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2 出逢いと別れ

とっっってもお久しぶりの更新です!

タイトルを「追放された氷の令嬢は騎士団長に甘くとかされる」から変更しました。

また、第1話を少し改稿していますので、内容を思い出しがてらお読み頂けると嬉しいです。

「……これ、食べる?」


 コロンと差し出されたのは、鮮やかな緑の色紙に包まれたキャンディだった。

 涙で濡れた顔を上げると、心配そうにフランチェスカを見つめる赤毛の若い男と目が合った。


 毎日休みなく続く、厳しい妃教育。

 一人でこっそり泣きたくなったとき、七歳のフランチェスカはいつも、王宮図書館の北西の隅に向かった。

 図書館ならば教師達は咎めないし、勉強嫌いのアレッシオに遭遇することもない。

 そこはフランチェスカのささやかな避難場所だった。


 赤毛の男はフランチェスカの小さな手の平にキャンディを乗せると、涙の理由を詮索することもなく、少し離れた場所で読書を再開した。

 自身もキャンディを口の中で転がしているらしく、時折コロンと小さな音が鳴る。

 それが男との出逢いだった。


 フランチェスカの避難場所は、男にとってもお気に入りの場所であったらしい。行けばたいてい、そこには男の姿があった。

 兄よりずっと年上で、父よりはずいぶん若いその男と、急に打ち解けたわけではない。

 男はいつ会っても口の中でキャンディを転がしていて、フランチェスカの姿を認めると、コロンと一つキャンディを差し出した。それだけのやり取りが何度か続いた。


 五回目に会ったとき、初めて男はレオと名乗った。

 フランチェスカもまた名乗ると、レオはなぜか少し困った顔をして、「ここで私と会ったことは、他の人には話さない方がいいかな」と言った。

 不思議に思いつつも素直にうなずくと、レオは「良い子だね」と微笑んで、大きな手でフランチェスカの頭を撫でた。


 その日から、会ったときには少しずつ話をするようになった。

 と言っても、レオは自分のことはほとんど話さず、もっぱらフランチェスカの話に耳を傾けた。


 フランチェスカが苦戦している課題を見ると、「まだ小さいのにこんなに難しいことを勉強しているなんて、フランはすごいな」と頭を撫でた。

 そして問題の解き方を教えてくれた。

 その教え方は厳めしい教師達よりもずっとわかりやすかった。


 フランチェスカが元気がないときは、楽しい気持ちになる絵本を読んでくれた。フランチェスカをひょいと膝に乗せて。

 自分で文字が読めるようになってから、フランチェスカにこうして読み聞かせをしてくれる人はいなかった。アレッシオの婚約者に決まってからは、家族も小さな淑女としてフランチェスカに接するようになっていたから、幼い子どもとして扱われるのは久しぶりのことで、なんだかくすぐったくて、同時に肩の力が抜けるようだった。


 そんなゆるやかな交流は半年ほどで終わった。


「遠い所に行くことになったんだ。フラン達が作るこの国の未来を守りに行ってくるよ」

「……レオ様、また会えますか……?」


 フランチェスカが寂しさに涙ぐむと、レオは少しの間沈黙してから、「約束する」と微笑んだ。それからフランチェスカの両手いっぱいにキャンディを握らせ、「良い子でね」と頭を撫でた。

 その数日後、レオは細身の体に煌びやかな鎧をまとい、数名の騎士と共にひっそりと王都を旅立った。


 レオの正体がレオナルド王弟殿下だと知ったのはその後のことだった。


「レオナルド殿下は武よりも文に優れた方。この国の将来に絶対に必要な御方だ。その殿下を西の紛争地帯に送るなど、みすみす死にに行かせるようなものではないか!」


 宰相に相応しくいつも冷静沈着な父が、珍しく憤っていた。


 数年前から隣国との小競り合いが続く西の国境地帯。

 国境を守る西境騎士団は長期にわたる紛争により疲弊している。騎士団の士気を高め国を勝利に導くため、王族自らが出向いて指揮を取るべきである。

 ――そう声高に主張したのは王妃であった。


 そんなものは建前で、愛息子アレッシオに次ぐ第二位の王位継承権を有する王弟レオナルドを、王都から遠ざけようとしたのは誰の目にも明らかだった。

 幼い頃から優秀と評判だったレオナルドだが、彼自身は年の離れた兄王を慕っており、王位への野心をのぞかせたことは一度もない。

 だが王太子アレッシオの勉強嫌いと我儘な振舞いが知られるにつれて、「レオナルド王弟殿下こそが次期国王に相応しいのでは」との声が上がるようになった。アレッシオを溺愛する王妃がこれを黙って放置するはずがなかった。


 レオナルドは名ばかりの西境騎士団長に任ぜられ、王都から遠く離れた西の国境砦へと送られた。

 あわよくば命を落とすことまで、王妃は期待していたのだろう。レオナルドは、武術は剣を嗜む程度で、実戦経験はおろか騎士として訓練を受けたことすらなかった。そんなレオナルドが紛争地帯で無事に生き延びる見込みは薄い。皆がそう思っていた。


 だがレオナルドは、皆の予想を良い意味で裏切った。

 目覚ましい速度で剣の腕前を上げ、歴戦の騎士達の信頼を徐々に勝ち取っていった。

 そうして騎士団を掌握すると、見事な作戦を展開し、団長就任からわずか一年後、劣勢だった戦況を引っくり返して見せたのだ。


 その勢いで、長年の紛争は自国に有利な条件で終息するかに思われた。

 ところが、隣国に提示する条件の内容をめぐって国内で議論が紛糾している間に、状況は再び変わった。隣国が、武勇で名を馳せる第三王子率いる精鋭部隊を送り込んできたのだ。

 以来八年、西の国境地帯では膠着状態が続いている。レオナルドが西境騎士団長の任を解かれることもないまま――。


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