駿河へ9
9
お時とダイガシが旅に出て3日が過ぎた。そして辿り着いた街道は、戸塚宿だった。
今まで見たことがない建物がたくさん建っていて異国の人々が住んでいる、そんな街。
川を取り囲むように桜並木があり、満開にはまだ早いがポツポツと花が咲いている。
この街へ入ってからダイガシがずっと横に居る。いつもは先々と歩いているのに何故だろう。疲れちゃったのかしら?お時は不思議に思いながらも歩いている。
「お時さん、この街では俺と夫婦のフリをしてください。なので今日は俺も宿に泊まります。」
「わかりました。何か理由があるのですね。」
「はい。桜が咲いてきたので、夜桜に酔った人が結構厄介だったりするんです。夫婦となれば守れますからね。」
「この街だけですか?」
「桜の花が散るまでは、夫婦のフリをしてください。」
「わかりました。で、具体的に夫婦とはどんな風にしたらいいんでしょう?」
「そうですねえ、とりあえず俺についてきてください。離れずにいつも横にいれば夫婦っぽく見えるんじゃないでしょうか。」
「なるほど!わかりました。でもダイガシさん、ダイガシさんって呼ぶの、可笑しくないですか?」
「俺の名前は辰です。親分の一文字をもらってつけてくれた名前なんですよ。小さい頃に独りぼっちになった俺を拾って育ててくれたのが辰五郎親分なので。」
「辰さん。」
「お時。って呼んでいいですか?」
「はい。辰さん。」
2人、目を合わせてにっこりと笑い合った。その姿は本当の夫婦のように見えたのだった。
10へつづく