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第6話:宮本玲奈

 直也とミラとMCとのトークがいったん区切られ、他の出演男性たちのコメントが求められている。


 GAIALINQ会議室の空気は、もはや真冬の無音。

 誰も口を開かない。

 ――いや、開けなかった。


 あの「空港ラウンジの告白」が爆弾すぎて、全員の思考がフリーズしていたのだ。


 麻里が小さく呟いた。

 「……なんで、あんな美談みたいにまとめられてるの」

 亜紀が即答する。

 「美談じゃないのよ。これは“もらい事故”よ」

 莉子は頭を抱えたまま。

 「……でもこんな美談なまとめられ方したら、燃料投下になっちゃうよね……」


 そこへ、画面が再び切り替わる。

 MCが異様にテンションを上げている。


 >「――さぁここで! 一ノ瀬さんから、滝沢ミラさんへ、

  “あるプレゼント”があるそうです!」


 「……プレゼント?」

 私が思わず声を出すと、亜紀がすぐに叫んだ。


 「ちょっと待って! 直也くん、なんでそんなサプライズ仕込んでんの!?」

 「やめて……もう何も出さないで……」

 麻里の顔が引きつっている。


 画面では、直也が淡い灰色の小箱を取り出していた。

 シンプルなリボン。ブランドロゴが一瞬映る。


 ――“Kalevala”。


 「……あぁぁぁぁぁっっ!!」

 私たち四人、完全に悲鳴。

 「それカレワラじゃない!?」

 「サステナブルジュエリーの代表格!」

 「しかもミラのブランド理念“Élan Mirable”とど真ん中で被ってる!」

 「よりによって、最高のセンスで地雷踏んでる!」


 直也は、落ち着いた表情で箱を差し出した。

 >「滝沢さん。

  あなたが世界で発信している“持続可能な美しさ”という理念、

  GAIALINQの目指す“持続可能なテクノロジー”と、根は同じだと思いました。

  ですから、そんなあなたへの敬意を込めて、そして『不戦敗』となったお詫びも込めて

プレゼントさせてください」


 MCが感嘆の声を漏らす。

 >「いやぁ……素晴らしいですね! 紳士道のこれは極みですね!」


 滝沢ミラは、箱を開けて中を見た瞬間――息を呑んだ。

 北欧の金細工職人による、雪解け水を模した純銀のペンダント。

 ラグジュアリーではなく、“祈り”のようなデザイン。


 >「……こんな……素敵なものを……」

 涙がぽろぽろと零れ落ちた。

 >「私……この数ヶ月の中で、こんなに胸が温かくなったのは初めてです……!」


 「はあああああああああああああああああああ!?」

 亜紀が椅子を蹴り飛ばした。

 「“温かくなった”じゃないのよ、冷やしてぇええ!」

 麻里が机を叩き、莉子が「これは完全に演出過多でしょ。いくらなんでもやり過ぎじゃないの!」と絶叫。

 私は冷静を装おうとして――無理だった。


 (……ダメだ、これもう完全に次に向けた燃料投下になっちゃうじゃん!)


 画面の中、滝沢ミラは震える手でペンダントを胸に当てた。

 >「私……これを生涯大切にします」

 >「いえ、きっともっと素敵な方とミラさんなら出会えますよ」

 >「――もうきっと無理です……!」


 そして次の瞬間。

 滝沢ミラが、涙のまま直也に――抱きついた。


 時間が止まった。

 スタジオも、会議室も黙り込んだ。


 「……」

 「……」

 「……」


 爆発は、三秒後に起きた。


 「ぎゃああああああああああああああああああ!!!」

 亜紀さんが立ち上がる。

 「抱きついた!? 抱きついたよね!? みんな見た!?」

 「放送事故よ! 放送事故です!」麻里が叫ぶ。

 「カットできなかったの!? 何やってんのよAmasonのコンテンツ部門は!」

 私は頭を抱えた。


 (……誰か自分のスタンドに頼んで『ザ・ワールド』を行使して……)


 画面ではMCが必死に場を繕っている。

 >「えーっと……なんとも感動的な再会でしたね!」

 >「まさに“リスペクト”が結んだ奇跡の瞬間です!」


 「違うだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 私たち全員が総ツッコミ。

 まるでGAIALINQオフィスが実況スタジオ。


 でも、最後に――直也がそっとミラを支えながら言った。

 >「ありがとうございます。

我々に恋愛する時間はありませんでしたけれど、

でも、お互いに敬意を持てる素敵な出会いがあったことに感謝しています」


 その穏やかな声に、スタジオが静まり返った。

 ミラは泣きながら頷き、

 >「……はい……ありがとうございます……」と囁いた。


 エンドロールが流れる。

 >“To the man who turned love into respect.”


 私は深く息を吐いた。

 麻里も、亜紀も、莉子も言葉を失っている。

 冷静さが戻った頃、私は静かに呟いた。


 「――やっぱり、直也って“恋愛ジャンルの天災”だわ」


 誰も反論しなかった。

 GAIALINQの夜は、ただ青白いモニターの光に包まれていた。


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