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七十二話『特訓通り』

「すぅ〜…ふぅ〜」

センター内では戦いたくないな。これ以上中がメチャクチャになっちゃうと困るだろうし。どうしようか。などと考えていると、筋肉質な男性がドカドカと近付き殴り掛かる。


「なにボーッとしてんだ?」

「オラッ!」


が、男性の腕はやすやすと掴まれる。振りほどこうと男性が力いっぱい引っ張るが、びくともしない。テイトが掴んでいだ腕をパッと離す。男性の身体が後退し転びそうになる。テイトから距離を取る男性。


テイトは思う。島で戦ったグリに比べたら全然だな。スピードもパワーも全然だ。これなら…このままでもれそうだ。普段のテイトからは想像出来ない冷たい表情。


「…!」


「プルルル!バクソン?」

「何遊んでるんですか?早く殺して帰りましょうよ」


「…だ」


「はい?何ですか?」


「プルパカ!【戒忌日蝕(アグリプス)】だっ!急げっ!」


「!」

ダンッ!テイトが跳躍!一っ飛びで筋肉質な男性のところまで一気に距離を詰める!ジャンプ中に拳を握り込むテイト。


それとほぼ同時に細い男性がポケットから何か取り出し、床に叩き付ける。二人が叫ぶ。

「【戒忌日蝕(アグリプス)】!バックバイソン!」


「【戒忌日蝕(アグリプス)】!プルアルパカ!」


たった今、床に叩き付けられたそれは"闇玉やみだま"。つい最近、魔界の科学者によって開発に成功した物。


これまでは一つしか存在せず、広い範囲をおおう必要があった"闇"を、これまでよりもコンパクトに持ち運べるようにした物。量産化も可能になった。


闇玉が水風船のように割れて、辺りに黒いけむりが広がる。煙が晴れるとそこは、それまで居たセンターとは異なる場所に変わっていた。


「ここは…草原?」

キョロキョロと辺りを見渡す。青い空。風が吹いている。視界に広がる草原。遠くの方は…?あれ?目を凝らしても見えない?どこかに飛ばされたのか?どっちかの能力?


「バククク!スゲェな!本当に草原みてぇだ!」


「プルルル!はい、聞いていた通り」

「想像した通りの場所に変わりましたね」


声がする方に目を向ける。二人の見た目が毎度同じく変化。バイソンっぽいのとアルパカっぽいの。【戒忌日蝕(アグリプス)】しているみたい。


ここがどこかは分からないけれど、アルフさん達の事は…呼べなさそうだな。ふぅ〜どうしよう。あ、ここは魔素が濃い。島よりもだいぶ濃いな。あれ?逆に好都合かも。


ここがセンターじゃないなら、センター内が壊れる心配もないし。これなら。


二人との距離は大きく離れている。何をしてくるのか分からないけれど、これだけの距離が有れば大丈夫そうだ。再度深呼吸。


「なんだこれは?」


…ホロと職員をその場から避難させたアルフが戻って来た。先ほどまでそこに居たはずのテイトと魔人二人組の姿はそこには無く、代わりに球体状の闇がフワフワと浮かんでいた。サイズは公園に在る"地球儀"くらい。


アルフが闇に触れる。腕は沈み込まず、さらに力を込めても押し返されるのみ。攻撃してみようにも、今のアルフには攻撃手段がない。


転移魔法か?二体一。ガキが心配だ…早く助けに行かねぇと。ネックレスに触れるアルフ。

「オオカミ出て来い」


…魔素が身体中を巡った。テイトが右手の人差し指に魔力を集める。そのまま指パッチン。指の先に火がともる。その火をボーッと見つめる。


頭部からちょこんと飛び出したツノに、左手人差し指の爪を立てる。ツノは感覚が鋭く、少し力を込めるだけでも痛い敏感びんかんな器官。


全身に力を込める。血流が上がり身体が熱くなる。更に力を込める。更に更に。鼓動が速くなる。息を止め、瞳を閉じる。目を見開く。淡い黄金色の瞳。


「【竜化ドラゴナル】…」


指先の火に息を吹き掛ける。息が吹き出されるのと連動するようにだんだんとテイトの身体が変化していく。頭部のツノが大きな銀色のツノに。肘から指先、膝から足先が黒鉄色のウロコとツメに。火が消える。


テイトは竜に成れた。


その様子を見ていたバクソンとプルパカ。

「バククク!聞いていた通りだ!」

「竜の子…面白れぇ!」


「プルルル!準備万端じゅんびばんたんって顔ですね」

「今にも襲い掛かって来そうな顔です」


「ふぅ…」

特訓通り。上手くいった。…なるべく苦しまないように一撃で決めてあげたい。始めから全力でいこう。左手に魔力を込める。


「来るぞ…」

身構える二人。飛び出すテイト。一気に距離を詰め、バクソンの脳天目掛け振り下ろす!

"まずは一人"そう思ったテイト。しかし。


「【離す(バック)】!」


「…?!」

バクソンがそう言い放った途端。テイトの身体がその場から吹き飛ばされる。首元を持たれて後ろに引っ張られるように。


転びはしなかったがバランスを崩してよろける。二人の様子を確認しようと前を向く。眼前にバクソンの大きなツノ。ダメだ。避けられない。


ドガァン!突進して来たバクソンともろに衝突。後方に吹き飛ばされる。ゴロゴロと転がるテイトの身体。痛い。ジンジンする。


立ち上がるのに時間が掛かっているテイト。だがバクソンは攻撃の手を休めない。再度突進。砂埃すなぼこりを立ち上げながら迫る。何とか立ち上がるテイト。まだ距離は有る。どうする?…一旦避けよう。しかし。


「【引く(プル)】!」


「ぐあっ?!」

プルパカがそう言うと、テイトの身体が突進して来るバクソンの方に引っ張られるように移動した。"距離が有るから避けられる"と油断していたテイトは再びバクソンともろに衝突した。


「バククク!」

「よろよろしてるがようだが大丈夫か?」


「プルルル!」

「これなら直ぐに帰れそうですね」


立ち上がる。引き寄せたり遠ざけたり。うん、面倒臭いな。さてと…どうしようか。


テイトの表情。楽しんでいるように見える。

お読み頂きましてありがとうございました。


ヒーローが変身する間、相手は攻撃せずに待ってくれますよね。チャンスなのに。不思議。


「なんか面白かったよー!」

「続きが気になった!」

と思って頂いた親愛なる読者様へ…


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