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リリエル・アステリア・コースト

「貴女が澄香ちゃんね、初めまして、私はリリエル。とっても、わからないかしらね。」

「リリエルさん、赤子をあやすのに慣れていらっしゃるのですね、なんといえば良いのか、以外だと感じます。」

「旅の中で、何人かの出産や育児に携わったのよ。それで慣れたのかしらね。」

 ディンと清華の家に行った翌日、今度は澄香に会うべく、リリエルは昼間に清華の家を訪れた。

 夫の哲郎は今日は道場の方に行っている、結婚式で挨拶をしたきりだったが、優しそうな男性、というイメージを持っていたリリエルは、安心して清華を任せられる、と思っていた。

 旅の中での心境の変化、まるで、清華を妹の様に感じていた、妹に娘が出来たのだから自分は叔母の立場になるのか、と心の中で年齢を感じている。

「あーうー!」

「あらあら、元気な子ね。お母さんに似て、美人になれるわよ、貴女。将来が楽しみね、清華さん。」

「ありがとうございます、リリエルさん。それで、今回はどれ位の期間の滞在になるのでしょう?」

「そうね、一か月程度滞在しようと思っているわ。俊平君の子供達にも会いに行かないといけないのだし、そろそろ修平君も結婚するのでしょう?」

 そう言えば、と清華は思い出す、修平がそろそろ結婚をする予定で、結婚式の招待状が来ていたな、と。

 出席にして返したが、それが確か、半月後だったか、澄香の為にベビードレスを予約していて、というのを、育児の日常の中ですっかり忘れていた様子だ。

「リリエルさんは出席されるのですか?」

「えぇ、修平君から招待を頂いたの、竜太君の結婚式以来かしらね?皆が揃う場だものね、行かないのも駄目だと思うの。ディン君から衣服のレンタルを済ませた方が良い、って言われたから、早めに来たのよ。」

「そうでしたか。それは、修平さんも喜ばれると思います。また皆さんで集まれるのも、楽しみです。」

 澄香が泣き出し、清華の方が良いという素振りを見せた為、清華に澄香を渡して、リリエルはため息をつく。

「私もね、結婚しようかと言われた事があったのよ。別の世界を旅してる時に、その旅先で、告白されたの。ただ、私は別の世界の人間、帰るべき場所がある、と思って、断ったのよ。でも、清華さん達を見てると、結婚するって言う選択肢も悪くはないのかもしれない、とは思うわ。ただ……。ただ、こんなにも穢れて、血に染まった私が、結婚して家庭を持つ、そんな事が許されて良いのかしら、とも思ったわ。」

「……。私は、リリエルさんの過去を許す事は出来ません。それは、今でも変わらない感情です。人を殺め、生きていく為にと言って殺戮をした、その過去は消え去る事は無いと思うのです。ただ……、それでも、今を生きる者として、幸せになる権利はある、とも思うのです。私も、人間を殺しました。それは、人間同士の殺し合いが許された世界だった、法律や憲法と言う物が通じない世界だった、でも、この世界ではそれは重罪になります。ですから、私も悩みました。異世界の人だったとしても、世界を守る為だったとしても、犠牲にしてしまった人がいる、そんな私が幸せになっても良いのか、と。」

「貴女は私とは違うもの、良いんじゃないかしら?」

「……。結論としては、私はこの十字架を生涯背負わなければならない、と感じました。ただ、今を生きる者として、報いる為には、世界を守った事が正しいのだと、そう死者に伝えなければならないとも感じました。ですから、リリエルさんが幸せになる、結婚をして、人並みの幸せを得る、それは間違いではないと思います。」

 リリエルの悩み、それは、人殺しの暗殺者であった自分が、結婚して子供を産み、という営みをしていいのかどうか、だった。

 ディンは、それも人の営みだと言っていた、世界を守る為に、犠牲にしなければならない命はある、そうやって、人間は守られてきたのだ、と。

 ただ、リリエルの中で、踏ん切りがつかなかった、それが事実だ。

 清華の言葉を聞いて、リリエルは、清華が大人になったのだなと感じる、昔の清華だったら、こんな言葉は出てこないだろう。

 そしてそれは、同じ様な経験をした仲間だからこそ、言える事なのだろうと感じ取った。

「そうね、生きている限り、人の営みをやめてはいけない、ディン君もそう言っていたわ。私達は守護者、そして何より、今を生きる者。……。そうね、確かにそうだわ。十時かは生涯背負わなければならない、でも、幸せになる事が、報いになる。清華さん、貴女のお陰で、少し吹っ切れたわ。これで私が結婚をするか、子を授かるかはわからないけれど、でも、幸せだと思える人生を歩む事をやめてはいけない、そうよね?」

「はい。私はそう思ったから、結婚をしたのです。守護者として、一人の人間として。ディンさんは、結婚はしないだろうと仰られていました、自分は人の営みからは外れた存在だから、と。しかし、私達はそうではない、と思い至ったのです。」

 清華ももう二十七歳、だいぶん成熟してきた頃だろう、とは思っていたが、リリエルは、その成熟した考えに驚いていた。

 妹だと思っていた、まだまだ面倒がかかると思っていた存在、それが清華だったはずだったのだが、存外に大きくなったじゃないか、と。

「それじゃ、私は行くわね。また会いましょう。」

「はい、次は修平さんの結婚式、でですね。」

「澄香ちゃん、お母さんに大事にしてもらうのよ?」

 そう言って、リリエルは清華の家を出て、ホテルに戻る。

 今回は急ぎではない、転移魔法を使わずに、東京で取ったホテルまで、タクシーと電車を使って戻る。


「……。」

 電車に揺られながら、これからの事を考えるリリエル。

 清華に言われた、十時かは背負わなければならない、しかし、今を生きる者として、という言葉、それを思い出しながら、自分が幸せになる方法を考える。

 結婚をして家庭に入る、というのは、リリエルの性に合わない、とは感じていた、自分は気楽に旅をするのが性に合っている、それをする為に家庭を手放す、というのも馬鹿々々しい。

 そして、星の力というのが遺伝するのか、それともリリエル一代きりの力なのか、それもわからない。

 もし継承されるものだとしたら、その継承する相手も探さなければならない、それは、次代の守護者への餞だ。

「そろそろ乗り換えかしらね。」

 ディンから受け取ったスマホ、それは、異世界へのパスとしての役割と、セスティアにおいては常に最先端の状態へとアップグレードされるものだ、ディンの戦闘技術ばかり見てみて、科学的な技術を知らなかったリリエル達は、そんな機能をつけられるディンに心底驚いていた。

 ただ、異世界で、スマホが無い世界などでは人前では見せない、それが鉄則だったのだが、リリエル達は今の所、それを守っている。

 異世界の事を知るきっかけになってしまう、そうなった場合、記憶を忘却しなければならない、とディンは言っていて、自分達の不注意でそれをさせるのは申し訳ない、とリリエル達は考えていて、セレンもそれに倣っていた。

 バッテリーの交換もいらない、充電も必要ない、そんなアイテムを持たされている、という事実に驚いてはいた、リリエルの常識では、通信装置は巨大なバッテリーとアンテナが必要で、軍が使っていた程度だったからだ。

「こっちかしらね。」

 今日はこの後は予定がない、ディンは仕事だと言っていたし、竜太達も仕事だろう。

 セスティアに来るのは一年ぶりだが、この世界は発展の仕方が早い、いつの間にやら、と来ていない内の発展を眺めるのも良いだろうか。

 東京駅へ行ってみよう、と行き先を変更し、電車を乗り換えるリリエル。


「あら竜太君、私と食事?」

「はい、リリエルさんと、久しぶりにご飯行きたいなって思ったんです。」

「ありがとう、竜太君。」

 東京駅を散策していたら、竜太から連絡が来た。

 時間としては夜七時、丁度夕食を何処で食べようかと悩んでいた所だったリリエルは、竜太の誘いに乗って少し移動する。

「お久しぶりです、リリエルさん。」

「一年ぶりかしらね、竜太君。」

 転移で飛んできた竜太、竜太は、ディンより少し小さいが、筋肉質な体はディンと同じで、右手には包帯を巻いていた。

 竜神の紋章、それは日常生活でひけらかすものではないのだから、と何時だったか言っていただろうか、竜太はディンと違って、隠匿の魔法が使えない、とも話をしていた。

 その為、包帯を巻いて隠しているのだ、と。

「お寿司なんてどうでしょう?」

「良いわね、ほかの世界じゃ、生魚なんて食べる事が殆どないもの。」

「じゃあ、父ちゃん行きつけの店に案内しますね。」

「えぇ、分かったわ。」

 すっかり大人になった竜太を見て、シードルが大きくなっていたら、こんな風貌だったのだろうか、と少しだけ感傷に浸るリリエル。

 しかし、シードルと竜太は違う人間、それを思い出して、その考えを振り払う。


「大将、二人何ですけど、空いてますか?」

「お、竜太君!今日は空いてるよ!そっちの美人さんは嫁さんじゃないな?」

「はい、友人のリリエルさんです。」

「初めまして、リリエルよ。」

「おー、外国人さんだってのに、日本語が流暢なんだな!さ、座ってくんな!」

 一見お断り、な寿司屋に足を運んだ二人、リリエルはパッと見外国人に見られる顔立ちや髪色をしているから、日本語で話しかけられた事に、大将は驚いていた。

 実際は、ディンの掛けた魔法による産物なのだが、それに気づく事は、一般人ではありえないだろう。

「それで、竜太君はお仕事は順調かしら?」

「はい、おかげさまで、父ちゃんのサポートで手一杯ですけど、でも、楽しくやってます。」

「奥さんとは上手くやっているのかしら?」

「はい、良いお嫁さんを貰った、って思ってます。結婚して一年位ですけど、喧嘩する事もなくて、向こうが大人なんだなって思わされてます。」

 酒を注文して、そう言えば竜太はディンと違って酒が飲めるのだったな、とリリエルは思い出し、ビールを乾杯して飲む。

「この世界、本当に便利よね。エールなんて、冷やすのは大変なものでしょう?この世界の文明、って言うのは、本当に発達しているのね。」

「ここより科学的に発達してる世界もある、って父ちゃんは言ってましたけど、行った事は無いんですか?」

「そうね、科学的にはっていう所はまだ行った事がないかしらね。代わりに、魔法の文明が高度に発達して、という世界は何個か見て来たわ。」

「そう言う世界はある、って父ちゃんも言ってましたね。転移魔法なんて、初期の初期魔法だって世界もあるって。僕、びっくりしましたよ。」

 ビールを飲みながら、寿司が出てくるのを待ちつつ、話をする二人。

 ここの大将はディン達の事を知っていて、尚且つ友好的である為、オフレコでという約束を守ってくれている、だから話をしても問題ないと言う訳だ。

 ディンがよく竜太や子供達、悠輔、そして異世界の事を知っている外園を連れてくるのだが、口が堅いのは保証する、と言っていた為、竜太も信頼していた。

「かんぱち一丁!」

「ありがとうございます。」

「頂くわね。」

 そんなこんな、話をしながら寿司を堪能するリリエルと竜太。

 リリエルが回った世界、色々な発展の仕方をした世界、それを聞くのが、竜太の楽しみの一つだ、と言っていた。

 竜太は他世界に飛ぶ程の力は持っていない、今では潜在能力も六割は使いこなせているが、次元転移を使える程ではない。

 だから、こうして話を聞くのが好きなのだ、と。


「さて、そろそろね。」

 竜太とお開きになって、ホテルに戻ってきたリリエルは、そう言えば両親の命日が明日だという事を思い出す。

 命日位しか帰っていない世界だが、両親とシードルの命日には欠かさず戻っていた。


「……。」

 だいぶん古ぼけてきた、木の墓標。

 村は再建されて、今では活気に満ちている、新しい統治者によって安定した世界、戦争は終わりを告げ、平和が訪れた世界。

 ここで、リリエルは生きていた。

 そして、最期にはこの世界で骨を埋めるのであろう、と考えていた。

「お父さん、お母さん、来たわよ。」

 ピノに頼んでいた花を持って、墓標の下に供えるリリエル。

 暫く黙祷をして、村の方の活気に耳を傾ける。

 あの頃とは違う、もう砲台も撤去された、平和な村。

 あの頃の生き残りもいる、懐かしい村。

「たまには、あの子達に会っておこうかしらね。」

 戦争の生き残り、向こうはリリエルの事を覚えていなかったが、リリエルは覚えていた、その面々に会おう。

 リリエルはそう考えて、村の方へと足を運んだ。

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