九十一話『あっという間』
「アルフさん!ありがとうございます!」
「まだ戦えるか?」
「!」
「はい!もちろんですよ!」
「そうか…」
目が合う。美しい翡翠色の瞳。何か言おうとしていたが、ミルフにさえぎられる。
「一緒に戦うのって初めてじゃないっすか?」
「ん?そう言えばそうかなぁ?」
「オレ、この戦いが終わったら結婚するんすよ」
「うわっ!縁起悪い!」
「ふふふ、冗談すよ」
そう言うと獣化するミルフ。全身狼の姿。初めから本気って事か。やっぱりサイクロプスはそれぐらいの相手。…みんな無事で帰ろう。大丈夫、いつも通りに。
「【ドラゴナル】」
幸いにもワンツに召喚されたサイクロプス達は、風を纏ってはいなかった。それでも頑丈な肉体を持っているので、脅威である事には変わりないが。
トル爺に【強化呪文】を掛けて貰い、戦闘が始まった。アルフさんは【捕縛】の魔法でサイクロプスを足止め。しかし、直ぐに解除されてしまう。
トル爺によると、サイクロプスの身体には刃物による斬撃は通りにくいが、ハンマーなどによる打撃は有効らしい。僕と鎧さん、ハラダさんで打撃を与える。
更に弱点は思った通り"目"。唯一斬撃が通る部位だそうで、打撃攻撃で体勢を崩した所をミルフの【狼の鉤爪】で遠距離から狙う。島での特訓のおかげか、ミルフの獣化出来る時間も伸びている…。
一体倒した。下の階の時と違って今はアルフさん達が居る。あと二体。何とかなる。いや、何とかする。次のサイクロプスを見据えた。その時。
「!」
テイトの脇腹にナイフが突き刺さる。ナイフが飛んできた方を見ると、こちらを狡猾な表情で見つめるヒイラ。
ナイフを引き抜き、傷口を押さえても脇腹からドバドバと血が出続ける。あんな遠くから狙ったのか?痛い…でもナイフで出来た傷口ぐらいなら呼吸すれば塞がる。呼吸すれば。あれ?
「テイト!」
異変に気付いたミルフがテイトの側に駆け寄ろうとするも、サイクロプスに邪魔され、近付く事は叶わない。
「そのナイフさあ、ただのナイフじゃないんだよなあ」
「ある冒険者が故郷を滅ぼしたドラゴンに復讐する為に作ったもの」
「"龍滅石"って貴重な石が使われてんだよね」
ワンツが嬉しそうにつぶやく。
何だ?どれだけ呼吸しても傷口が塞がらない。次第に呼吸するのも辛くなってくる。だめだ。血が出過ぎてる。血だらけの手の平を確認しようとするも、視界がぼやける。
立っていられなくなり、地面に倒れ込んだ。サイクロプスがこんなチャンスを放って置く訳もなく。テイトの身体は無慈悲に棍棒で潰される。
「えっ?」
あっという間。地面から離れた棍棒。その下には血だらけで潰れたテイトの身体、ピクリとも動かない。油断したミルフと、助けに向かおうとした鎧の身体も棍棒によって吹き飛ばされる。
不味い。身体が動かせない。直ぐに立って、サイクロプスと戦わないと。みんな無事で、みんなと一緒に帰るんだ。一人でも欠けたら戦闘が不利になってしまう。直ぐに戦いに戻らないと。
起きあがろうとするも、あらぬ方向に曲がった両手足はピクリとも動かせない。しばらくして"テイトの目から光が消えた"。その様子を見ていたワンツの笑い声が鉱石場に響く。
「アハハハ!見てみろヒイラ!」
「テイト君のあの姿!」
「全身ぐちゃぐちゃのビチャビチャ!」
「あれは完全に終わっただろ!」
「さて、残りの雑魚もさっさと殺して帰ろう!」
「くっ…!」
悔しそうな表情のアルフ。それを見て更に嬉しそうに笑うワンツ。
「アハハハ!…ん?」
異変に気付き表情が変わる。潰れて動かなくなった彼の身体から、今もなお血が溢れ出ている。人間の身体から溢れてくるにしては多過ぎる。
真っ赤だった血の色が変化していく。夜よりも暗く。闇よりも黒く。血が膜のようにテイトの身体を包みこみ、テイトの姿は見えなくなった。
「おいっ!ボサっとすんな!」
ワンツの指示を受け、サイクロプステイトが攻撃を仕掛けるが、ダメージを与えられている実感が無い。
膜の中に居る"何か"はバキバキッ、メキメキと音を立てながら異形の姿に変わる。人間の骨格ではあり得ない、形状・大きさに。
「何だ…これは?」
黒い膜は大きなドーム状に膨らんでいく。限界まで膨らみ、風船のように弾けた。黒い霧が辺りに充満。念の為吸わないようにするアルフ達。何か居る。
霧が晴れ、姿が確認出来た。そこに居たのは"巨大な龍"だった。
天井に届きそうな全長。開いた口。そこから覗く鋭い歯。全身を覆う黒鉄色の鱗。爪。長い首と尻尾。広げた翼。巨龍が目を開ける。淡い黄金色の瞳。
唖然とするアルフ。この巨龍にあのガキが成ったのか?そうだとするとこの姿。昔、ルイボル達と何とか倒した、"あの時の龍"そのもの…。ルイボル…オメェなんてもんを遺していきやがったんだ?
サイクロプスが巨龍に再度攻撃。そこからはあっという間だった。
棍棒を易々と弾き、サイクロプスの首筋に噛み付く。そのまま軽々と持ち上げると、全身にエネルギーを補充。エネルギーが胸、長い首、口の中と移動。
テイトが指パッチンで放った光線よりも、もっと大きな光線がサイクロプスの身体を焼く。
ジタバタしていた青い肢体から、だらりと力が抜け落ちる。光線はなおも放出されており、もう一体の方に向けられる。真っ二つになるサイクロプス。砂煙の中、眼光。
「Graaaaaaaaa!」
巨龍の雄叫び。三体のサイクロプス、ドラゴンゾンビの身体が砂のように崩れ落ち、巨龍に吸収されていく。部屋の中がすっきりした。静寂を切り裂くワンツの笑い声。
「アハハハ!すごいよテイト君!」
巨龍が完全にこっちを見ている。ワンツの額に汗。
「流石にちょっと不味いな」
「逃げるぞヒイラ、闇を出せ」
「はっ、はい!」
「またな、師匠♡」
ヒイラのポケットから出した闇から、二人は脱出して行った。
巨龍が残ったアルフ達の方に向き直る。全く仕方ねぇ。オメェから初めての頼み事だもんな…。
「出て来い、トリ」
「ピヨピヨ!」
タクシーの背に乗る一同。アルフと鎧が一向に乗ろうとしない。
「姐さん?!何してるんすか?!早く乗らないと!」
「オマエらここから脱出しろ、そろそろ崩れるぞ」
「この鉱石場には真ん中に穴がある、そっから逃げろ」
「あとコイツも連れてけ」
異空間からケンジが飛び出す。キャッチするハラダ。
「ケンジ!」
「応急処置はしといたが、ゆっくりは出来ねぇ」
「アタシとヨロイは残る、行けトリ!」
「【捕獲】!」
アルフが巨龍の注意を引く。
「ピー!」
降りようとするミルフをハラダとトルトスが抑える。タクシーが巨龍の間をすり抜け、見えなくなった。
「悪いな、ヨロイ」
「ちょっと、手伝ってくれ」
「…」
無言でハンマーを構える鎧。
「行くぞ!」
…突如場面が変わって森の中。誰かにほっぺたをつんつんされてる。意識を取り戻したテイト。
「ん?はっ?!」
「何やってんだ、オメェ?」
この声はアルフさん…?声の方に振り向く。
「!」
「ワンツ?!」
「あ?何言ってんだ?」
「早く起きろルイボル、行くぞ」
えっ…?ワンツじゃない?それにルイボルって?アルフさんのこの姿。ワンツに身体を奪われる前のアルフさん?サイクロプスは?ってか他のみんなはどうなったんだ?!
「ってかオメェ…何で全裸なんだ?」
「…なんで全裸なの?」
「アタシが知るかよ、千切るぞ」
この91話で、第一部完とします。ここまでお付き合い頂きましてマジ感謝感激。第二部もりもり執筆中!




