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神殺し召喚  作者: ビターグラス
12 準備はできていないけれど
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緊急(強制)招集

 魔獣がうろつく森を隠れながら通り抜けて、マギアル付近の森から抜け出した。デンファレの表情は苦しそうと言うか、悲しみを堪えているような顔をしていた。マギアルを出てからずっとその表情は変わらない。


――もう信仰を得ることはできないかもしれない。


 彼女はいくらこの世界の住人を助けても信用してくれない。神だと理解されると拒絶されるしかないことが悲しかった。自業自得なのはわかっている。それでも、役に立てば、人を助ければ、少しは信用されたり、信頼されたりすると思っていた。考えが甘いと言えばそうなのだろうが、心は悲しみを感じるのを我慢できるわけではない。この世界を救っても信仰が回復しなければ、神の力は使えない。つまり、邪神を倒した後、飢餓を救うための豊穣の力を使わなければ、この世界は終わりに向かって緩やかに進んでいくだろう。いくら生存能力が強くとも、回復できる限界はある。それを回避するための豊穣の力なのだ。飢餓さえなければ、世界は回復していくのだ。しかし、邪神討伐で信仰の力を使い切って、消滅しては世界を救いきれない。


 トールは苦しそうな彼女にどんな言葉を掛ければいいのかわからない。彼女には少しでも元気になってほしい。彼女が勝手に物事に首を突っ込んでいかないと、何も始まらないのだ。その元気が今はない。何度も口を開きかけては、喉に詰まった言葉はそこから出てこなかった。


「ちょっと来てもらうよ」


 二人の目の前に急に、楕円の中に草原や森ではない景色が広がる。思い悩んでいるデンファレはそれに気が付いても大きなリアクションは無く、トールもそこまで表情に変化はない。そして、その楕円から出てきたのは黒いぼろのローブを守った男、ヴィクターだ。楕円に映る景色はデンファレにもトールにも見たことのある景色であった。二人がその場に固まったままで動かないので、ヴィクターが二人の手を引っ張って楕円の中へと連れていく。


 楕円の中はデンファレがずっと過ごしていた宮殿の中みたいな内装の部屋。ヴィクターたちとデンファレが初めて会った場所でもある。


「ヴィクター様。お久しぶりです」


「ああ、うん。挨拶は良いんだけど、そろそろ邪神の討伐に行かないと、やばいかもしれない」


 そう言って、彼は地面を透明にして地上の様子を映し出す。三国の中心、邪神の城がある部分にかかっていた黒い霧のようなものが晴れて、その城が見えていた。その城は影のような黒さでぼやけているようにも見える。しかし、その城は特別な形はしていない。城の周りをぐるっと一周、黒いレンガのようなもので作られた壁が城の四方に作られており、その角には塔のようなものが建っている。その壁の中にはその壁より大きな立方体を重ねたような建物が建っており、二段目、三段目は下の団よりも一回り小さくなっている。その中心の建物から壁の上に繋がるように、通路が出来ている。壁の内側にはは他にもいくつか建物が出来ているが、人が使うものと一緒であれば、それは兵舎や訓練所などになるのだろう。


 そして、黒い壁の外には黒い人型の兵士と思われるものが整列していたり、既にどこかに進軍しているものがあったりした。それは見れば、邪神が既に動き始めていると理解できるだろう。しかし、デンファレはそれを見ても、特に騒ぎだすことはなかった。今までの彼女であれば、すぐにでも動きそうなものだ。それとも、その光景を見てるようで、悩みの方に意識を持って行ってしまっているのか。どちらにせよ、彼女らしくはない。


「トール。どうしたんだ、こいつ」


「その、マギアルと言う国で、追い出されたので、それで落ち込んでいるみたいなんです」


「ふーん」


 自分から聞いたことなのに、彼は関心がない風に返事をした。それから、デンファレの前に立つ。デンファレはそれにすら気が付かない。だから、彼はデンファレの肩に手を置いた。それでようやく、彼女はヴィクターの顔を見た。


「……な、何?」


 いきなり、人の顔が目の前に来て驚いていた。


「何、気にしてんのか知らないけど、この世界を救えるのはあんただけだ。何か考えるなら、救った後に考えればいいだろ?」


「そ、そうね。確かにそうだわ」


 デンファレは彼の目を見て、彼を信じることにした。たとえ、信仰の力を使い切って消滅しても彼ならなんとかしてくれるだろうと。彼が何とかしてくれるというのなら、自身の消滅を気にする必要はない。彼女の悩みはそれだけなのだ。割り切ることが出来たのなら彼女が悩む理由はない。


「それで、すぐにこの城に行って諸悪の根源を倒してくれば良いんでしょ。今すぐにでも行って、倒してくるわ」


「正面から行っても勝ち目はないですよ。私とデンファレしかいないのですから、数で押されたら勝てるはずがありません」


元気になったデンファレにトールがようやく話かける。彼女らしい真っ直ぐな言葉を聞けて、彼は安心していた。長い時間と言うわけではないものの、内容の濃い旅をしてきたため、彼女に情が移っていた。トールの中では手のかかる妹のような存在だ。


 旅を始めたときは、嫌っていたし、何度も諦めるようならヴィクターの言っていたように彼女を捨て置き、ヴィクターの城に戻ろうと思っていたが、思っていた以上に根性があり、努力もしていた。ただただ偉そうな態度は無くなり、人ともしっかりと関わることが出来ていた。それを見て、この世界を本当に好きだというのがわかった。きっと、世界が常に暢気な平和でなければ、今起きていることくらいは対処できる力を持っていたかもしれない。


 そんなことを考えながら、彼はデンファレが張り切っている姿を見つめていた。

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