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六十話『引き時』

先に飛び出したのは…テイトの顔面目掛けてパンチを繰り出すグリ。対するテイト。背中を反らしながら体勢をガクンと低く落とす。迫り来るグリのパンチを回避。お返しにそのまま逆立ち、蹴りをグリの顔面目掛けて繰り出す。もろに蹴りが直撃。距離を取るグリ。


青年の動きが変わった?先程までは基本通り、型に沿った形の戦闘スタイルだった。今の彼は野生的な、本能で動いているような動き。次の行動が読みづらい。厄介やっかいかも。


ぴょんと立ち上がるテイト。その場で軽くジャンプしつつ、次の攻撃に備えている。

「hahaha!どうした?」

「こんな程度でビビっちまったか?」


「はは、まさか」

「やっと面白くなってきたところですよ」

再び殴り掛かるグリ。グリの拳をかわし、腕に絡みつくと、顔面目掛けて裏拳。今回は防がれるも、止まらずに顔面に蹴りを繰り出す。こちらは命中。


腕を掴まれる。身体を丸めその反動を利用して顔面に蹴り。一瞬ひるんだ隙を付いて、後頭部に蹴り。距離を取る。よし、今だな。


「すうぅぅぅーーーーはあぁぁぁーーーー」

胸が膨らむほど沢山空気を吸う。お腹と背中がくっ付きそうなくらいへこませる。数回繰り返す。充填完了。まだ動ける、まだ戦える。


って言うかコイツ。何発も顔面を蹴り込んでるのに、ピンピンしてやがるな。ノーダメージなのか?泉の近くにあった大きな石を掴む。…石っぽいキノコだったわ。こっちのはちゃんと石。持ち上げ、グリに向けて投げる。


飛んで来た石をグリがかわす。ここだ。石に追い着き、体勢を低くしたグリの頭部に向けて蹴り。が、その時。


「「ガァ!!!!」」


「くっ!」

至近距離で咆哮ほうこうを浴びる。耳鳴り。両耳から噴き出す血。空振りする蹴り。


「痛ってえぇぇぇーーーー!」

「えぇぇ!………よしっ!治ったぁぁぁ!」

しばらくじっとしていたテイト。出血は治まり、傷がふさがった様子。ついでに深呼吸。


「ほう、これで決まりかと思ったのですが」


「hahaha!んな訳ねぇだろっ!」

さあ次はどうしようか。と思っていると。


「おいっ!メスライオン!待ちやがれっ!」


「テイトー!大丈夫っすかー!」


「…」


「グリさまーーー!」

どうやら【戒忌日蝕】《アグリプス》しているライネ。見た目はライオンのメス。ミルフに背負われて、ライネを追いかけて来たアルフ。本気モードの鎧さん。身にまとっているオーラの量が修行の時と全然違う。グリに気付くアルフ。


「ん?オメェは確か…」


アルフと対面したグリ。これまでの声とは違う低い声。怒りなのか憎しみなのか分からない表情。髪をわしゃわしゃ。掻き上げる。

「来たか…完璧の魔女」

「…はぁ、興が削がれた」


「グリさま、申し訳ございません」

「完璧の魔女の足止め、ライの力及ばす…」


ライネに向き直ったグリ。普段の声と表情。

「いや、ご苦労だったねありがとう」

「ライネ、ここまで良くやってくれたね」

「おかげで楽しい時間が過ごせた」

「もう用事は済んだし帰ろうか」


「!」

「しかしグリさま!竜の子を…」


「ライネ、覚えておくように」

「引き時を間違えると自身の命はもちろん、仲間の命も危険にさらす事になってしまうからね、幹部になるなら大事な事だよ」


「!」

「…はい」

悔しそうな表情のライネ。そんな様子をほほえみ見ていたグリ。こちらを向く。


「じゃあね、久々に運動して楽しかったよ」

「君の事、覚えておくよ"テイト君"」

グリがネルカを抱えたまま、崖を軽々と登り、島から脱出して行く。後を追おうとすると、アルフに止められる。声を荒げるテイト


「アルフさん!」

「どうして追いかけないんですか?!」

「これじゃあ、やられたフォスさんの敵討かたきうちが出来ませんよ!」


「…オメェ気付かねぇのか?」

「アイツは全く本気を出してねぇ…」


水面を走るグリ。ライネに質問される。

「グリさま、一つ質問しても良いですか?」


「ん?なんだい?」


「竜の子と戦闘していた時、どうして【戒忌日蝕】(アグリプス)してなかったのですか?」


「?」

「はは、それはそうだよ、今のテイト君相手にボクが本気を出しちゃったら…」

「直ぐに"壊れちゃう"でしょ?」


島の二人。グリが帰って行ったのと、みんなに会って気が抜けちゃったみたいで、竜化が解けた。もうちょっと修行が必要かもね。


アルフの話を聞いて驚くテイト。

「…えっ、グリは【戒忌日蝕】(アグリプス)してない?」

「あれでただの獣化だったんですか…」

「なんだぁ〜上手くやれてると思ってたけれど、遊ばれてただけだったんだぁ…」


急に疲れが襲って来た。寝転がり空を見上げる。青い空。じわっと涙も込み上げて来た。

「そっか…悔しいなぁ」

「グリとの戦闘…僕がもっと早く竜化出来るようになっていたら、違う結果だったかも」

「…フォスさんは死ななかったかもなぁ」


「ねぇ?フォスさん?」

「…えっ?!フォスさん?!」

「グリにやられた死んだはずじゃ…?」


「あれ?」

「ワタシ死んだって言いましたっけ?」


「いや…言ってませんけど…」

「言ってませんけど!」

「あれは死んだと思うでしょ?!」

普段通りのファスがそこに居た。テイトの顔に笑顔が戻る。

お読み頂きましてありがとうございました。


生きてて良かったね。


「なんか面白かったよー!」

「続きが気になった!」

と思って頂いた親愛なる読者様へ…


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