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その雪の冷たさと、皇木がそれから彼女と(恐らく実家の彼の部屋で)しっぽりするのだということへのうらやましさと、それに対して自分たちは練習に向かわなければならないことへのバカバカしい気分が、なぜかくっきりと頭の中に刻み込まれて、二十年経った今でも私はこの時のことを忘れられないでいる。
皇木のことは強く記憶に残っている。
それでも二十年という時を経ると、だんだん彼の思い出は劣化して、思い出せない部分が少しずつだが確実に増えてきている。
こういういわゆる私小説というものを書く時、私はいつも逡巡せざるを得ない。実際にいた身のまわりの人のことを書いて、果してその人たちの尊厳を少しも奪わずに済むだろうか? いやきっとそれは無理な話で――そう思うと、それを差し引いても小説を書くことにどれだけの価値があるのだろうと考えてしまうのである。
しかしそれでも彼のことは書きたいと思い、こうしてパソコンのキーボードをかたかた叩いている。それは彼のボクシングへの打ち込み方が、もっとおおげさに言えば「生き様」が、あのころの私たちのそれを代表しているようなところがあって、このまま私の記憶から消えうせ、世の中に知られずに忘れ去られてしまうのがもったいない気がするからだ。私は覚えている限りのことを、そのまま書く。
皇木の話だ。