十九話『洗脳』
再び男性がナイフを構えた。クロウとヒヒとの戦闘、ミルフが言っていた話を思い出す。
『アイツらもオレらのことを殺そうとしたんすから、逆にオレらに殺されても仕方がないんすよ、それぐらいの覚悟で来ないと』
『戦いってそんなもんす』
男性は僕を殺す気で来ている…。
どうする?どうすれば良い…?
ダメだ!どうするもこうするも!僕戦えないじゃん!これから特訓するために南の島に向かおうとしているんだった!
強くなければどうしようもない。選ぶ事も出来ない。今は…とにかく死なない!
「アルフさーーーん!!!」
叫んだけれど来ない。振り下ろされた腕を何とか掴む!こっちは両腕で掴んでいるのに、ナイフが顔面に迫る!止まらない!
ナイフの先が右目に迫る!ヤバい!ヤバい!
「うぐぐぐぐ!」
「うおぉぉぉ!りやあぁぁぁ!」
力をふりしぼり何とかナイフの先をそらす事が出来たが、危機は去っていない。
「返セ!返セェェェ!」
「だから!知らないってぇぇぇ!」
…もうダメかと思ったその時。
「【捕縛】」
その声に応じて空中に魔法陣が出現。ジャラジャラと音を立てて鎖が飛び出し、男性の身体を拘束した。身動きが取れない男性。
悔しそうにこちらをにらみつける男性。
「ウガァァ!返セ!返セェェ!」
「あぁ?うるせぇよ」
「アルフさん!」
玄関から助けに来たアルフは周りを見回した後、男性に目を向ける。
「コイツはただの人間か」
「だが全身から闇の気配がする」
「洗脳されてるな」
「洗脳!?それで様子がおかしかったのかぁ…この人は助かるんですか?」
アルフさんはこちらの問いに答える事無く男性に近付き、男性の額に右手をかざした。
「あっ!アルフさん!危険ですよぉ!」
目を閉じ集中を高めるアルフ。
「【回収】」
アルフが唱えると、男性の身体から黒い闇がモヤモヤと煙のように立ち昇り、彼女の右手に吸い込まれていく。
黒い闇が吸い込まれていくのにつれて、敵意にみちあふれ、険しかった男性の表情がおだやかな表情に変化し、闇を全て吸い込み終わる頃には寝息を立て眠ってしまった。
「終わった」
アルフが男性の額にかざしていた右手を戻す。男性を拘束していた鎖が光となって消えた。
アルフさんの【回収】は形が無い物にも使用出来るのか…。洗脳?されていた男性を傷付ける事なく元に戻してみせた!スゴいアルフさん!キラキラした目でアルフを見つめる。
「コッチ見んな、行くぞ」
アルフさんに続き、自宅の外に出る。辺りがまた暗くなっている。と言う事は魔人が…?
ガキイィィィン!!!と金属がぶつかる音。暗い中、火花が飛ぶ。誰か戦っている!
「キイィィ!面倒くさい奴だわ!」
「そこをどきなさいよ!」
「…」
「また無視ね!キイィィ!」
外では二つの人物が戦闘していた。
一方は全身が金属質な紫の皮膚で覆われ、両腕がハサミ。後頭部から伸びた身体より長いサソリのような毒針。見た感じ女性っぽい。
もう一方は黒地に金色で禍々しい装飾が施されている重厚な鎧を着込み、左手にハンマー、右手に盾を装備している。
顔全体が隠れるタイプの兜を被っており、顔は見えないが大柄な体格。男性っぽい。
サソリっぽい方が毒針をゆらゆら。鎧の方がハンマーをブンブンと回す。あわわわ。サソリっぽい方が自宅から出て来た僕達に気付く。
「あんたが"竜の子"ね」
「初めまして、私はスクロル・スコピオ」
「あんたには何の恨みもないのだけれど」
「あんたを魔王様に献上して、次の幹部になるのはこの私よ!」
次の幹部?何の事かは分からなかったけれど、とにかく僕を狙っている事は分かった。アルフさんの影にそそくさと隠れる。
スコピオが続ける。
「!」
「洗脳が解けている?魔女!あんたね!キイィィ!洗脳するの面倒くさかったのに!よくも!あんたも一緒に殺してやるわ!」
「洗脳したの…あなたなんですかぁ?」
アルフさんの影からスコピオに尋ねる。
スコピオが自慢げに話す。
「よくぞ聞いてくれたわね!そうよ!一緒にいた女を殺してあの人間の心を"空っぽ"にしてから、闇を流し込んで洗脳したわ」
あぜんとするテイト。続けるスコピオ。
「単純な命令しか実行出来ないのがデメリットだけどね」
「もっと使えると思ったけれど、全く使えなかったわ、クソッ!…まぁいいわ替えはいくらでも作ればいいんだし」
「ペラペラうるせぇな」
「おいガキ、…おい?」
一点を見つめるテイト。一緒にいた女を殺した?男性のお母さんか?そう言えば診察後、『元気になったら二人で散歩に行こう』って言ってたな。元気になって二人で散歩に行く途中で…。コイツが殺した?何て事を…。
男性が『返セ』って言ってたのって、男性のお母さんの事だったのか?怒りがグツグツとこみ上げる。心臓がバクバクと鼓動する。
うん。コイツは"いらない"なぁ。
「…おい!」
アルフに腕を掴まれ、我にかえるテイト。
「ぼーっとするんじゃねぇ!」
「ごっ、ごめんなさい!」
目の前ではスコピオと鎧の人物が激しい戦闘を繰り広げている。
お読み頂きましてありがとうございました。
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