一人でも
一人でも戦わなければいけないという状況になって、彼女は一人で戦い続けられるのか、という不安はあったものの、それでもこの場で地上の降りて、膝を折り、降参するという選択肢はなかった。むしろ、倒れるほど、戦った人がいるのに、まだ戦える自分が負けるなんてことは、ありえない。今の彼女の覚悟は腕をもがれても、足を折られても、戦う意志だけは消えない、消さないというものだ。
心意気は十分だったが、彼女にはそれだけの力も技術もないことは事実であった。彼女の剣は大した傷を作れない。デスブルドにとっては人にとっての蝿や蚊程度の攻撃だ。痛みはないが、うざったい。そう言う感覚だ。相手はデンファレに向かって腕を何度も振って、トールと同じように地面に落とそうとしているのだが、トールとは違い、空中での移動も簡単で、神の力を持っているため、攻撃を回避するのは難しくなかった。そのため、デスブルドの腕や足の動きを見て回避、その後に懐に移動して剣を当てる。そう言った戦い方だ。どちらも、ダメージがないため、戦いは終わる気配がない。
「いつまで避けるつもりだ。勝てない戦いにいつまで時間をかける気だ」
「最初に言ったでしょ。頭、悪いんじゃないのっ?」
「俺が諦めるまで、だったか。お前の信仰の力が尽きるのが先だと思うが?」
「それなら、それでいいのよ。信仰の力が無くなっても、私は貴女を倒すわ!」
デスブルドはデンファレには会話すらうっとおしかった。どうあっても、自身の思う通りには動いてくれないということだ。邪神には、なぜこんな小さな世界を守り続けるのか理解できなかった。邪神がこの世界を狙ったのは、目の前の女神が世界の管理を怠っていたからだ。この世界に入るのは簡単で、管理をしていないということは邪神の存在にもすぐには気が付かないだろうと考えたのだ。案の定、世界を荒ませるのは簡単だった。この女神がもう少し世界の惨状に気が付くのが遅ければ、デスブルドが世界を征服していただろう。この邪神にかかれば、命あるものを操るのは難しいことではないのだ。だが、ギリギリで気が付き、何とかしようとして、ここまで来ている。女神にとって、信仰の力は大事だが、一人でも彼女を信じる者がいれば、その人を連れて他の世界に行けばいい。管理されていない世界の神になれば、再び世界を作り直すこともできるのだ。神が人を救うならそう言う方向でもいいはずなのだ。考えても、邪神には何も思いつかない。
「一つ、聞きたい。なぜ、ここまでして世界を救う? 他の方法がいくらでもあるだろう。違う世界を作ってもいい、人をそこに送れば、同じ世界が出来上がるだろう」
「簡単な話よ。この世界が私の世界だから。私のものが他人に汚されたままなのは、我慢ならないってだけ。……今は少し違うわね。前よりこの世界が好きだからね」
その言葉に迷いや恥ずかしさはない。それを聞いて、邪神はデンファレをより理解できなくなった。自分のものだから、隙だから。そんな子供のような理由だけで戦い続けるのは難しいだろう。邪神は彼女を理解できないと決めつけると考えるのをやめた。
邪神の考えていることはそのまま、デスブルド自身にも言えることだった。わざわざデンファレのいる世界でやる必要はない。しかし、ここまでこれたからこの世界を征服するために戦う。それは意地なのだ。そして、きっとデンファレが語った言葉の根源も意地だろう。好きなものを譲れない。そういうものだ。根本の部分が同じなのに、邪神には彼女が理解できない。デスブルドが持っていないものが、与えられなかったものが、デンファレにはあるのだ。この世界を旅して直に見てきたものが、彼女の中にある。それが邪神と女神デンファレの違いなのだろう。それは差ではなく、ただ道が違うというだけだろう。
「戦うのも飽きてきたな。いい加減、終わってほしいんだが」
「貴方が降参すれば、終わりにするわ。その時は、貴方には消滅してもらうけどね」
「……俺が本気を出していないだけだと言ったら? 世界を征服する方法は、何も侵略だけではない。征服した後に、人員が欲しいからこの世界の住民を生かしておいただけで、やろうと思えば、こんな小さな世界、すぐに亡ぼすことができるんだ」
そう言うと、デスブルドは胸の辺りに紫と黒が入り混じった球が現れた。それはデスブルドが使える神の力だ。デンファレがその攻撃を受けきることはできないだろう。神様の格としては、デスブルドの方が圧倒的に上なのだ。神の力を使えば、負けるのは神格が下のデンファレだ。受け止め切れずに、信仰の力も消滅するかもしれない。彼女は焦って対抗策を考えるが、トールのようにすぐには策を思いつかない。
「滅べ。獣も、植物も、人も、大地も。そして、神も……!」
紫と黒の球がゆっくりと空へと上がっていく。球は大きくなりながら、世界の全てを見回せるような高さで止まる。すぐには攻撃は開始せず、力を蓄えているかのように大きくなり続けている。それがいつ、攻撃を始めるのかわからず、彼女はカードを呼び出した。五枚のカードの内、使えるカードは三枚。彼女は迷わず、悪魔のような絵の上に罰印が描かれたカードを使用する。それは世界を脅かす存在を封印する力だ。彼女がカードを邪神に向けるとカードが光り始めた。




