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・・・猫は楽の前兆である

 多摩地区の猫の居住を管轄するJANIA多摩住民登録本部。そこの情報課のサブさんはベテランの情報屋だ。俺は受付番号発券機を無視してカウンターに詰め寄る。


「サブさん事件だ!」


 老眼鏡を掛け新聞を読んでいた初老のサビトラ猫が顔を上げる。


「おお、どうしたジャンちゃん」

「姐さんが消えた!」


 俺は橘家で見聞きしたことをサブさんに伝える。


「追い出されたのかもしれない!なんて連中だ、金はあるクセに!」

「いや、金はあると見せかけて内情火の車なんて家はザラにあるぞ。お前ちゃんと裏付け調査したか?」

「したよちゃんと!」

「どいつに頼んだ」

「今井ムギ太って奴だ!」


 その瞬間サブさんの表情は凍り、頭を抱え始めた。


「な、なんだよサブさん!」

「・・・お前、それやっちまったなあ~・・・」

「ええ?!」


 俺が驚いていると奥からのっそり出てきたのは、俺よりも一回り体格がデカく眼光鋭い黒猫のパピ局長。


「スカジャン、今井に引っ掛かったのか?」

「い、今井ってヤベえ奴なんすか?!」


 サブさんと局長が語るところ、フリーで興信所を開いている今井ムギ太という猫は、口先では調子のいいことを吹聴(ふいちょう)しまくり親切を装って安い料金で仕事を請け負うが、その内容はといえば、まあ雑、ただ雑、とにかく雑。俺達ブローカーが入手できる範囲の情報を横流しするだけの手抜きサプライヤーだという。


「で、でも、今井の飼い主は大手企業の出身ですよね?!」


 俺は今井の名刺を取り出す。裏側には『元リ●●●ト出身飼い主のネットワークを駆使!確実な情報を安価でお届け!』という(うた)い文句が躍るが・・・。


 確かに言われてみれば他人のふんどしで仕事してる実はダメな奴感漂う・・・。


「今井の飼い主は会社の経費使い込みがバレて退社したんじゃなかったか?」

「ですねぇ、卒業じゃなくて退学です」

「なんだとぉぉぉ!!!」


 それじゃ俺は、一番大事な案件で一番のハズレくじを引いちまったということか?!


「どどどどどうしよう!俺は姐さんとチビ達をお菓子の家に入れちまったのか?!」


 ガタガタ震える俺を局長はその貫禄で落ち着かせる。


「とにかくまずはアンジェラがどこに消えたかだ。これは空いてる局員にビラ配りと聞き込みをさせよう。それから橘家の再調査だ。アイツに頼むといい」

「アイツ?」

「チャン・トドロキだ」


 チャン・トドロキ。


 西早稲田を拠点にし、かつて伝説の情報屋として名を馳せた名プレーヤー。今は隠居の身で、気に入った依頼しか受けない気まぐれな猫だという。


「チャンはすごいぞ、アイツはどんな秘密も暴く。水に流したはずの過去も逆流だ」

「猫界の帝国データバンクとか言われてましたねぇ」

「そいつはすごい!でも気に入った依頼しか受けないんですよね?」

「大丈夫だ、お涙頂戴に弱い」


 局長はその場で新宿本部に電話を掛け、姐さんの失踪の原因を調べ、置き去りにされた子猫を保護するために橘家の素性調査をチャン・トドロキに依頼したいと連絡してくれた。


「向こうの局員も引き受けてくれるだろうってよ」

「確かチャンも子猫の時に母猫と引き離された奴でしたよね」

「そうだ、だから一球入魂で調査してくれるはずだ」

「おお~!チャン様!!」


 俺の視界に天から差し込む光が見え、天使が吹くラッパの音が聞こえる。


「それから子猫達の状態も確認しなくちゃいけない」

「あ!俺、発信機付けました!」


 すぐさまパソコンを開き発信機の位置確認をする。子猫のケージにつけたものと橘家の車につけたもの、どちらの発信機も同じ地点にいることを示し、そこは橘家から3km、車で8分の位置の場所だ。


「どこだ?ここ」

「ジャンちゃん、ストリートビューにしてみてよ」


 地図を起こし住所を打ち込むとリアルな街の景色が現れ、画面を動かすとある建物に検索した住所を示すピンが刺さっていた。それを見て俺らは言葉を失う。


「・・・こ、これはっ・・・!」

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