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五十六話『侵入者』

その後も雷の音が何度も聞こえる。

「フォスさん、これってまさか?」


「えぇ、どうやら…この島に侵入しようとしている者が居るようですね」

「急ぎアルフさん達と合流しましょう」

来た道を戻ろうと振り返る。しかし。


「いや…遅かったようです」

「あそこを見て下さい」

フォスが指差した方向。目を凝らし見つめる。崖の上。逆光。大小二つの人影。


フォスさんが前言っていた。シェルターとして作られたこの島。魔人でも幹部クラスの魔人で無い限り、島への侵入は困難。幹部クラスの魔人で無い限り。


フォスは思う。どうやら侵入者は岩場を抜け、雷に打たれながら崖を登って来たようですね。どんな手を使ったかは分かりませんが。どちらかは幹部でしょう。両方共という事も有り得ますが。この島から外に向けて発生する斥力。超えて来るかどうか。


小さい人影が島に向かって何かのかたまりを放り投げる。塊は空中で広がり、四角く平たいレジャーシートのような大きさ、形状に変化した。シートが島に近付く。


シートは島からの斥力を受けているはずだが、弾き返される事は無く、落下する羽根のようにゆっくりと、島に向け下降を始めた。

大きい人影が小さい人影を抱え込む。お姫様抱っこの形で。そのままシートに飛び乗る。


ゆっくりと島に侵入して来た二人。着地。

「テイト君、用心して下さい」


「はい、ふぅ…」

心を落ち着かせるため深く深呼吸。二人の侵入者の様子を確認する。


一人はモジャモジャで濃い茶髪の男性。どこか眠たそうな様子。少し筋肉質。上半身は分厚いダウンを着ているのに、下半身は短パンを履いている。あ、あくびした。


もう一人は小柄な女性。薄い茶髪のショートボブ。男性を見つめているその瞳は、うっとりとしている。近くで確認すると、どちらの頭部にも動物の耳が生えている。獣人さんか?


男性は、聞いているこっちまで眠たくなるような。ゆったりとした口調で話し始めた。

「お久しぶりですフォスさん」

「たしか"あの日"以来ですね」

「その節はどうも」


「グリさん、アナタでしたか」

「この島に魔人の誰かがいらっしゃるならばアナタか、ジジさんかと思っていました」


グリが抱えていた女性を降ろしながら対応。自身の髪をわしゃわしゃ。あくび。

「覚えていてもらって嬉しいですね!」

「あ、彼女は"ライネ"です」

「初めて会いますよね?」

「しっかりした子なんで、ボクの後釜、未来の幹部候補って感じです」


「幹部候補だなんてそんなっ!」

「グリさまが居なくなったら、ライも魔界を離れますからっ!」


「はははっ、そうかい?」


こちらを睨みつけているライネ。フォスさんが答える。真剣な顔で。

「女幹部ですか…ロマンがありますね」


「そうでしょう?はははっ」

ちょっと二人、何の話してるの?!敵同士じゃないの?!テイトとライネそれぞれ困惑。


「はははっ…さて、話は変わりますが」

「竜の子をこちらに渡して頂けませんか?」

「ボクとしてもムダな争いは望まないんで」


動揺するテイト。キッパリと答えるフォス。

「申し訳ありませんが、無理ですね」

「ワタシの数少ない友人に頼まれまして」

「彼は渡せません、お引き取り下さい」


残念そうなグリ。髪をわしゃわしゃ。

「そうですか、まぁそうですよね…」

「ライネ」

「しばらくの間、完璧の魔女を足止め出来るかい?」


「もちろんです!」

「グリさまのご命令とあらば、たとえライが首だけになったとしても、魔女の足に噛み付いて足止めします」


「ははは、死んだらダメだよ」

「無理だと思ったら帰っておいで」


ライネ大ため息。はぁーーー!グリさま、カッコいい!優しすぎる!今日も無理言って同行させてもらったし。…頂いたご命令、必ず遂行してみせる。アルフ達の方角に走り出す。


「あっ!ちょっと待って!」


ライネの後を追おうとするテイトを、フォスが制止する。

「テイト君」

「来ますよ、下がっていて下さい」


「でも、一人アルフさん達の方にっ!」


「彼女の能力は分かりませんが、アルフさんなら大丈夫でしょう」

「それよりもこちらの方が、問題かも知れません」

「彼は幹部グリ、少々骨の折れる相手です」


やっぱり幹部だったか!優しそうな雰囲気の男性だが、彼も魔人。しかもオクトと同じ幹部。…一体なにをしてくるんだろう。


「自己紹介は…今フォスさんがして下さったので必要ないですね、魔人の幹部グリです」

「あ、そうそう」

「手ぶらで来るのもアレなんで、今日は良いニュースと悪いニュースを持ってきました」

「テイト君、どっちから聞きたいですか?」


「えっ、じゃあ…良いニュースから?」


「良いニュースからですね」

「貴方の妹さん、生きていますよ」


「えっ!」

クエラが生きてる?!真実かどうかは定かでは無いが。もしも本当ならこんな状況じゃ無ければ嬉しくて、飛び跳ねたいところだ!


「ある方が貴方に会いたがっていましてね」

「そのための人質です、貴方が魔界に来るまで殺される事は無いと思いますよ」

「貴方がもし途中で死んだら殺されますが」


人質…?オクトはクエラを狙っていたんじゃ?途中から標的ターゲットが僕に変わったのかな?僕に会いたい?一体誰が?何のために?分からない…。


「じゃあ、次は悪いニュース」

「貴方は妹さんに会えません」

「今日ここで、貴方の人生終わりなんで」

グリがコキコキと首と指を鳴らす。


「…!」

やっぱりそうなるのか…!まだ僕は自由に竜化出来ない。やってみるか?ぶっつけ本番で?仮に竜化出来たとして、特訓はしてきたけれど、本当に竜の力を制御出来るのかも分からない。怖い。


「ワタシも…」

「良いニュースと悪いニュースがあります」


フォスさんにもニュースが?何だろう?グリが問いかける。

「ほう?では僕も良いニュースから」


「はい?」

「いや、教えませんけど?」

答えを聞き固まる二人。テイト思わず失笑。


「…ふっ」

いつも通りのフォスさんでなんか安心した。うん!今回もなんとかなる気がしてきたぞ!

お読み頂きましてありがとうございました。


良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きます?


「なんか面白かったよー!」

「続きが気になった!」

と思って頂いた親愛なる読者様へ…


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