土地治し
夜を照らす剣の光は徐々に消えていき、その場には夜の暗さに戻った。目の前には大穴が開いているが、邪神が作り出したであろう兵士たちはいない。デンファレは地上に降りると、女神の力が体から抜けていく。長時間使用していたため、体にはかなりの負担がかかっているはずだが、彼女は膝を付くことなく、星空を見つめていた。
「本当に、終わったわね。……でも、ここからね。世界を救いきるには豊かにしないと」
ぽつりと呟く。それを聞いているのは自分だけで、言葉は夜の空気に飲まれて消えた。
女神が邪神を倒したという事実は簡単に人々に広まっていった。デンファレは自身に信仰の力が戻ってきているのを感じていた。だが、彼女を動かしているエネルギー源は今までの信仰の力とは別のもので、あの温かい力だ。いつ無くなるのか、わからないが、とにかく、彼女は今もそのエネルギーで消滅することなく、動いていた。
「これで何とかなるでしょ」
彼女は邪神を倒した夜を越した辺りから、神の力の一つである豊穣の力を使って、死んでしまった土地を蘇らせていた。特に、それぞれの国の外に作ったものは例外なく使えなくなってしまっていたので、そこを重点的に蘇らせた。
まずは獣人の国。国の門番をしていたのは、猿と犬の獣人。そして、カロタン一家がそこにいた。
「デンファレ様。本当にありがとうございました。貴女が女神様だと知った時は驚きましたよ」
「さすが女神って戦いだった。俺はきっと戦えなかった」
カロタンたちはデンファレを安堵の笑みで迎えた。彼女たちはデンファレが神だと知っても、あまり態度は変わらない。それがデンファレには嬉しいことだった。神だと知られたら、嫌われるかもしれないと思っていたのだから。カロタンたちとお喋りをしながら、アニマナイズの国内とその周辺の土地を、植物が育つように栄養をいきわたらせる。見た目にはあまり変化はないが、何か植物を植えればすぐに効果が出るだろう。すぐとは言っても、いきなり果実や穀物が収穫できるわけではない。通常より速く育つが、それなりの時間がかかるのは仕方がない。
カロタン達といつまでもお喋りをしてると、トールがデンファレに声をかけた。邪神との戦いでボロボロだったはずなのに、既に体はぴんぴんしているようだ。服装だけはボロボロだが、ローブの首元には金色の五つ葉のクローバーが穢れなく、そこにあった。
トールと共に次に向かった場所はエルフの国、マギアル。ベルに追い出されて逃げるように出てきた場所だ。
「まさか、本当にあの悪い物を倒すとは思いませんでした。おめでとうございます。ですが、この国にはやはり、貴女を受け入れることはできません」
マギアルの国の入り口に立っていたのはベルだ。小さな背でも持っている雰囲気は大人だ。そして、彼女の感情のわからない視線を受けると、彼女がデンファレのことを考えているのがわかるだろう。彼女を傷つけさせまいとそう言っているのが、今のデンファレには理解できた。
「少しだけ。私の豊穣の力で、少しだけ植物を育ちやすくするだけよ。マギアルの周辺だけね」
「……その、私は貴女に酷いことを言ったと思うのです。それにこの国には貴女のことが嫌いな人も沢山います。それでも、助けてくれるのですか。女神だから?」
デンファレはその問いに、宙を見て顎に指をやって少しの間、考えているようだった。
「女神っていうのはあんまり関係ないわね。力があって、助けたい人が目の前にいて、助けられる。だから、助ける。私のことが嫌いな人は変わらなくてもいいじゃないかしら。マギアルで言えば、ベルとオブストを助けられればそれでいいわ。他の人が助かるのはどうでもいいわね」
ベルはデンファレがあまりに当たり前のように、すらすらと言葉を並べていて、その言葉の中に自分への信愛を感じた。そして、どれだけ冷たくあしらうふりをしても、自身の彼女への想いが伝わってしまっていることが、照れくさかったが嬉しかった。
「そう言えば、オブストはどこに居るの」
「彼ならそろそろ戻ってくると思いますよ。いつもの警備の仕事です」
オブストが来る前に、マギアル周辺の土地に神の力を注ぐ。ベルはデンファレの姿を見つめていた。そうしていると、オブストが帰ってきた。彼は感激たように、大声を上げて、トールとデンファレの肩を叩いて、勝利を祝った。
土地の修復が終わった後、オブストにマギアルの中へと案内されそうになったが、まだやるべきこと、行くべき場所があると伝えて、マギアルを後にした。オブストとベルは、去っていく二人の姿を見送っている。ベルが一歩前に出た。
「デンファレ様。また来てください。そのころには、居心地がいいように、女神様のことが好きだって人が多くなるようにして見せますから!」
オブストはそんな彼女を見て、快活な笑顔を見せていた。デンファレは振り返って、手を上げた。
「楽しみにしてるっ!」
そして、最後に残った国は人間の国だ。




