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三十七話『もう逃げません』

「ごぼぼぼ!!!」

苦しい。サメの魔人に掴まれたまま水中を進んで行く。息が続かない。意識が…。


ザッパーン!


突如急浮上したサメの魔人?テイトの身体が陸地に投げ出され、岩場に打ち付けられる。サメの魔人は尾ヒレを足に変化させ陸地に上がる。飲み込んだ海水を吐き出す。


「ゴホッ!ゴホッ!」


「シャッシャッシャ!」

「楽しかったか?海中の旅はよお?」

「まったく災難だったな、海のド真ん中で突然船が停まっちまうなんて」


不気味な笑い。何か知っているようなセリフ。こんな時なのに頭が冴える。まさか…裏切り者が居る?嫌な想像が頭に浮かんでくる。一応確認する。


「あなたは…魔人ですか?」


「あぁ自己紹介がまだだったな

「その通り、俺は魔人」

「ウェークだ、よろしくな」



突然の船の停止と、船が停まる事を知っていたかのようなタイミングでの魔人の登場。船を用意してくれたのは?行き先を指定してくれたのは?おそるおそる聞いてみる。


「…船が停まるのを知っていたんですか?」


「さあ?どうだろうなあ?」

「そんな事よりお前にどうしても一つ言っておきたい事があってよ」

「礼を言うぜルイボルの息子」


「えっ?」


ウェークが近くの岩にドスンと腰掛ける。

「お前がオクトのジジイを戦闘不能リタイヤさせてくれたおかげで、俺ら次の世代にもやっと幹部になるチャンスが回って来やがった」


「チャンスって…」

「仲間じゃ…無いんですか?」


「仲間だあ?シャッシャッシャ!」

「んなわけねえだろ、魔人は寿命が長えし」

「今の魔王はムダな争いは好まないと来た」

「いままで邪魔でしか無かったぜ」


「…」


「どうやってお前があのジジイを首だけにしたのかは知らねえが、おおよそ完璧な魔女とその仲間がやったって所だろ」

「多勢に無勢じゃあのジジイにも無理だな」

「ともかく助かった」


ウェークが立ち上がる。

「シャッシャッシャッ、話は終わり」

「せめてもの礼だ」

「抵抗しねえなら…命だけは助けてやる」


「くっ…」

こう言う人って絶対ウソ!周りを見渡しても船は見えない。だいぶ遠くまで泳いで来たのか?アルフさん達が到着する頃にはもう…。


かと言ってもこの小島。広いのか?走って逃げても狭かったら直ぐに追い付かれる。そもそも広くても走って逃げ切れるのか?魔人から?無理じゃないか?どうする?


ウェークがにじり寄る。考えている暇は無い。…どうせ殺されるなら!いや、こんな所で殺されてたまるか!ダッ!と走り出す。


あぁ!やったぞ!岩の向こうに森があった!この島…広い!助かるかも知れない!アルフさん達が助けに来てくれるまで。何とか逃げ切るぞ!希望が見えてきた!うおぉぉ!


「はあ…まあ逃げるよな」

「残念だが…悪いな」

ウェークは自身から逃げるテイトの背中に手のひらを向ける。彼は"残念だ"と言ったが、その顔は笑っていた。魔力を込める。


「【ハッ】!」

目に見えない何かがテイトの背中にぶつかる。背後からタックルされるような感じ。その勢いに負け前方に転がり込む。


ぐわっ?!背中に衝撃!何だ?痛みは無い。何かは分からないけれど、直ぐに立ち上がって逃げなくちゃ!追いつかれてしまう!立ち上がろうと試みる。身体に力が入らない?


「シャッシャッシャッ、大丈夫か?」

ウェークが逃げたテイトに追いついた。うつ伏せになったテイトを覆うように大きな人影が出来る。人影は大きく口を開く。


腕が、足が、身体全体が動かせない。声も発せない。何をされた?ウェークは後ろに居る。見えないけれど分かる。…彼は笑っている。これから何をされるんだ…?


「お前が逃げるから悪いんだぜ」

「…仕方ない最後のチャンスをやる」

「"もう逃げません"って言え」

「そうしたら命だけは助けてやる」


「…」

声が発せない。


「どうした?言わないのか?」

「隙をついてもう一度逃げる気なのか?」


「…」

声が発せない。


「そうか…心苦しいが仕方ないな」

「お前がまた逃げるつもりなら」

「"逃げられねえようにしとかねえとな"」


サメの魔人ウェークがその人間離れした大きさの足でテイトの両足首を踏みつけた。"ゴキッ"鈍い音を立て、容易く折れる。あらぬ方向を向く。腫れ上がる。激痛で叫びそうになるも声が発せない。ウェークの笑い声。


「シャッシャッシャッ!」

「どうだ?これなら逃げられないだろう?」

「…いや?腕が残ってるな、このままだと這って逃げられてしまうか?どうなんだ?」

「おい?まだ逃げる気なのか?」


「…」

声が発せない。


「また答えないか…仕方ない」

テイトの右腕を踏みつける。鈍い音。折れる。あらぬ方向。腫れ上がる。激痛。声が発せない。ウェークの笑い声。


「次はこっちだな」

テイトの左腕を踏みつける。以下略。


「シャッシャッシャッ!」

「楽しかったぜ"いつも思うが"この方法だと苦痛に悶える声が聴けないのは残念だな」

ウェークが冷たい目でテイトを見る。遊び飽きたオモチャを見るような冷たい目。


「こいつは…殺さなくてもいいか、どうせ普通の人間は魔界に入ったら死ぬしな」

そろそろ完璧の魔女が来そうだ。帰るとしよう"闇"は…。しまった、岩場に置いてきた。取りに戻るか。ペタペタペタ…。


…痛い痛い。両足。両腕。折られた?あの魔人"いつも"って言ったか?喋れない相手に『"もう逃げません"って言え』って?答えないからって逃げられなくするって?何だそれ。


…ふざけるな!馬鹿げてる!人の命を何だと思っているんだ!あぁ何も出来ない自分が悔しい!魔人が憎い!くそっ!許せない!


…絶対、許さない。


動かないはずの口から"ギリギリ"と歯ぎしり。声を発せないはずの口からうめき声。

「ぁぁぁあああ…!」


"テイトの心臓の鼓動が大きくなる"

お読み頂きましてありがとうございました。


フカヒレ食べた事あります?


「なんか面白かったよー!」

「続きが気になった!」

と思って頂いた親愛なる読者様へ…


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