情が抜け落ちていた。

 今は、獲物を値踏みするような厳しい眼差しを向けている。


「今悪魔と戦う気は……ないんだけど」


 食パンを口に咥え、リューは腕を伸ばし手のひらをヤナギに向け、攻撃を放った。


「象徴 “うつ”──……!!」


 リューの手から閃光が放たれ、強烈な衝撃波となってヤナギを襲う。ヤナギのいた辺りは衝撃で地面がえぐれ、土煙が激しく舞った。


「……へぇ、厄介だね」


 土煙が収まると、攻撃を避けて無傷なヤナギが立っていた。

 リューは軽やかに空中から着地し、ヤナギに向き直る。


「ってか生き残りって居たんだね!」

「……キミは、飼い殺してあげる」


 殺気立つヤナギは、先ほどとは別人のようだった。


 ◇


 崖の下にて。

 相変わらず立ち上がることのできないかのとは、血まみれになって横たわる二人の男を、虚ろな目で見つめていた。


 自らの力が招いた惨劇。

 だが、今の彼が思いを馳せるのは、なぎ爪戯つまぎのことだった。

 二人が帰ってくる前に、動け。動けよ。

 ここに二人が戻ってくれば、彼らもまた、この男たちと同じ末路を辿ることになる。

 それだけは避けなければならない。


 ◇


 かのとの身を案じ、なぎ爪戯つまぎは森を駆け抜け、先を急いだ。

 かのとのいたあたりが近づいてくるにつれ、なぎは異変を感じ取った。

 空気が重い。そして、鼻をつく独特の甘く腐ったような匂い。

 微かだけどこの匂いは、あの時のあやかしと同じ。

 思い出したのは、かのとの背にあるのと同じ模様が肩に入った蟲人のあやかし、つまりかのとの母親の妹と接したときのことだった。


かのと君!」

かのと!」


 崖の下にたどり着くと、地面に倒れこんだかのとの姿があった。

 服の背面が大きく裂け、素肌と模様が覗いていた。


「……あれ? 模様が……違う……?」


 なぎが足を止める。

 以前見た蝶の模様ではない。もっと禍々しく、黒く脈打つ何かがそこにあった。じっと地面を見つめるかのとには、二人の声がちゃんと届いていた。


「み、る、な……」


 しかしかのとは、地を見つめたまま、喉を潰したような奇怪な声色で警告を発した。

 殺してしまう。殺したくないのに。


 すると突然、地響きとともに、かのとと二人の間に両者を遮るように金属の壁が地面からものすごい速度で出現した。

 視線が遮断される。


「間に合って……ないみたいね」

蝶神ちょうがみさん!?」


 壁を作り出したのは蝶神ちょうがみだった。

 彼女はかのとの方ではなく、なぎたちの方を向いて立ちはだかっていた。


「あの……何が……?」


 状況が呑み込めないなぎが問うと、蝶神ちょうがみが答えた。


かのとは……自分のあやかし能力チカラを制御できないの。“貴方達じゃ”かのとを見たら操られて死ぬわ」


 一方、壁の向こう側のかのとも壁の出現に驚き、霞む視界で辺りを見回していた。


「……蝶神ちょうがみ?」


 そこに立っていたのは、蝶神ちょうがみではなかった。

 白髪の男。圧倒的な威圧感を放つ父。

 北王ほくおう


「あ……父さま……」


 腰に手を当ててかのとを見下ろす北王ほくおうは、何も言わなかった。

 その沈黙が、何よりもかのとを追い詰める。


「あ……の……」


 かのとは、言葉に詰まりながらも押し黙る父親に、条件反射のように謝罪の言葉を口にした。


「ご……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい」


 目には涙が滲み、喉元は熱くなる。

 幼い頃から繰り返してきた言葉。自分という存在への赦しを乞う言葉。

 それでも尚、謝罪を繰り返した。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 悲痛な声をあげる息子をじっと見つめる北王ほくおうは、無造作に手を伸ばし、かのとの後頭部を強く掴んだ。

 そして、手のひらから伸びる能力の針で、容赦なくかのとの首を刺した。


「……何……」


 かのとはそのつぶやきを最後に、意識を強制的に断たれ、その場に突っ伏した。


「ったく……」


 北王ほくおうは乱暴にため息をついて、その場にどっかりと腰を降ろした。


蝶神ちょうがみ、そこの二人は任せた」


 壁の向こうに他に人がいると思わなかったなぎ爪戯つまぎは、その低い声に驚いた。

 誰かいるの。


「オレはかのとを連れて帰る──……」


 その言葉に、なぎは焦って動こうとした。かのとが連れ去られてしまう。


「待って」


 しかし蝶神ちょうがみなぎの腕を強く掴んで、それを制止した。その瞳は真剣だった。


「今のかのとに会わないで。あの子に、あなたたちを殺させないで……」

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