神の正体
自身の絵が描かれたカードが光る。彼女が空を見上げると、自身に向けて光が束になって降り注ぐ。遠くから見れば、それは光の柱に見えただろう。実際、落ちてくる岩石を見ていた人たちはその光に気が付いただろう。
光の柱が彼女を包む。彼女の体に淡く白い光がまとわりついて、それが彼女の体に染み込むように吸収されていく。彼女自身も神の力を久しぶりに感じていた。まさしく、全能の力。なんでもできる、そう言う力。信仰の力も無限にあった時にはこの力を当たり前に思っていたことを思い出す。恥も知らない頃の過去だが、それが無ければ、ここまでこの世界に暮らす人を守りたいと感じることもなかっただろう。
デンファレは女神の力を完全に体に入れ、その場に飛び立つ。翼も使わず、魔法も使わず、空を飛べるのはこの世界では神だけだ。彼女は光の柱を上るように上昇して、柱から出た。彼女の体に淡い光が微かに見え、そこには神々しさを感じる。神様そのものの雰囲気を持っている。
(この力があれば、どうにでもできそうね)
全能の力ではあるが、彼女が持っている今の信仰の力では持って三分程度だろう。それを少しでも超えれば、彼女は即座に消滅する。たとえ、一分で片が付いても彼女が存在していられる時間は大幅に減るだろう。それを知りながら彼女は隕石の方へと飛んでいく。
ベルは光の柱が見えていた。それはオブストも見えていたし、デンファレの方へと移動しようとしていたトールにも見えていた。外にいた者のほとんどが光の柱から何かが高速で手停ったのが見えていた。トールだけはそれが神の力であることを理解できたので、その正体がデンファレだということはわかった。彼は彼女が消滅するかもしれないことは知っているが、使われた力をキャンセルする能力はない。既に彼女を止める手段はないのだ。彼にはデンファレを見上げることしかできなかった。
隕石の近く、神と思しき人型がデンファレだとわかったのはトールを覗いて二人だけ。ベルとオブストだ。それ以外のエルフはようやく女神が降臨したと考えていた。
彼女は腰に下げた鞘から剣を抜く。彼女が剣を握るとその剣も淡く光った。彼女が削れた隕石に、剣を振る。もちろん、剣のリーチでは全く届かない距離だ。だが、隕石の一部がバラバラに砕ける。何度も剣を振り、隕石を分割していく。小さくなった隕石は下の竜巻に飲まれて完全に消滅していく。
ある程度、削れた隕石を前に彼女は剣を掲げる。剣に纏う光が徐々に強くなっていき、それは巨大な光の剣へと姿を変える。それは神の武器。彼女がそれを振り下ろし、隕石に当てると地上ですら眩しいと感じるほどの光を放った。隕石は斬れた場所から、魔気に戻っていく。光が治まるとそこには今まであった巨大な隕石は既になかった。そして、女神はマギアルの方に振り返った。彼女は再び、光の柱に包まれた。
デンファレは外からは見えない状態で光の柱から地面へと降りて、神の力が体の中から抜けていく。彼女の体から光が抜けていき、天へと返っていく。全身から力が抜けていくような感覚。そして、最後に光の柱が天へと戻っていった。そこに残ったは、膝を付いたデンファレだけだった。
(まだ、ちょっとだけ猶予があるわ。まだ世界を救う時間はある)
「デンファレ。無茶をしましたね。消えてしまったら誰だこの世界を救うんですか」
「ごめん。でも、きっとトールとヴィクターがやってくれると思ってる」
「……そうですか。しかし、私もヴィクター様も救いませんよ。この世界は貴女が救わなければいけないんですから」
彼は必死に彼女に言い聞かせる。言葉だけは落ち着ているように感じるが、それだけではない。今の彼の言葉には義務だからと言う理由で彼女の消滅を防ぎたいというわけではなかった。長く旅をして、ここまで彼女は努力してきた。それなのに、こんな道半ばで消滅してしまっては彼女の努力が水の泡になってしまう。
「あと、どれくらい、生きていられそうですか」
「神の力を使わなければ、三週間もないくらいかしら。短くなったけど、私は後悔はしていないわ」
「そうでしょうね。貴女に後悔と言う言葉は似合いませんよ、まったく」
トールはようやくいつもの落ち着きを取り戻して、彼女の言葉に呆れて見せた。膝を付いていた彼女に手を貸して立たせる。それから、マギアルまで戻った。
「デンファレさん。貴女なのですね、あの隕石を消したのは」
マギアルの入り口。そこにはオブストとベルがいた。ベルはデンファレが近くに来るとそう言った。オブストも何か言いたげな目をしているが、彼は口を閉じている。
「……ええ、そうよ。あれは私。私、実はこの世界の神なの」
デンファレは、人間の国でのことを思い出す。ここで何かトラブルでも起きようものなら逃げるしかない。
「そうなのですか。ありがとうございました。私一人ではどうにもできませんでしたから、本当に助かりました。しかし、この国にも貴女を恨む人がいます。本当に申し訳ないのですが、争いの種になるかもしれない貴女をこれ以上この国には置けません」
「おい、何もそんな冷たく言うことないだろ。俺たちはこいつらに偏見なんてないんだし」
ベルの言葉を遮って、オブストが彼女に詰め寄る。背はオブストの方が高いのに、今の彼はベルよりも遥かに子供に見えた。まるでわがままを無理やり通そうとしている駄々っ子だ。
「そういう問題ではありません。この国の中にはきっと、私たち以外の人が彼らを神だと知ったものもいるでしょう。たとえ、隠していてもいずれはばれる。ばれてしまえば、彼女たちを攻撃するものが出てくる。それからこの二人を守る者も出てくる。そうなれば、この小さな国の中で戦争が起きるのです。そうなる前に去っていただきたい」
ベルの瞳だけは正直で、その目には涙が浮かんでいた。しかし、それでもそう言う彼女はきっと自分たちのことを感がてくれているのだとデンファレは思った。あるいは彼女の希望だったのかもしれない。
彼女の言葉を飲み、二人はマギアルから去った。オブストが待てだの、俺たちが守ればだの、と二人の後ろから声を上げていた。振り返りたい衝動を最後まで堪えて、マギアルから離れていく。




