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三十八話『うみのもくず』

異変に気付いたウェーク。たった今ルイボルの息子を蹂躙じゅうりんして来た場所。そちらの方向から感じるとてつもない重圧プレッシャー。何だ?何が来た?


身体が勝手に反応。本能が"逃げろ"と言っている。どっとあふれる汗。呼吸が荒くなる。強張る身体。浮き出る鳥肌。サメなのに。


ルイボルの息子の回収は後だ!何年も人を殺して生きてきた。当然ピンチにおちいった時もあった。そんな日々の中で学んだ。こう言う時は本能に従った方が良い。長年の勘。


振り向く事なく一目散に海へと飛び込んだ!直後、水面から聞こえる岩が砕ける音。"何かが"自身が立っていた辺りに落ちてきた?


あのまま地上に居たら自分はいまごろ…。久々にビリビリと感じる恐怖。鼓動が速くなる。嫌な想像を振り払い、足を尾ヒレに変化させ深く潜る。地上から海中まで聞こえてくる笑い声を背中に受けながら。


「…」

竜に成ったテイト。先ほど折られた両手足は元通りになった。立ち上がり、その瞳に前方を行く魔人の姿を捉える。


両足に力を込め地面を強く蹴り出す。一蹴りで岩場に到達。着地時に魔人の脳天目掛けて拳を振り下ろすも、直前で魔人は海中に飛び込む。魔人が立っていた地面を岩ごと砕く。


「ha……ahahahaha!!!!」

辺りに響く笑い声。一息息を吸い込むと、倒れ込む様に海に飛び込んだ。頭から。


ドボン。


何だと?追ってきた?サメの魔人の俺を?海の中まで?はっ、ははっ…誰かは知らねえが相手は馬鹿か?海の中でこの俺に勝てると思ってんのか?!よし、逃げるのはやめだ。


海の中ならこちらが有利。お望み通り殺してやる!バラバラにしてやる!海の藻屑もくずにしてやる!ウェークは自身を追って海に沈んでくるテイトの姿を確認する。


「シャッシャッ!…シャ…」

「…あ、あ、うああぁぁ!」


目が合った。こちらを見て笑っている。見ただけで分かる力の差。無理だ!勝てない!勝てる訳がない!長年の勘。戦うのはやめだ!再び背を向け全速力で泳ぎ出した。


自分から離れて小さくなっていく魔人の背中。ウェークに対する怒り、もしくは生まれ持った狩猟本能だろうか。テイトの意識は無いが、魔人をそのまま放っておかない。手を大きく開き、水を掻き追いかける。


速い!どんどんと距離が縮まってきやがった!ルイボルの息子だよな?なぜ泳げる?さっき両手足を折って立てなくしたはずだろ!


ただの竜人だって聞いたぞ?!何だあの姿は?あんなの聞いてねえぞ!クソッ!オクトのジジイ!黙っていやがったな!畜生がっ!このまま逃げていてもそのうち追いつかれる!…どうせ追いつかれるのなら!


「くらいやがれっ!」

「【ハッ】!」


彼が繰り出す【波】は地上で使うと振動させた空気を相手にぶつけて吹き飛ばしたり、振動で相手の身体の自由を奪う事が出来る技。


水中で使うと海水を巻き込んで相手を押し流す技になる。ウェークの作戦通り、テイトの身体は【波】で発生した水流で後方に押し戻された。何度か繰り返す。


近付いてきていた二人の距離が再び開いてきた。いいぞ!離れてきた!これなら逃げ切れる!そう言えばいつまで息が続くんだ?エラがあんのか?と思ったちょうどその時。


追跡者テイトの水を掻く手が止まる。ここまで口から出ていた空気の泡も止まる。身体は動かなくなり海底に沈み始めた。


「…!」

シャッシャッシャッ!やったぞ!息切れだ!よし…よし!勝てるぞ勝てる!海底にうつ伏せに沈んだテイトの身体に何度か【波】を繰り出し、完全に動かなくなった事を確認。


手こずらせやがって!クソがっ!…いや、落ち着け。こんな時こそ冷静に。まずはルイボルの息子を回収だ。それで俺もやっと幹部になれる!しばらくウェークの動きが止まる。


…ダメだ。ムカついてきやがった。あのタコにもコイツにも!特にこの俺に恐怖の感情を思い出させたコイツが気に食わねえ!


前言撤回だ!殺す!最初の予定通りバラバラにして海の藻屑にしてやる!頭だけ残ってりや問題ないだろ!トドメを刺してやる!


グツグツと煮えたぎる怒りに身を任せウェークは鋭いキバを剥き出す。テイトの首を噛みちぎろうと首元めがけて一直線に水を切る。


テイトの首元にキバが迫る!首元まであと少し!ここで動けないはずのテイトの腕がウェークの目の前に。しまった…笑ってやがる。


いや問題ない、腕ごと噛みちぎってやる!キバを立てる!が、テイトのウロコに覆われた腕はダイヤモンドの様に硬く強靭で、キバが刺さらない。文字通り歯が立たない。


そのまま頭部を掴まれる。立ち上がったテイトは海底を蹴り出し、地上へ浮上する。ウェークも抵抗するもののその身体はグングンと海上に近づく。だまされた。


溺れたふりをして俺の事を誘ってやがった。希望から絶望に落とされる。俺が今まで殺してきた人間達もこんな気持ちだったのか?はあ、まあいいや考えるのはやめだ。


テイトは浮上の勢いを利用し、ウェークと共に海面に飛び出した。掴んでいた手を離す。空中で身体が自由になるウェーク。


勝てないと悟ったウェークは特に抵抗しなかった。青空をじっくりと見るのなんて何年ぶりだろうな。…意外と綺麗かもな。


ウェークの顔面にテイトが繰り出した蹴り。衝撃で体内の魔核は壊れた。ウェークの身体はボロボロと崩れ海の藻屑となった。

お読み頂きましてありがとうございました。


"もくず"と"もずく"似てますね


「なんか面白かったよー!」

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