4-2
インターハイ予選の一回戦と準決勝を、皇木は相手を寄せつけず完璧な内容で判定勝ちし、決勝に進んだ。どちらの試合の相手も、皇木のディフェンステクニックに翻弄され、まるでパンチを当てることができずに一方的に攻められた。いかんせん皇木にパンチ力が無いのでKOには至らなかったが、誰の目にも勝敗が明らかな、皇木が完全にコントロールした試合だった。
大会三日目、インターハイ出場を懸けた決勝戦が行われた。皇木は第四試合、バンタム級決勝戦に出場した。相手は三度目の闘いとなる、愛斗学園・岩崎である。
試合はこの二人の対戦したこれまでの二試合同様、拮抗した試合になった。お互い相手を警戒し、なかなかクリーンヒットが出ない。
しかし関東大会予選と違って皇木は調子が良さそうだった。岩崎の攻撃を完璧にかわし、試合が進むうちいくつかのパンチを岩崎の顔面に当てることに成功した。その度わあっ、わあっ、と白鴎高校の部員たちから歓声があがる。しかしどのパンチも当たりが浅く、岩崎に深いダメージを負わせるには至らない。
2ラウンドが終わり、公平に見て若干皇木が優勢かと思える試合展開になった。しかし私はいつもの通り審判席に不穏なものを感じていた。審判の三人のうち二人が、愛斗学園関係者であった。
(あと1ラウンドだ、攻めろ、攻めろ皇木)
2ラウンド目の一分間のインターバルの間、私は体の中に熱いものを感じながら、この微妙な関係にある友人の勝ちを願った。皇木はコーナーの椅子に座って、セコンドをしている北村監督から何か指示を受け、それに応えていた。その表情は引き締まり、遠目に見ても気合が入っていた。
3ラウンド目がはじまった。展開はそれまでとほぼ変わらなかった。高度なディフェンステクニックの交換、情勢の拮抗、そしていくつかの皇木のパンチのヒット。
(勝てるかも知れない)
私は思った。