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半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】  作者: 神野あさぎ
断念

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No.15「小金瓜」

 葉を落としきった枯れ木が並ぶ森を、血を流しながら一人の男が駆けていた。

 呼吸は荒く、恐怖に顔を歪ませて、ただ生への執着だけで足を動かす。

 聞いてない。あんなのがいるなんて、聞いてない。


 男の脳裏に焼き付いているのは、仲間たちが肉塊に変えられた光景だ。

 それを成したのは、見た目にはあどけない子どものような姿をしていた。

 だが、その身体から伸びる鋭い刃――あるいは触手のような凶器で、笑いながら人を次々に刺し、返り血を浴びて無邪気に舌なめずりをする姿は、本来の子どもとは似ても似つかない。

 あれは、人の皮を被った異形だ。


「楽しい。やっぱいいよね! トマト!」


 背後から、無邪気な声が追いかけてくる。

 子どもは輝かしい瞳で、小さく恍惚と呟いた。


「楽しい……」


 ◇


 お母様! お母様!


 なぎの脳裏には、古い母との記憶がよぎっていた。

 それはまだ幼かったある日のこと。

 記憶は霧がかかったように曖昧だが、手を広げて飛び込むと、優しく受け止めて頭を撫でてくれる柔らかな手の温もりだけは、確かに覚えている。


 あのね……一つ聞いてもいい?


 なぎはそこではっと我に返った。かのとが大変なこんなときに、何でこれを思い出しているんだろう。


「外れそうって……?」


 地面に倒れこんで痛みに耐えるかのとに、爪戯つまぎが尋ねた。

 かのとは苦悶の表情で少し体を起こし、左肩を強く抑えている。

 そこにあるはずの枷が、悲鳴を上げているようだ。


かのと……!? 大丈夫!?」


 爪戯つまぎが駆け寄るが、かのとの呼吸は荒く、体が小刻みに震えている。

 冷や汗を流し、意識すら混濁しかけている様子に、何もしてやれない爪戯つまぎは狼狽えるばかりだった。


 なぎは、そんな二人を前にして思考を巡らせる。

 先ほどの記憶と、目の前で起きている現状。

 二つのピースがカチリと嵌まり、ある答えにたどり着いた。


「そうだ……この感じは……」


 母との、会話の記憶。先ほどの回想の続きを、もう一度たぐり寄せる。


『あのね……一つ聞いてもいい?』

『聞きたいこと? 何?』

『このお家……変な感じがするの』


 当時のなぎが感じた、肌を刺すような違和感。

 母はたしか、こう言っていた。


なぎ……それはね──』


 ◇


「……結界……」


 なぎが呟くと、爪戯つまぎは不思議そうに繰り返した。


「けっかい……?」


 なぎは母の教えを思い出しながら、確信を持って爪戯つまぎの問いに答えた。


「正しくは呪い系の能力の効果の一つ……多分、ある一定の範囲内のあやかしの動きを封じる……的な、ものだと思う。かのと君は半分があやかしだから、その影響が強く出てきたんだと思う……」

「結界って……どうすれば……?」

「呪い系の能力には必ず“媒介”が有るから──それを破壊……もしくは、能力者自体を……」


 そこまで言って、なぎは唇を結んだ。

 口で言うほど簡単なことではないと分かっている。

 だが、今まで自分はかのとに助けてもらってばかりだった。

 だから今度は、私の番。


爪戯つまぎ君……」


 なぎ爪戯つまぎに目も合わさずに歩き出した。

 その背中には、悲壮な決意が滲んでいる。


「私が媒介を探して破壊してくるから、かのと君をお願い!」


 意を決してその場を去ろうとしたなぎだったが、爪戯つまぎの冷静な声が引き止めた。


「待てよ。結界を発動させてる能力者が居るかもしれないんじゃ……会ったらどうすんだよ。あんた……戦えんの? 敵とは限らないけど……」


 図星を突かれ、それまで真剣な表情だったなぎの顔が、ぴきりと引きつった。


「その時は逃げりゅ」

「りゅ?」


 敵に遭遇した時のことを想像すると恐ろしくて、思わず語尾が崩壊してしまった。だが、現状を打開するにはやはり作戦を変えることはできない。

 なぎは咳払いをして誤魔化した。


「と、とにかく! 相手の目的は分からないけど……もしかしたらかのと君の前に現れるかもしれないし……その時は、守ってあげて」


 爪戯つまぎは痛みに震えるかのとを一瞥し、深くため息をついた。

 この状態でかのとを連れて動くことはできないし、無防備なかのとを一人で置いていくこともできない。結局、それしか手立てはないのだろう。


「……分かったよ。でも、無茶すんなよ……何かあったら逃げてこい」


 爪戯つまぎの言葉に、なぎはようやく振り返って目を合わせた。


「まぁ……二人も守りながら戦うとか正直無理だと思うけど……かのとには恩あるし、あんたの逃げる時間くらいなら稼げるかもな」

「うん! 頼りにしてる!」


 なぎは花のような満面の笑顔で手を振り、媒介を探しにその場を離れた。

 爪戯つまぎは去っていくなぎをしばらく見送っていたが、その背後――木々の影には、すでに怪しい人影が潜んでいた。


 ◇


 結界。家のとは少し違うけど、媒介があるのには変わりないはず。

 なぎは森の中を走った。

 肌を刺すような不快な感覚が強くなる方へ。


 媒介の場所。確証はないけど、なんとなく分かる。こっちだ。

 直感を信じて進む。

 そこへ前方から、荒い足音が聞こえた。

 かと思うと、次の瞬間には走ってきた男に勢いよくぶつかられ、なぎは無様に尻餅をついた。


「いった……!」


 ぶつかった男は舌打ちをして、なぎに目もくれず、背後を気にしながら去ろうとする。

 何が何だか分からず、その不躾な態度になぎが苛立ちを覚えると、すぐに背後でその男が叫び声をあげた。

 肉が断たれる音が響く。

 驚いてなぎが振り返ると、男の右腕が宙を舞っていた。

 切断面から鮮血が噴き出し、地面を赤く染める。


「うーん、これはこれで楽しいけど……」


 今度は、別方向から声がした。

 恐る恐る視線を向けると、そこには艶やかな黒髪の子どもが立っていた。

 あどけない顔でピースサインを作り、無邪気に笑っている。


「もうちょっと抵抗してくれるともっと楽しい! だから頑張ってよ! トマトさん♪」


 よく見ると、ピースをしているのとは反対の右腕には、指先にするどい爪のついた武具が装着されており、その切っ先は先ほど男を切りつけたときについたであろう血で濡れていた。

 子ども?


「……って、トマト?」


 目の前の惨劇と、子どもの訳の分からない言動。

 あまりの落差になぎが思わず反応すると、その子は何食わぬ顔で言った。


「トマトだよ。赤い奴……知らないの? みんな斬ったら出てくるでしょ……? あの赤いの」


「え……何を言ってるの?」


 先ほど人を斬りつけ片腕を落としたとは思えぬような幼い会話の内容に、拍子抜けてなぎは思わず普通に会話を続けてしまった。


「トマトだよ! 水だけあげたら怒るんだよ!」

「ごめん。分からない……」


 繰り広げられる狂気的で幼い会話に、腕を斬り落とされうずくまる男は、心の中で悪態をついた。

 悪魔め。

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