本当に本当の最後の戦い
「そんなちっぽけな剣で俺を倒そうってか。さっきの剣の方がまだかゆそうだな」
デンファレはデスブルドの目の前に堂々と立っていた。ほのかに光る剣を右手に持ちながら、彼女は邪神相手に怯えることなくそこにいた。デスブルドはデンファレを見ても、彼女を馬鹿にしているだけだ。彼女に自分が負けるはずがないと思っている。何があっても自分が消滅することはないし、万が一にも封印されることもない。そう言った自身の勝利を疑っていない。それは油断だった。
彼女はそれを理解しているのか、いないのか。彼女は剣を相手に見せつけるように剣先を向けた。デスブルドはその剣に宿る力を感じてしまう。今、自分が言ったことが間違っているかもしれないとそう思った。だからと言って、自身が負ける姿は騒動できない。自身の勝利を疑うほどの力では無いと、デンファレを侮っていた。
「この剣で、貴方の邪悪を断ち切ってあげるわ。感謝しなさいっ!」
デンファレが剣を両手で握り、剣先を下に向けて、デスブルドに接近する。彼女が邪神に近づく度に、剣の光は強くなる。デスブルドはそれを認識しているが、回避しようとは思っていない。その剣を受け止めて、さらに力の差をわからせようとしている。
彼女が相手の目の前で剣を振り上げた。剣身の光がデンファレを照らす。彼女が剣を振り下ろした。デスブルドはその剣の軌道上に手を動かして、それを受け止めようとしていた。剣と手が触れた。その瞬間、より一層強い光が剣から放たれた。そして、相手の手を切り裂いた。そこから、大量の黒い煙が漏れ出していた。すぐにはその傷は修復されない。
「くそ。そこまでの力があったとはな。だが、手が無くなっただけだ。神ならわかるだろう。すぐに修復する。だがっ」
デンファレに傷ついていない方の掌が迫る。彼女は再び剣を構える。近づいてくる手に合わせて、再び剣を振るった。光る剣身がその手を切り裂く。先ほどよりも浅い傷ではあるが、傷口から煙が漏れている。それは確実に相手にダメージを与えていることの証拠だった。
「ふぅ、ふぅ。なんだ、何なんだ。いきなり強くなるはずはないだろ。仕方ない。それも少し本気を出してやる」
邪神の両手が簡単に修復され、元の状態に戻っていた。そして、彼女の持つ剣に反するように、その爪に暗い紫に怪しい光を纏っていた。条件が五部なら、勝つのは格が上の邪神だろう。だが、今はそれがどうなるかわからない。デンファレは相手の姿を見て、剣を構えなおす。やはり、剣を握る手には力が入る。
「これで終わりにしてやる。さっさと消えろ!」
邪神の禍々しい爪が彼女を襲う。その爪に対して、先ほどよりも強く光る剣をその爪に当てる。金属同士が擦りあうような音がしているが、デンファレにはそれを気にする余裕はない。今も負けるもんかと言う意地と、世界を救うという覚悟が彼女を支えているのだ。
歯を食いしばって何とか爪を弾け飛ばす。そのまま、弾け飛ばした腕の脇を潜って、その腕を斬り落とす勢いで相手の腕に剣を通す。太い腕がぱっくりと割れ、大量の煙が出てくる。それでも彼女は腕を再び斬りつける。腕の半分ほどまで斬れてあとは侍従で腕がちぎれていく。だが、腕は一本ではない。再び、もう一方の腕が彼女に向けて接近していく。彼女はその腕をぎりぎりで避けて、手首に斬撃を入れる。ちぎれるほどではないが、確実に相手に傷を与えていた。
相手の腕に沿うように飛んで、相手の胴体に近づいていく。だが、邪神もそれを簡単には許さない。体や腕を動かして、デンファレにぶつけようとしていた。しかし、片腕がちぎれた状態ではうまく動くことはできない。さらに、腕自体がちぎれてしまったために、すぐには修復できないようだった。デンファレは気力と決意だけで邪神の体に傷をつけ続ける。
そして、ようやく顔の前までたどり着いた。
「……なぜ、そこまで戦える? いや、何度聞いても理解できないんだろうな、俺には」
邪神は目の前の綺麗な女神を見つめて、格が下のはずの神がどんな力を持って、格が上の自分をここまで追いつめたのか、それを考えていた。だが、邪神は腕を斬られた瞬間に焦った。負けるかもしれない、と。そして、その不安に、恐怖に飲まれたのだ。そして、眼前にその女神が来た。ここで足掻くなんて格好悪い。
「わかろうとしないだけよ。私だって、全部わかってるわけじゃない。大切なものがあるってだけだわ」
彼女は剣先を天へと向ける。剣の光は、最後の一振りだというかのように、地上を照らすほどの強く輝く。デンファレは、デスブルドを見つめた。もはや、抵抗する気もないようだった。既に、自身がここで終わることを理解しているだろう。
「せめて、一瞬で」
そして、彼女はその剣を躊躇いなく、勢いよく振り下ろした。剣は抵抗感なく、するりと相手の体を真っ二つに引き裂いた。黒い煙が溢れて、天へと昇っていく。やがて、邪神の体が空気に溶けるように消滅した。最後に残った大きな紫色の光は、一層輝くとその場に散った。




