くじけるわけには
デンファレの使用したカードが光り、その効力を発揮しようとしていた。そのカードは地上に表れた人の手に負えない、危険な生物や災厄を抑え込む神の力だ。本来なら、事象や元凶そのものを封印して効力を焼失させる力を持っている。デスブルドに使用すれば、デスブルドごと封印できるものだ。だが、彼女の神の力を使用すれば、信仰の力が減り、消滅するかもしれない。さらに女神の力を使いながら、封印の力を使えば、信仰の力がさらに消費されるのだ。その力を使うことでまだ、何も終わっていないのに消滅することを恐れていたのだ。
このピンチで発動した封印のカード。その力がデスブルドを抑え込もうとしている。だが、相手はその力を恐れている様子はない。確かに、封印の力がかかっているはずなのに、苦悶の表情でもない。
「そ、そんな……」
格が違うことを理解していても、彼女の持つ五つのカードの効力は彼女の格とは関係なく力を発揮する。彼女より強力な災厄であっても封印できるはずなのだ。だが、デスブルドには効かない。質は違えど、邪神も神。神であれば、信仰の力が少なからずあり、その量がデスブルドの方が圧倒的に多いというだけの話であった。
封印はできなかったが、幸い、世界を壊そうとしていた紫と黒の球体は封印の力で消失した。すぐに世界が滅ぶことはなくなったが、それでも依然として邪神はそこにいる。
「滅びの球はなくなったか。思ったより、厄介な力だな。女神の力は。まぁ、いいか。直接狙っても良いな」
デスブルドの口が大きく開き、その口が彼女を食べようとしているかのようだった。しかし、その口は閉じず、半透明で薄く光る灰色の球体が出現した。それはその口の中に納まる程度の大きさではあるが、それでも大きい。だが、そこに強大な力が込められているのがわかる。それが地上に落ちれば、被害は少なくはないだろう。森に落ちても木々や獣が消滅するのは免れない。それが人の集落に落ちれば、さらに被害は大きくなるのは間違いない。つまり、彼女にはその攻撃を防ぎきるしか、選択肢がない。回避すれば、相手の攻撃はどこかで地面に落ちるだろう。その落ちた地点に大きな被害が出る。
(あれを、受け止めるっ)
そんな中でも彼女はここで消える気はさらさらなかった。その攻撃をどうにかして受け止めて、目の前の邪神を倒すのだ。
ついに、灰色の球から勢いよく彼女に向かって吐き出された。デンファレは剣を強く握り、どうにかして剣でそれを受け止めようとしていた。球体に向けて剣を剣先を突き出す。球に剣先が当たり、球が剣を飲んでいく。彼女は球に飲まれた剣を何度も振るって本当に少しずつ削っていたが、その程度ではその球が止まることはなかった。下がりながらでも、球を削る、削る、削る。それでも、彼女の大きさに対しても球が大きすぎた。
(まだ。まだ、剣は折れてないっ)
剣が折れても、彼女ならきっと拳でどうにかしようとするだろう。拳が駄目なら蹴りで、蹴りが駄目なら、噛み付いてでも、世界をどうにかしても守る。そこまでの決意が彼女にはあった。
彼女の意地が功を奏したのか、目の前の球体が消失した。
「がんばるね。そんな人を助けないわけにはいかないからな」
「な、なぜ、貴様がここにいるっ!」
「久しぶり、って程じゃないか? まだ存在できていたとは思わなかったわけではないし、驚くほどでもないだろ」
ヴィクターが球体のあった場所の上に立っていた。そして、動揺するデスブルドが彼に向かって叫んでいた。
「だが、お前の相手をするのは俺じゃない。今回の召喚された勇者はまた俺だが、主人公は俺じゃないからな」
ヴィクターは、視線をデンファレに向けている。ヴィクターはデンファレに期待していた。彼はここまで彼女が成長するとは思っていなかった。途中で投げ出さずとも、この邪神と渡り合えるほどの力を手にするとは思っていなかったし、デスブルドとの戦いで負けそうなら、自身でデスブルドを倒そうと思っていたほどだ。しかし、彼女ならば、きっと倒せる。そう思わせるほどの決意が彼女にある。
「デンファレ。これと戦うのも倒すのもあんただ。だが、頑張ったみたいだからな、少し手助けだ。あとは、最初に渡した剣。今なら本領発揮するかもな」
デンファレは透明な剣身を持っている剣を見つめる。彼女が女神の力を持った状態ではその剣しか使ってない。彼女は持っていた剣を鞘に納め、この旅の最初にもらってずっと使ってきた剣を抜いた。装飾の無い剣身だったはずなのに、今のその剣は白い光を纏っていた。デンファレの中にある力が手を伝って剣に渡っているような感覚が伝わってくる。その剣が、体の一部になっている。
「これなら……。ヴィクター、最後までありがとっ」
「お礼は倒してから言えって」
ヴィクターの言葉はデンファレには届かなかった。なぜなら、彼女は既にデスブルドとの本当に最後の接近戦を挑みに行ったからだ。




