表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

2-2

 私たちの一年時の新人戦で、皇木の所属する白鴎高校の一年生(皇木と同学年)で優勝した選手が一人いた。


 御園(みその)という名前で、階級はフライ級(51キログラム以下)、皇木と同じサウスポーだった。


 御園は群馬県出身で、中学生のころ群馬の地元では有名な不良だったそうだ。やや小柄ながらいかにも気の強そうな、顎のエラの張って両目がぎらぎら光っているいかつい顔をしていて、私はおっかなくてこの御園とはまともに話したことがない。彼について皇木からいろいろ聞いた話だと、実際かなり危ない性格をしていたようだ。


 皇木たちが白鴎高校のボクシング部に入部してすぐ、新入部員が先輩や監督の前で今後の抱負を一人ひとり発表させられる場があった。そこで御園は、


「自分は半年も練習すれば(高校ボクシングの)全国王者になれるんだ」


と堂々と宣言したそうで、聞いていた皇木はその大言壮語に度肝を抜かれたらしい。


 中学の時が不良生活のピークだったようで、高校時代には暴走族に入るなどということは無かったようだが、やることなすこと飛んでいた。


 例えば当たり前に万引きをするわけだけれども、こそこそ商品を盗んでくるようなことはもはやしない。


 CDショップなどに入って商品を空のバッグに片っ端から詰めこむ。そのまま店の駐車場にバイクを停めている仲間のところまで走り、店員が追いついてくる前にバイクで逃げてしまう。盗品は売る。そんな豪快な盗みを日常的にしていたそうだ。


 また、学校の休み時間中に男子のクラスメイトが机に突っ伏して寝ていたとする。それを見た御園は黒板まで行き、チョーク等を置く台にある画鋲をひとつ手に持ってくる。そうして画鋲を針を上にして手のひらに置いて、寝ているクラスメイトの太ももにその手を振り下ろし、画鋲を「ばつんっ」と太ももに刺すのである。それがいじめのつもりではなく、ただ面白いと思ってやるらしい。痛みで飛び起きたクラスメイトの様子を眺めて、御園は無邪気に笑っていたそうだ。


 中学時代陸上部で、そこで培われた筋瞬発力を活かしたスピードと、利き腕の左手から繰り出される破壊力あるストレートパンチを武器にしていた。


 一度、彼が開始数秒で終えた試合を私は見たことがある。


 それは群馬県と栃木県の高校の、県対抗戦と銘打たれた非公式戦で、御園は栃木県の選抜選手の一人としてリングに立った。


 相手は当然群馬県の高校の選手で、背が低かった。御園はフライ級の選手にしては多少背が高い方で、相手を見下ろすような格好で試合前の握手を行った。


 ゴングが鳴った。背の低い群馬県の選手が御園に近づき、早速挨拶代わりのワンツーを放った。


 サウスポーに構えた御園は、相手のワンツーのワン(左ジャブ)を右手でパリング(パンチをはたき落とすディフェンステクニック)し、ツー(右ストレート)が来る前に得意の左ストレートをカウンターで相手の顔面にねじ込んだ。


 群馬県の選手が吹っ飛んだ。


 2、3メートルほど後方に吹っ飛び、しりもちをついた。すぐにレフェリーが試合を止めた。試合開始から5秒も経っていなかった。


 コーナー前に立った御園は、そのいかつい顔に凶悪な笑みを浮かべていた。困ったような、どこか恥かしそうな表情をしていた。自分でも起きたことが理解できず、(え、これで終わり?)という思いを胸中に浮かべているような感じだった。


 私が観てきた限り、プロアマ問わず最も試合終了が早かったボクシングの試合がこれである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ