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神殺し召喚  作者: ビターグラス
3 まだ超えられない
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実は……?

 二人は再び、草原を歩く。人は一人も歩いておらず、そこにいるのは魔獣ばかりだ。獣の姿も見えない。もう各種族の国の中にいるだけで全てなのかもしれない。


 そんなひどい状態の草原を二人は魔獣に見つからないように歩いていた。隠れる場所はないので、トールが魔獣に注意を払って、安全そうならデンファレが付いて行くという方法だ。トールがかなり有能な人間であるため、魔獣との戦闘を回避することが出来ていた。




「まさか、こうやって移動しても見つかるとは思いませんでしたよ。デンファレ」


「ご、ごめんってば。私だって、あんなところの草に引っかかるなんて思わなかったのよ」


 順調に移動できていたというのに、ちょうど魔獣がこちらを見た瞬間に、デンファレが草に足を取られて転んだのだ。何か嫌な予感がしていたトールは何か起こす気はしていたので、あまり驚いてはいないものの、彼女がその予感を裏切らなかったことに呆れている。彼は地面に手を着いて転んでいる彼女を見下ろしていた。彼女も自分がここまで酷いドジを踏むとは思っておらず、恥ずかしさ立ち上がることが出来ない。


 ただ、その状態でも魔獣は二人に気が付いてしまったようだ。その魔獣は二人に腰当たりの大きさで、茶色の体毛を持っていて、四足歩行。その魔獣はゆったりと二人に近づいてきている。逃げようと思えば、簡単に逃げられる。だが、トールはそうしなかった。こうやってゆっくり近づいて来て背中を見せた瞬間に素早く襲ってくるかもしれない。前の世界の獣にそう言うのがいたのを思い出していた。


「戦えそうですか」


「ええ、何とかやってみるわ」


 デンファレは剣を抜いて構えた。彼女の足は震えている。剣を握る手も微かに震えていた。トールはそれを見て、一つ息を吐いた。


「駄目ですね。きっと貴女は負けます。実力を伸ばしたいのはわかりますが、一人で戦えると思っているのですか」


「そ、それは、多分、無理。でも、やるしかないでしょ」


 再び、トールは溜息を吐いた。少しではあるが地上の惨状を見て、奮起しているのは理解できるが、自分の実力に見合わない敵と一人で戦うのはただの馬鹿だ。


「そうですか。では、一人でお願いします」


 トールは、デンファレは帯剣しないとわからないタイプだと考えて、それ以上口を出さなかった。彼の目から言えば、一撃でデンファレを殺す力はあの魔獣にはないとみていた。


 実際、この魔獣、ブラウンレトリバーは噛み付き攻撃に注意すれば、難なく勝てる相手だ。噛み付かれると、出血が止まりにくいという特性があるだけで、この魔獣もかなりの数が討伐されているのだ。


「なんとかするの、頑張るのよ、私」


 小さく呪文のように呟きながら、彼女は剣をブラウンレトリバーに向けた。しかし、彼女ははっと何かを思い出したような表情をした。


「風よ、我が敵を切り裂け」


 デンファレがそう言った瞬間、辺りにあった何かが彼女の前に集まり、それが見えない空気の刃となって、魔獣に飛んでいく。その刃は確実に、魔獣に当たったが、魔獣がその刃によって斬れることはなかった。だが、魔獣はまるでその刃に足を斬られたかのようにその場に倒れた。


「ほお。魔法ですか」


 トールはその現象を前の世界で見たことがある。彼らはそれを魔法と呼んでいた。しかし、トールは魔法の源である魔力を感じることができなかった。その代わり、呼吸をする度に、魔力とは違うものが体の中に入ってきている感覚があった。彼は彼女の使った魔法の源がこの違和感を作っているものであるだろうと予想した。


「土よ、我が敵を潰せ」


 彼女は先ほどとは、異なる詠唱を行う。その言葉が終わると同時に、動かない魔獣の上に、生まれて大きくなっていく。それは魔獣と同じくらいの大きさになると成長を止めて、落下した。動かない魔獣はそれを回避する手段を持っておらず、そのまま土塊の下敷きになった。土はその場に留まらず、粒子になって消えていく。その下にいた魔獣の姿が見えたが、それは既に息をしていない。外傷は一つもないのに、絶命していた。


「どう?」


 デンファレはどや顔でトールに振り返った。トールはいつもの少し不機嫌そうな顔で拍手した。デンファレはその様子が少し面白くなくて、そっぽを向いた。


(少しは褒めてくれても良くない?)


 トールはデンファレのそんな気持ちは知らずに、死んでいる魔獣を見る。外傷は一切なし。元の世界で魔法を使えば、こうはいかない。トールは自分の世界の魔法の仕組みと、この世界の魔法の仕組みが違うのだろうと考えた。もしくは、女神である彼女が特別なのかもしれない。


「さて、こんな力があるのに、あの雑魚魔獣に負けたのですか」


 その言葉に、デンファレの喉がぐっとなった後、彼女は何も返事が出来なかった。

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