八十二話『足元をすくわれる』
ゴブリン達を斬り捨てながら、奥へと進むケンジは違和感を感じていた。違和感の理由は分からない。しかし"何か"見落としているような…そんな気分のまま剣を振るう。
通路の道幅が段々と広くなってきた。迷路の終わりが近い。迫り来るゴブリン達。ハラダが声を掛ける。
「ケンジッ!ここが正念場だぞ!」
「他のみんなも!もう少しだ!」
「はいっ!」
「頑張れぇ〜!」
…迷路の先から飛び出して来るゴブリンの流れが止んだ。耳をすましても音はしないし、ゴブリンの気配もない。一旦落ち着いてこれまでの状況を整理しながら進む。
今回の"大量発生したゴブリンの討伐依頼"はここまでの道中は特に問題なかった。いつも通りボクとハラダさんとのコンビネーション。
それに加えて今回はヒイラさんの補助魔法、アルフさまの妨害魔法にも助けられて、難なくゴブリン達を討伐する事が出来ている。
テイトさんが荷物を運んでくれるので、身体もいつもより上手く動かせる。出会って三秒で結成した即席のパーティーだったから心配もあったけど、杞憂に終わったようだ。
数は多かったが相手はゴブリン。おっといけない。この話をすると多分ハラダさんにはこう言われると思う。"ゴブリンだからと舐めてかかったり、気を抜くと危険な相手だぞ"って。
確かにその通り。ゴブリンは狡猾でずる賢い。気を抜かず、注意しないと足元をすくわれる。
依頼書には"冒険者が何人も行方不明になっている"と書いてあった。だが戦ってみて感じたが、そこまでの相手だっただろうか?聞いていた通り、通常より凶暴では有ったが。
凶暴さ以外はこれまで戦ってきたのと同じ、どこにでも居る普通のゴブリン達だったと思う。何人かでパーティーを組み、落ち着いて対処すれば、難しい依頼ではないはずだ。
例えば経験の少ない若手の冒険者ばかりが依頼を受けて、油断して足元をすくわれた、とかなら分かるが…そう言えば行方不明になったと言う冒険者の姿を見ていないな。
生存者はもちろん、亡骸さえ無かった。次の階層に居るのだろうか?次の階層はこの階層よりももっと沢山のゴブリンが居るのかも知れない。気を引き締めよう。
「ケンジさん!ハラダさん!」
「見て下さい!ほらこの先!」
テイトさんが前方を指差す。先の空間から光が漏れている。ハラダさんを先頭に進入。内部は広い空間。ゴブリンの姿は無く静か。この階層のゴブリンは全て狩り尽くしたらしい。
ここだけ明るいのは、ここの照明だけ壊れていないからのようだ。ちょうど良いので、一旦ここで休憩をする事にした。
もしも、ゴブリンが出て来ても、アルフさまが防護魔法の【完璧】で攻撃を防いで下さると言ってくれた。
何て便利な魔法なのだろう!"離れすぎると守れない"との事なので、中央に固まり集まって座った。テイトさんが荷物を下ろし、中から焚き火を取り出そうとした時。
チカチカ…チカチカ…
「!」
「照明の調子が?故障ですかねぇ?」
「まぁいいか、これから焚き火するなら」
「そうだね、照明が切れる前に準備しよう」
チカチカ…
「あ、消えちゃったぁ」
「何か起きそうですね!」
「はは!テイトさん!縁起でもないよ!」
「へへへ」
とりあえず壁に立て掛けておいた、たいまつの火を焚き火に移そう。その時。
"床が消えた"
…落下の衝撃に備えなければ!ここから手の届く範囲には…!テイトさん!手を伸ばす!落下の瞬間【速脚】で着地する!
「【完璧】!」
アルフさまの声と同時に落下する全員を覆うほどの大きさの防護壁が一瞬にして現れる。
これまで急降下していた身体がフワリと浮き上がる感覚。防護壁はそのままゆっくりと降下し地面に着地した。
無傷で着地した事に驚くパーティーメンバー。緊張が解けて笑っちゃう。
「は…ははは!」
「へ、へへ」
「死ぬかと思った…」
ヒザから崩れ落ちるヒイラ。ハラダがアルフにお礼。それに続いてお礼をする他メン。
…足元をすくわれないようには意識していたが、足元ごと持っていかれるとは。そんな上手い事言ってる場合じゃなかった。
いまさらだか違和感の理由が分かった。上に居たゴブリン達は武器を装備していなかった。別の場所で戦ったゴブリン達は、総じて武器を持っていたのに。こんぼうやら剣やら弓矢やら。
それと装備もだ。別の場所ゴブリン達は、他の冒険者から奪ったであろう皮や鉄で出来た鎧を装備していた。対してここに居るゴブリン。着てても布切れ一枚。ほぼ裸の格好。
今の床が消えたの。自然現象では無い。明らかに人為的なものだ。あの場所に集まったゴブリン達をこの五階層に落とすための…。
これが何のための仕組みか。予想が正しければこれは…!テイトくんが何かに気付く。
「あれ?何か揺れてません?!」
「!」
しばらくしてボク達にも分かるくらい"ズシンズシン"と地面が揺れる。何かが近付いて来ているような。多分…四階層のゴブリン達は"エサ"だ。下の五階層に居る"何か"の。
地鳴りが近付く。
お読み頂きましてありがとうございました。
あれれ〜?この松明、なかなか消えないぞ〜?
(少年名探偵風)
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