表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
断念

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/72

No.16「あくま」

 深い森の奥。

 木々の影に紛れ、爪戯つまぎかのとを遠くから見つめる影があった。男は木陰に身を潜め、苛立ち紛れに舌打ちをひとつ落とす。

 懐から「伝」と刻まれた木札――通信用の呪具を取り出す。

 結界は張れたようだが、戻ってこない。あいつら、何をしている。


 先行させた部下たちの気配が消えた。

 男は苛立ちを押し殺し、札に向かって声を落とす。


「おい、お前ら何をしている? 捕獲はお前らの──」


 しかし、次の瞬間。

 札の表面が不吉に揺らめき、耳障りなノイズが走った。応答はない。


「……チッ、通信障害か」


 男は役立たずの札を睨みつけ、再び舌を鳴らす。

 風が、微かにざわめいた。死臭を運ぶ風だ。


 ◇


 その頃――爪戯つまぎの屋敷。


 門を抜け、静まり返った廊下を二つの影が進んでいた。

 北王ほくおう蝶神ちょうがみ

 かのとの行方を追って、この人里離れた屋敷まで辿り着いたのだ。


 しかし、屋敷の中にはかのとの姿はなく。

 代わりに、客間に冷たく横たわるひとつの遺体があった。


 爪戯つまぎの母、爪炎そうえん


「……誰が、こんな……」


 蝶神ちょうがみが息をのむ。

 白い手で口元を覆い、その神々しい姿がかすかに震えた。

 頭部を撃ち抜かれ、無残な姿になったかつての契約者の姿。


 北王ほくおうは無言のまま、遺体の傍らに膝をついた。

 その鋭い眼差しが、焼け焦げた衣の痕跡と、頭の傷跡を冷静に見据える。


北王ほくおう? あのー……北王ほくおうさん?」


 蝶神ちょうがみが遠慮がちに声をかけるが、反応はない。

 北王ほくおうはただ、目を閉じ、静かに息を吐いた。


 脳裏に鮮烈に蘇るのは、過去の光景。

 最愛の妻であり、かのとの母であるあやかしが死んでいたあの日の記憶。

 同じように身体の一部が焼け焦げ、同じように頭を貫かれていた。

 同じ犯人、か。


 北王ほくおうの眉間に深い皺が寄る。

 思考の底で、ずっと忘れていた、あるいは忘れようとしていた何かが引っかかっていた。


「無視しないでくださいませんかね?」


 蝶神ちょうがみがふくれっ面で北王ほくおうの肩を軽く叩く。


「無視してないよ? 聞こえないふりをしていただけで」

「それを無視って言うの!」


 蝶神ちょうがみが抗議の声を上げるが、北王ほくおうの視線は一点を見据えたまま動かない。

 屋敷の空気が、硝煙の匂いと共にぴんと張りつめる。


「何よ、私と貴方の仲でしょ? 何かわかったの?」


 蝶神ちょうがみが再び問う。

 けれど、その言葉もまた北王ほくおうの耳をすり抜けていった。

 彼の意識は、ここではない場所へと飛んでいた。


 この感じ……まさか、あいつの。

 北王ほくおうの瞳が閃いた。確信めいた殺気。

 迷いなく立ち上がり、扉の方へと駆け出す。


「急ぐぞ、蝶神ちょうがみ!」


 その声には、普段の冷静さを欠いた緊張と焦燥が混ざっていた。


「え? え、ちょ、ちょっと待って!」


 蝶神ちょうがみは事態を飲み込めぬまま、慌ててその広い背中を追った。

 屋敷の静寂が、二人の足音を呑み込む。


 ◇


 場面は再び、森の中――かのと爪戯つまぎへと戻る。


 かのとは崖を背に、座り込むようにして荒い呼吸を整えていた。

 体内のバランスが崩れ、冷や汗が止まらない。

 だが、その眉がかすかに動き、風に乗ってきた何かを感じ取る。


爪戯つまぎ……オレのことはいい。それより、今すぐあいつを追ってくれ」


 崖に添えた指先に力がこもる。

 なぎが向かった方角から、異質な気配がする。

 その声音に尋常でない焦りを感じ取ったのか、爪戯つまぎは息をのんだ。


 ◇


 一方その頃――なぎ


 なぎの背後で、片腕を斬られた男が膝をつき、肩で息をしながら、呪詛のように呟いた。


「悪魔め……」

「……あくま?」


 なぎが振り返った瞬間。


「あはは! ボクは悪魔の一人、名前はヤナギ。好きな物はトマトで、嫌いな物は神さまとその手下!」


 少年――悪魔のヤナギが、無垢な笑顔で自己紹介した。

 血飛沫を浴びた頬をそのままに、まるで公園の遊びに誘うような表情だった。足元の鮮血さえなければ。


「悪魔って結局何?」


 なぎが素朴に首を傾げると、ヤナギは「あれ、知らないの?」と言わんばかりに肩を揺らし、楽しそうに続ける。


「ん~? そうだね~“神に対しての存在”みたいな?」


 軽い口調のまま、ヤナギは血のついた指を立てて語り出した。


「厳密に言うと悪魔ってのは、能力発動源のシンとは別の“マナ”を持つ者のこと。シンと違ってひとつしか持てないけど、そのマナによって身体に特徴が出る人もいるよ! 能力の種類で呼ばれ方も変わるんだ」


 なぎは少しだけ目を丸くする。


 整理しよう。

 神の持つシンはオリジナル。

 一般能力者のシンはコピー。

 そして悪魔はシン以外にも“マナ”という別の源を持つ者のことを言う。

 このマナの種類でさらに分類がされる、と。


 そう説明されてもなお、一般人のなぎには曖昧なままだった。


「えっと……とにかく神と対立してて、その仲間を殺す存在?」

「そーだよ!」


 ヤナギは正解をもらった子どものように嬉しそうに笑い、胸に手を当てる。


「だって神に仕えれば、次は自分が神になれるかもだし。なれなくても、神から能力を与えてもらえる」


 その声音は無邪気ですらある。欲望すらも、遊びの一部のように語る。


「だから、神に仕える人間は何でも言うこと聞いちゃうんだよね。ボクら悪魔と敵対してるから、殺そうとしてくるし」


 そして。


「だからボクは殺すの! 皆殺し♪ ところでお姉さんは関係者? それとも無関係?」


 その笑顔はあまりに純粋で、逆に恐怖を刺激した。

 しかしなぎは、ふと蝶神ちょうがみの言葉を思い出していた。

 神も悪魔も、等しく人。

 なんで今、それを思い出してるんだろ。

 なぎが黙ると、ヤナギはつまらなそうに肩を揺らして笑った。


「もうなんかいいや、めんどいし。みんなまとめて斬ってしまおう」

「っ……!」


 なぎの背筋に冷たいものが走る。殺気だ。

 ヤナギが左手を前に出すと、虚空から無数の刃が出現した。


「トマトの調理の開始だよ!」


 刃が、殺意の嵐となってなぎへ迫る。

 しかし、次の瞬間。

 硬質な音が響き、なぎの目の前に分厚い氷の壁が生まれた。


「氷の壁だ!? おお~冷凍トマトかな?」


 刃が跳ね返ったことすらどうでもよさそうに、ヤナギは無邪気に跳ねる。

 氷壁の向こう側。なぎの背後に、頼もしい人影が立っていた。


「なんで?」


 なぎが驚いて振り向くと、そこにいたのは爪戯つまぎだった。


かのとが言うから……」


 かのとに付き添っていた爪戯つまぎ

 だがかのとは、なぎの危機を本能で察知し、自分を置いてでも行くように強く指示したのだ。


「なんかごめん」


 なぎがほっとして息を整えながら言うと、爪戯つまぎは地面の血溜まりを指差し、眉をひそめる。


「それより、コレ。あんたの血?」

「違うよ? って、あれ? あの人は?」


 なぎは腕を斬られた男を探す。

 しかし、そこにいたはずの彼の姿は――もうなかった。

 逃げたのだろうか。いや、あんな傷で?

 血痕だけを残し、跡形もなく消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ