黒い城の中は
下の階層に降りてきた彼女は、すぐに相手の視界を遮るように壁を背にして、先を見る。十字の廊下で、廊下には何かいるような雰囲気はない。警戒しないに越したことはないため、彼女は辺りを見回しながら進んでいく。上階から剣戟の音がしていたが、彼女は気にしないようにしていた。最上階から下に数えて二階。そのフロアには何もおらず、そのまま下の階層へと続く階段を下りていく。外から見れば、地上と同じラインで一階のはずだが、外へと続く扉はないようだった。最上階から数えた方がわかりやすいかもしれない。
最上階から降りて五階ほど降りて、フロアの雰囲気が変わった。窓が無くなり、明かりは廊下に設置された松明だけだ。風は無く、明かりは安定しているものの、先は見にくいため、敵の確認はしづらかった。しばらく進んでいくと、そこには大きな扉があった。そこに何かいると宣言しているような、大きな扉だ。彼女はその扉を開ける前に、フロアの中に下に行ける階段を探すことにした。
暗い中で正確に見えているかどうかわからないが、階段は上の階に続くものしかなかった。つまりは、あの大きな扉の先の部屋の中か、さらにその先にあるのだと予想できる。できるのだが、あの扉の先からは魔獣の近くを通るような緊張感がある。そろそろトールが追いつてこないかなと考えてしまう。少し待ってみるが、誰かがくる気配もない。そもそも近づいてくるのがトールだけとは限らない。
「仕方ないわね。行きましょう」
声に出して、自身の恐怖心を律する。そして、大きな扉を開けていく。ゆっくり開けようにも扉を開けるのに力が必要なため、ゆっくり開くことは難しい。その部屋に入りながら、部屋の中を見回す。
その部屋は、大きい部屋であった。黒一色の部屋で部屋の左右には四本ずつ柱が建っていた。その柱には部屋全体を照らしているランタンのようなものが上下に二つずつぶら下がっている。彼女の入ってきた扉と正反対の壁には王座のようなものがあり、それの前に何かが座っていた。
デンファレはこの場所が王の部屋だと思っていなかった。最下層と言うからにはもっと下の方、少なくとも屋上から数えて、十階層以上は下だと思っていたのだ。しかし、王座の前にいる者からは神だけが持つ力を感じ取ることはできない。だとすれば、目の前にいるそれは邪神ではないのだろう。
「よく来たな。私がここの王様だ。先に進みたくば、私を倒して見せろ」
相手の風貌は邪神と言うよりただのデーモンと言った方が納得できるだろう。それは全身が紫色の肌で、上半身は裸で下半身には裾が適当に切られているかのようなパンツ。足には凶悪な爪が付いていた。そして、その方には黒いマントを羽織っている。その見た目は明らかにちぐはぐだ。
何か違和感を感じる言葉遣い。淡々と文章を読み上げているかのようだ。それに、彼女には邪神がここを牛耳っているのを知っているのだから、相手の言葉は信用することはできない。目の前のそれがここの王なわけがないのだ。
相手はマントを適当に投げ捨てて、臨戦態勢を取っている。まるで先手はデンファレに譲ると言っているようだが、その挑発には乗らない。彼女は神に効力の発揮する剣ではない方の剣を鞘から抜いた。つまりは、いままで使ってきて、一緒に成長してきた剣だ。彼女は剣を構えて、その不気味なそれと相対する。相手が先に動くのを互いに待っているような状況。しかし、単純にデンファレは相手の行動を見てから行動を起こす戦闘スタイルだ。最初に習った剣術はカウンターだからこそ、待ちの戦術になるのも仕方ないだろう。
相手がしびれを切らしたのか、先に行動したのは偽の王。地面を蹴って、デンファレにかなりの速度で近づいていく。だが、その速度は目で追えない程ではない。彼女は相手が腕を振りかぶった時点で、回避とカウンターの動きを頭で考え、相手の腕が振り下ろされた始めたところで、イメージ通りの行動を開始した。相手の腕を身を低くして回避して、相手の胴が上に来たところで、自身の頭の上を切り払う。相手は、その攻撃を躱せるはずもなく、胸の辺りに斜めの切り傷が作られる。そこから血などの液体が流れてこないところを見ると、やはり生物ではないのだろう。彼女は相手の胴の下から相手の後ろ側に抜け、剣を相手の背中に突き立てる。偽の王は体を動かす動作が遅く、その剣を回避することが出来ない。背中から腹にかけて、剣が突き抜ける。剣を抜くと体の中に空洞ができる。中に内臓もない。まるで何かの抜け殻だ。
「気持ち悪いわね」
相手の不気味さに、思わず口からそんな言葉が漏れ出た。しかし、彼女は攻撃の手を緩めない。しかし、剣で傷つける度に相手の空虚な存在に嫌悪感を募らせる。相手が振り返るころにはその背中に三つの傷が増えていた。
相手は振り返りざまに腕を振り、攻撃したが、そんな見え見えの攻撃には当たらない。相手の腕を狙って、剣を振ると、抵抗感なくその腕に刃が入り簡単に切り落すことが出来た。手ごたえは無く、切り離した腕が地面に落ちても、紙が落ちたかのような軽い音しかしなかった。
デンファレですらそれの相手は余裕をもってこなせるほどで、あっという間に偽の王を倒しきったのだった。デンファレにはその簡単さが不気味にしか思えなかった。何かの作戦の一部かもしれないし、既に相手の罠にはまっているのかもしれない。そんな不安が頭に残る。




