3-4
皇木と岩崎、サウスポー同士の闘いは、前手――右のジャブの差し合いからはじまった。
岩崎は皇木と同じ左利きのアウトボクサーで、ディフェンス重視の試合をする選手だった。常に遠距離で闘い、ガードを高くし、ガードとフットワークで相手の攻撃をかわす。相手に隙ができた時にパンチを返し、ポイントアウトして試合を制する。皇木が頭を振ることによって近距離で相手のパンチを派手に空振りさせるのに対し、岩崎は手堅くガードするかバックステップして攻撃をかわすという点に違いはあったが、それを除けば両者は似たタイプのボクサーと言えた。
試合は、お互いの高度なディフェンステクニックが駆使された、極端に有効打の少ない展開になった。
皇木も岩崎も相手の手の内はおよそ読んでいて、パンチをほとんどもらわなかった。皇木は数多く右のパンチを出し、相手を引きつけて、威力ある左ストレートを当てようと試みたが、それは読まれて成功しなかった。岩崎の攻撃も同様で、皇木の華麗なフットワークによってほとんどパンチは当たらない。一言で言えば、噛み合わない試合になった。
(相性が悪い)
リングの上を観ていた私は思った。岩崎がもっと単純にどんどん攻撃をしてくる選手であれば、皇木はディフェンステクニックを活かして岩崎を一方的に空回りさせ、試合を支配することができただろう。しかし岩崎はあくまで皇木の攻撃をもらわないことに重点を置いていたから、皇木もなかなか攻撃を当てることができなかった。
両者決定打を出せず、試合は膠着したまま3ラウンドを終えた。この愛斗学園のエースに対して、皇木は互角に渡り合ったと言えた。少なくとも劣勢ではなかった。だが、岩崎の負けとも言えない試合だった。
しかし両者にはひとつ大きな差があった。試合をジャッジした三人の審判が、全て愛斗学園の関係者だということだった。
判定は、三対〇で岩崎のものになった。