小さな魚のぬいぐるみ
10前年、7歳の時にぬいぐるみを買ってもらった。
初めて買った、自分の両手より大きな魚のぬいぐるみ。
つけた名前はミミタス。
水色と白と口の中の赤。
一番目立っていたのは水色で、サイズはタグにミニサイズとあった。
水色とミニサイズを足してミミタス。
名前は単純だったけれど、僕はミミタスを大切にした。遊ばない時は一番下のタンスの奥に入れ、遊ぶ時は一番下ロッカーから出して遊んだ。
その次の年は、大きな犬のぬいぐるみを買ってもらった。
自分と同じくらいの大きさのそのぬいぐるみには、もともと名前があったから、名前は付けなかったけれど、とても嬉しかったからいっぱい遊んだ。
そのまた次の年、僕はゲーム機を買った。友達みんなで一緒にゲームをして、とても楽しかった。
気づけば、ミミタスはロッカーに入ったままになっていた。
それからはぬいぐるみを買うことはなくなり、カセットを買ってもらったり、他の欲しいものを貰ったりと、気づけば大きな犬のぬいぐるみも捨てられていた。
そして今、ゲームも前ほどはしなくなり、代わりに勉強やアルバイトをするようになっていたが、将来の夢なんて考え始めた時には、なんとも言えない気持ちになった。
これまで、何か考え事があった時は、他のことをして気分を紛らわしていたが、今日は何故かいつものようにはいかなかった。
しかも、タンスに足をぶつけて凄く痛い思いもした。
「そういえば......このタンスって」
いつものように、一番下のタンスを開けようとするが、今は昔と違って、しゃがんてやっと開けられる位置だった。
「......懐かしいな、このぬいぐるみ」
小さな魚のぬいぐるみ、昔は両手いっぱいだったが、今ではミニサイズらしく、片手で十分くらいなサイズだった。
「今夜は冷えるからな」
ずっと放置していたから、汚いであろうぬいぐるみをベッドボードに置き、適当なハンカチを被せた。
「......今日はもう寝るか」
変に考え込んだことも一度保留にしようと、電気を消して、僕はベッドに入った。
仰向けのまま、天井を見つめていたところに、急に顔の上にぬいぐるみが落ちてきた。
「痛っ」
ぬいぐるみが急に頭の上に落ちてきた事への驚きもあったが、何やらおでこが想像以上ヒリヒリとした。
「........」
頭に落ちてきたぬいぐるみをただ見つめていた。
「......ありがとう」
何のことだろうか、自分にはよくわからない。
だけど、少しだけ前向きになれた気がした。
読んでいただき、ありがとうございます。