八十話『ヒイラの場合』
「わたしは"戻りたくなかったから"です…」
「戻りたくなかったから…?」
「すみません!」
「やっ、やっぱり言いたくないです!」
ハラダもそうだったが、ヒイラもまた隠そうとする。ぐいぐい聞いていくテイト達。
「え〜もうそこまで言っちゃったんだったら、教えて下さいよ〜」
「気になっちゃうじゃないですかぁ」
「そうですよ、さぁヒイラさん!」
「もう吐き出しちゃいましょう」
「でもハラダさんの後だと、ずいぶんと自分勝手な理由で…恥ずかしいです」
「良いじゃないですかぁ〜」
「ここには僕達しか居ませんし」
「じゃあ話の先っちょ!先っちょだけ!」
「そうそう!先っちょだけ!」
「それなら恥ずかしくないでしょ?」
ずいずいと聞き出そうとする二人。実際にヒイラの近くにずいずいと迫って来ている。顔の圧。
「何ですか"話の先っちょ"って…」
「何でそんなに聞きたいんですか?!」
「いやぁ〜もう自分でも分かりません!」
「実はぼくもです!」
「自分で自分が怖いです!」
「あっ、そうですか…」
ケンカしてた二人が、ケンカが始まった理由を思い出せない。そんな感じのアレです。
「お願い〜!誰にも言いませんからぁ〜」
「そうですよ!お願いします!」
「えっ…えっ?!テイトさん?!」
「泣いてます?!何でそこまで?!」
「ははは!面白っ!」
「ほら!彼もこう言ってるので!」
先程までハラダの話を聞いていたアルフ。その様子を見て呆れた表情。何やってんだアイツ…。
観念したヒイラが話し出す。
「わたしの家は代々、神に仕える聖職をしていました」
「そんな家に産まれたわたしも冒険者になる前、聖職者として教会に仕えて居ました」
「へぇ!教会に?へぇ〜」
「教会では神にお祈りしたり、布教に行ったり、結婚式や葬式の手伝いだったり」
「最初のうちは楽しかったんですが…」
「そう言うのが教会のお仕事なんですねぇ」
「寝て起きて、お祈りと布教の繰り返し…」
「ありふれた毎日、それが嫌になってしまって…十八歳の時、両親に内緒で教会を飛び出したんです」
「でもこれまでお祈りと布教などしかしてこなかったので、土地勘も体力もわたしには有りませんでした」
「行くあてもなく森に入って迷子になって、魔物に遭遇して襲われてしまったんです…」
「えっ、ヤバいじゃん…?」
「"これが教会を無断で飛び出した罰か…"わたしは死を覚悟しました」
「その時偶然通りかかった親切な冒険者の方に助けてもらう事が出来て、街に帰る途中との事だったので、同行させてもらいました」
「ふぅ〜そりゃ、危なかったですねぇ」
額の汗を手で払う動きをするテイト。汗はかいてないけれど。"うんうん"とうなずくケンジ。
「道中その冒険者さん達の話を聞いて、聖職者としての決められた毎日と違った、刺激的で縛られない冒険者と言う職業に興味を持ちました」
「教会には戻りたくなかったわたしは、街でギルドに入会して現在に至るって感じですかね…」
「パッと教会を飛び出して、そのまま冒険者になっちゃうなんて…ヒイラさんスゴいアクティブですねぇ!」
「そんな事はないと思いますけど…」
「そっかぁ〜冒険者になった理由はみんなそれぞれなんですねぇ〜」
「あれ?そう言えばテイトさんは?」
「何で冒険者に憧れてるの?」
「僕は…何でだろう?」
「何となく?」
「ははは!何となくって!」
「ずいぶんとフワッとした理由だね!」
「へへ」
最後にケンジはアルフに質問をした。
「アルフさまはあの戦争の前は冒険者だったんでしたよね?」
「アルフさまはどうして冒険者になったんですか?」
「!」
ケンジさん?!アルフさんにも聞くじゃん!ってかアルフさんも昔は冒険者だったんだ!知らなかった。何て答えるんだろう…?
「アタシは…何となくだ」
ぷっ!"何となく"って僕と同じじゃないのよ!アルフさんご冗談を!みなさん聞きました?他の三人の様子を確認するテイト。
「"何となく"…深いな」
「へぇ…"何となく"か」
「なるほど…"何となく"ですか」
神妙そうな表情の三人。あれ?何で?僕と一緒の理由じゃないの?僕の時笑ってなかった?…まぁいいか。僕も神妙そうな表情してよっと。静かな時間が流れる。と、その時。
「おい!話は終わりだ!」
「さっさと次の階に向かうぞ!」
そう言ったアルフが立ち上がった。
「そうだな…十分に休憩出来た」
「次の階に向かおう」
「ですね、片付けます」
ハラダ、ケンジも立ち上がると、焚き火とその周辺を片付け始めた。ヒイラとテイトも撤収の手伝いをする。
「…よし、次は四階層だ」
「一・ニ・三階層には魔物は居なかったが、この先何が出て来るか分からない」
「気を引き締めて行くぞ」
「はぁい」
小さな声で返事。よぉ〜し!探索再開だ!
お読み頂きましてありがとうございました。
この人に言われるのは大丈夫だけど、この人に言われるのは嫌っ!て時、有りますよね?
「なんか面白かったよー!」
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