七十四話『届かない声』
余裕の表情の二人。笑いながら。
「おいおい?フラフラしてるじゃねぇか?」
「立ってるのもやっとって感じだな?」
「バククク!次で終わりだ!」
「プルルル!そうですね」
「そろそろ終わらせて帰りましょうか」
十分な距離を取り助走をつけて走り出すバクソン。突進が迫る!立ち上がったまま、無防備な姿勢のままのテイト。
「【引く】!」
バクソンに向けて技を放つプルパカ。突進に更にスピードが加わる。衝突する!その時!
「「ガァ!!!!」」
至近距離でテイトが放った咆哮を浴びるバクソン。鼓膜が破れ両耳から噴き出す血。軌道が逸れ、突進はテイトに当たらない。突然の出来事。何が起こったか分からず、対応出来ないバクソン。
「あ…あがっ?!」
「なっ?!バクソン!逃げろっ!」
耳鳴りがして彼を呼ぶプルパカの声は届いていない。方向感覚も失い目視でテイトを確認…笑っていやがる。一旦距離を取る!
「hahahaha…」
「はぁ…やっとつかまえた」
「はっ…?!」
技が遅れた!腕を掴まれた!竜の子がそのまま深呼吸をする。これまで与えた身体の傷がみるみる治っていく。なんだコイツ?!
恐怖を覚えたバクソンは攻撃するのも忘れ、掴まれた腕を振りほどこうともがく。しかしびくともしない。
「ふぅ…じゃあな」
テイトがこぶしを握り込み、魔力が集中する。そこで援護射撃。プルパカがバクソンに向けて技を放つ。引き寄せられる身体。しかし、腕を掴んでいたテイトの身体も同じように引き寄せられる。目が合う…終わった。
バアァァン!テイトが繰り出したアッパーがバクソンのアゴに命中!浮き上がった身体に右ストレート!間髪入れずにラッシュを叩き込む!浮き上がった身体が地面に着地する間の出来事。
着地の瞬間、顔面に全力の殴打を受ける。体内の魔核が衝撃で砕け散り、バクソンの身体もボロボロと崩れる。風に舞う。
バクソンがやられた…。立ち上がる竜の子を見据えるプルパカ。迫る竜の子、握り込んだ右手に魔力が集まっている。あれを食らったら…。射程距離に入る!覚悟を決める!
「ブッ!!!」
「!」
プルパカがテイトの目に向けて唾を吐く。遮られるテイトの視界。唾には強い毒性が有る。痛い!激痛が走る!思わず目を押さえるテイト。
ガラ空きの胴を蹴り込み、後ろに倒れかかった身体を【引く】で戻し、顔面を殴る。連続攻撃。優勢に見えた。
いいぞ!勝てる!このままこのまま!殴る!"ガシッ"拳を掴まれる。何?!瞳は閉じているのに?!なぜだ?!
「悪い、見えなくても分かるんだよな」
「…終わりだ」
ラッシュを受ける…プルパカの身体も風に舞った。その様子を回復した両目で見つめるテイト。ん?何だ?!地面が揺れ出した?!
…センターに居るミルフの耳がピクリと反応。アルフとヨロイ、元気になったホロ達に向けて注意をうながす。
「姐さん!みんな!なんか起きるっすよ!」
「!」
闇玉に亀裂が走り、亀裂から"プシュー"と音を立てながら高濃度の魔素が抜けていく。口元を押さえながらホロが職員に指示を出す。
「球体から離れて!」
「出てくる魔素を吸わないように!」
「【回収】!」
辺りにあふれた魔素は、アルフが首から下げるネックレスに吸い込まれていく。だんだんと小さくしぼんで中心に人影が現れる。身構える一同。しかし、その心配はなさそうだ。
「…テイト!」
立っていたのはテイトだった。照明の光を手で遮り、まぶしそうな様子。
「うっ…ん?ミルフ?」
「って事は…やったぁ〜戻って来れたぁ!」
心配そうな様子のホロも声を掛ける。
「テイトさん…?ですか?」
「あっ!ホロさんも!」
「そうだ、すみませんでした…」
「魔証石壊されちゃって…」
「あんなのまた作れば良いんですよ!」
「テイトさん!大丈夫でした?」
「魔人は?ケガは無いですか?」
魔証石の事あんなのって…センターの人なのにそんな事言って良いの?とは思いつつ。
「僕は大丈夫です、魔人はやっつけました」
無事に帰ってきたテイトの様子を確認したアルフ。ため息を一つ。ヨロイを異空間に戻し、その場から離脱した。
「…テイトさんやっぱり隠してましたね?」
「おかしいと思ったんですよ」
「昨日の測定本気でやって無いですよね?」
「?!」
「あはは…バレてましたか?」
「測定内容が変わるたびに"この測定の平均値ってどれ位でしたっけ?"って聞かれてましたよね?」
「結果も教えた平均値に近かったですし」
「そりゃバレるか…」
「それに普通の人だったら魔人二人の魔人相手に、無傷で帰って来れませんよ」
「うっ…」
「何か事情があるんですよね?」
「…いえ、これ以上は聞かないです」
「魔証石の測定結果もそのままで」
「えっ?!良いんですか?」
「本当は良くはないですが…」
「良いですよ内緒です」
ホロが職員に目配せ。うなずく職員達。
「ありがとうございます!」
職員の一人がホロに耳打ち。
「テイトさん、残念なお知らせが一つ…」
「えっ?何ですかぁ?」
キョトン顔のテイト。
お読み頂きましてありがとうございました。
アルフの【回収】久しぶりに聞いた!
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