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話の主人公を皇木に戻そう。
一年時の新人戦で皇木が42秒で負けた一方で御園が優勝し、その後関東大会を制し、田村との対戦にこだわり続けてぎりぎりのところで勝てず、しかし格闘家としての矜持を保ったことを、皇木はどう思っていただろうか。
皇木は御園のように、あるいは豊田(赤穂)のようになりたかっただろう。彼らのように明らかな強さと「格好良さ」を得て、それを周囲に見せつけ認められ、尊敬され畏怖されたかったに違いない。そうしておおげさに言えば――ボクサーとしての、または一人の少年としてのアイデンティティを保ちたかっただろう。
しかし皇木にはそれが出来るだけの才能が無かった。決定的にパンチ力が無く、そして顎はひどく脆かった。残酷なことに、才能はいくら求めても、その求めた者全てに与えられるわけではない。
皇木は一年時の新人戦で負けた後もボクシングを続け、翌年二年時の関東大会予選とインターハイ予選に出場した。そしてそのどちらも一回戦で敗退した。
皇木の公式戦の戦績は、二年時夏までで0勝3敗となった。