エピローグ2:神宮寺麻里
――金曜の朝。
GAIALINQフロアの共有ディスプレイに、ニュース速報が流れた。
> 『滝沢ミラ、米フォーブス「今年最も影響力のある女性」入り。
> 一ノ瀬直也氏との対談企画が海外メディアで進行中。』
……目を疑った。
コーヒーを口に含んでいた亜紀が、文字どおり吹いた。
「ぶはっ!? ちょ、ちょっと待って、これ、夢じゃないよね!?」
玲奈が淡々と画面を指差す。
「URL、フォーブス本誌ですね。……ガチです」
私は無言でノートPCを閉じた。
「……ねぇ、なんで“対談”が進行してるの?」
「ていうか、“進行中”ってなに? 収録じゃなくて??」
亜紀が椅子の上で立ち上がり、玲奈がため息。
「……もう、“終戦”じゃなくて“休戦”だったってことね。」
その横で、莉子がひそやかに呟いた。
「……でも、フォーブスに“影響力ある女性”入りって……あの番組から1か月でしょ……?」
「人の人生、どんだけ加速させる気よAmason」
私は頭を抱えた。
「お願いだから直也、海外メディアでまた“奇跡のコメント”とかやめてね……」
「うん、でも多分もう、“不戦敗”超えて“無限延長戦”だと思うよ」玲奈が即答。
亜紀が机を叩いた。
「……だーかーらー!! 一回、ちゃんと本人に説明会しよっ! “恋愛関連業務停止命令”とか出さないと!」
直也は、今日は五井物産グループ会社の幹部との懇親会に、社長や副社長、新専務、そして新常務となった元IT統括取締役と一緒に出席していて留守だ。新しい経営陣の顔見せ、ご挨拶というところだが、グループ会社の幹部のお目当ては間違いなく直也だろう。
「もうそれがフォーブスだろうがニューズデイズだろうが、はたまたAmasonだろうが、驚かないけどさ……」
玲奈は早くもキレ気味。
私はその後を引き取るように言った。
「その結果周囲の女性がヤキモキする事を、いい加減に直也は自覚した方がいいね」
「滝沢ミラという、想定外のビーンボールはいらないわよ! もう本当に迷惑だから、一度みんなで直也くんと団体交渉しましょう」
亜紀“組合委員長”のイライラも限界だ。
GAIALINQ女性陣、緊急作戦会議開催――。
その時だった。
莉子がモニターを指差して、真っ青な顔をした。
「……ねぇ、みんな。Amason Streamのトップ見た?」
私たちは同時に画面を覗き込む。
そこには、新しい番組の予告映像が。
> 《The King’s Choice Season 8》
> ――“今度は、彼が選ぶ番です。”
そして。
暗転した画面の中央に、ゆっくりと現れる男性のシルエット。
スーツ姿。
腕時計。
短く整えられた髪。
そして――あの、見覚えしかない後ろ姿。
玲奈が凍りついた声で言う。
「……これ、どう見ても直也的シルエットだよね?」
亜紀:「終わってないじゃない、全然!!」
麻里:「というか、Season8って、何その続編制度!?」
玲奈:「これ、Amason、完全に味しめてるでしょ……」
莉子:「……ってことは、次は、“The King’s Choice”……?」
画面の下に浮かぶ文字。
> Coming Soon ― 世界配信決定。
――GAIALINQ会議室、沈黙。
……そして次の瞬間、
「ぎゃああああああああああ!!!」
女性陣、全員絶叫。
私は頭を抱えながら、ため息混じりに言った。
「……うん、世界が燃える前に、まずは五井物産の広報部と危機管理室に連絡しよっか」
その横で玲奈がつぶやいた。
「……Season8、タイトル変えよう。“The Chaos’ Choice”に」
GAIALINQの一日は、
――今日も平和ではなかった。