八十七話『風を纏って』
「【針雨】」
トルトスが地面に杖を突くと、沢山の針のように細長い水の塊が空中に出現。そのまま杖を振るとワンツ達に向かってすごい速さで飛んで行く。
「ヒイラ、守れ」
「はーいっ♡」
ヒイラがワンツの前に立つ。飛んで来る【針雨】の真っ直ぐだった軌道が変化し、ヒイラに集まる。それら全てを自身の身体で受けるヒイラ。ドスッ!ドス!ドス…しかし、ヒイラの身体にはもちろん、服にも傷一つ付いていない。
「何じゃと?!」
「はぁーあ、思った通りガッカリね」
「こんな細いのじゃ全然気持ち良くなれない」
「カメさん?はいお返し♡」
ヒイラが着ている僧侶っぽい服。片方の膝を折り曲げ高く上げる。服の腰あたりから縦に入ったスリット。あらわになる太もも。そこに隠しナイフ。三本一気に飛んで来る。すごい速さ。
「カメッ!」
驚くトルトスにアルフが叫ぶ。【完璧】を一度解除して再びトルトスに…ダメだ!今のアタシじゃ間に合わない!
「ふんっ!」
ハラダがおよそ大盾を持っているとは思えないスピードで移動。トルトスの前に飛び出し盾を構えた。トルトスへの攻撃は盾によって防がれる。
「ハラダ殿!何度も申し訳ない」
「ちっ!あの男…!」
悔しそうなヒイラ。どうでも良さそうなワンツ。
「あの盾持ち動けたのな」
「それはそうとネクロマンサー」
「お前とトルトスは相性が悪いな」
「…」
あたりに散らばったオーガの肉片に、汚い物でも見るような視線を送る。無言のネクロマンサー。
「さっきみたく、ただの雑魚の死体をくっつけただけじゃ直ぐに解体される」
「しゃーねー、ほらこれやるよ」
ワンツのネックレスが再び光る。これまでに無い明るさ・大きさの光が飛び出した。光が止む。異臭。そこに有ったのは身体中に無数の剣が刺さり、血だらけの"巨竜の亡骸"だった…。
…サイクロプスを待ち構えるテイト。ん?遠くで見ていた時は気付かなかった。だんだんと近付いてくる途中で気付いた。なんの音だ?"ゴオォォォ…!"と風を切るような音がする。
目を凝らす。どうやらサイクロプスの身体を覆うように風が吹いている。それもただの風ではない。歩くサイクロプスの横に生えていた木が風に引き込まれて大きくしなる。
葉っぱが巻き上げられ、サイクロプスの周りをグルグルと回転する。回転していた葉っぱが切り裂かれるようにスパッと二つに裂ける。裂けた葉っぱが更に二つに。更に更に…。最後には跡形も無く消え去った。
「…」
これも魔法なのか?どうやらあのサイクロプスは風を纏っているようだ。安易に近付くとただでは済まなそう。あっちから近付いてくるからいまさらどうしようもないが…ケガで済めば深呼吸で回復出来る。済まなかったらそれまで。
足に力を込める。収縮する筋肉。戦闘開始。まずは脚を狙う。これだけデカい魔物だ、首を落としたいが届かない。足を狙って攻撃してみて転倒するか、しゃがんでくれたら後は楽に殺せる。
思った通り。サイクロプスに近付くと、テイトの身体中にナイフのように鋭い風によって、無数の傷が。しかしお構い無しに突撃する。さらに接近すると風の音が消え、無音になった。不味い。
一つ誤算だった。深呼吸すれば回復出来ると思っていたが、サイクロプスが纏っている風の中は真空状態。呼吸出来ない。てか口が開けられないし。距離を取りたいが風に飛ばされないようにするので精一杯。正面から蹴られ吹き飛ぶ身体。
「がはっ…!」
はるか遠くに吹き飛ぶくらいの勢いで蹴られたが、テイトの身体は竜巻に巻き込まれた葉っぱのようにグルグルと宙を舞い、引き戻される。また蹴られる、引き戻されるを何度も繰り返す。
また蹴られる、そのタイミング。いい加減にしろよ…!サイクロプスの足めがけて握り込んだ拳を放つ!ジャストヒット!が、しかし。硬ってぇ。金属でも入ってんのかコイツの足。腕折れたわこれ、多分。お返しとばかりに殴り飛ばされる。
バキバキバキッ!大丈夫。これは飛ばされたテイトの背中で、クッションになった木が折れる音。ポキポキポキッ!これは飛ばされたテイトの骨が折れる音。大丈夫じゃないかも。
「すぅ〜はぁ〜…」
鉱石場内に満ちあふれる魔素のおかげだろう。いつもよりも回復が速い。身体中の切り傷はみるみる無くなり骨も元通り、多分。立ち上がる。
飛ばされたおかげでサイクロプスが纏った風からは抜け出せた。でもどうしたもんか。足だけあんなに硬いなんて事はないだろうし、全身あんな硬さだったら普通に殴っただけでは歯が立たない。
拳に魔力を乗せたくてもアイツに近付くと息が吸えない。呼吸が出来ないんじゃ難しい。サイクロプスがコチラをその大きな一つ目でしっかりと見つめ、追いかけて来ている。ん?あの大きな一つ目…軟らかそうだな。一か八か"アレ"を試そう。
ちょっぴり回想。島での修行を思い出す…。




