ベルVSローブの男
「アナタみたいに、ワタシよりマホウが使えるヒトは嫌いなんですよねぇ。だから、殺しますねぇ」
ローブの男はベルに敵意を向けている。彼の言葉は軽薄だったが、その実力を侮るほど彼女は愚かではなかった。マギアルの周りの森には強い魔獣が沢山うろついているのだ。いくら、この場所に魔獣が数十匹来ていたとしても、それ以上に森の中には強い魔獣がいて、そこを抜けてきたのだ。ただの人間がこの森を抜けてこれるはずがなかった。
「コロスと言っているのに、テイコウしないのですかねぇ。早くマホウを構えてほしいのですがねぇ。それとも、このまま殺しちゃってもいいんですかねぇ」
「……そうですか。では、少しばかり手合わせしましょうか」
ベルが脅すかのように火の玉を相手の足元にぶつける。地面が少しえぐれて土の部分が見えた。男にはそれが自分が嘗められていると思った。最弱の魔法で脅せば退くだろうと考えられていることが彼のプライドを傷つけた。
「バカにしているのですかねぇ。ワタシのマホウがこの程度のマホウにも勝てないというのですかねぇ」
ローブの上からでもわかるほどフルフルと体を怒りで震わせる。しかし、それもすぐに止んだ。
「ふふ、そう言うことなんですかねぇ。そんなにワタシのマホウが見たいですか。ならば、最初からホンキを出しましょうかねぇ」
彼のローブがゆらゆらと揺れて、彼はベルに近づいていく。彼は火の球を一つ一つベルに向けて、連続で発射する。ベルはその魔法を躱していく。
「避けるだけならダレでもできるのですがねぇ!」
彼は火球の間に水や土の球を混ぜて飛ばし始める。三種類位の球は速度が違い、火球を回避しても水球が迫り、それを回避しても土塊が迫る。しかし、彼女にそんな小手先の工夫など意味がない。彼女は回避するのをやめて、その場にある全ての魔法を相殺した。そして、それを返すかのように、火の球、水の球、土の塊、風の刃を彼に向けて放つ。弾速が違うので、ただ回避するだけでは躱しきれない。しかし、相手は火球を回避するだけで、それ以外の魔法は全て体に当たった。ベルはまさか、そんな簡単に魔法を受けるとは思わず、動きが鈍る。その瞬間、ローブから覗く相手の口が怪しく笑っているのが見えた。
ベルの周りから地面がせり上がり、進行方向が止められた。囲まれるとまずいと魔法使いの勘を働かせ目の前の土壁を相殺するように魔法を使い、穴を開けて壁を抜けた。後ろを見れば、そこに四方を囲む壁が出来ていたが、彼女が捉えられていないのがわかったのか、壁が消えた。ベルは焦って相手に魔法を使おうとしたが、すぐにその魔法を霧散させた。焦って魔法を使うとろくなことにならないというのは、長く魔法使いをしていればわかることだ。彼女は一度、相手を観察することにした。相手は魔法を使った戦術で言えば、もしかするとベルと同様かもしれないと思った。
「さすがに、魔法は使ってきませんかねぇ。では、またワタシのマホウ、受けていただきましょうかねぇ」
彼の周りに火球がいくつも出現する。それらが、ベルに向かって飛んでいき、その開いた空間に再び、火球が生成される。その火球の中のいくつかは火球同士でぶつかってより大きな球になって飛んでくる。しかし、ベルにとって大きさは問題では無い。相反する属性をぶつければ、相殺できるのだ。彼女は相手の火球に紛れ込ませて、自身の火球を相手にぶつけようとした。その魔法が当たっているのかどうかは確認できない。彼女は回避と相殺、火球の生成と発射で忙しい。当たっているかどうかを確認している暇はなかった。しかし、ベルの実力があれば、動かない相手に魔法を当てるのは目をつむっていてもできることだ。ローブの男に一つも当たっていないとは考えられない。
この世界では例外なく皆、、超能力を持っている。ローブの男にもそれはあった。それは彼の魔法が当たると体が動かなくなり衰弱していく。彼が魔法に当たるとその魔法の属性に耐性が生まれるというものだ。どちらも効果は長くは続かない。しかし、今、連続で火球を当てられている彼は常に火の耐性を得ているのだ。この状態で火球を当てていても、いつ決着がつくのかわからない。もちろん、彼が相手にそれを教える道理はない。このまま同じ行動を続けていれば、負けるのはベルなのかもしれない。
だが、ベルも愚かではない。これだけ攻撃しても変化がないというのはおかしい。そうなれば、思いつくのは超能力や自分の知らない魔法だ。しかし、ずっと魔法の研究をしてきた彼女は自身の知らない魔法はほとんどないと考えた。可能性を考えれば、超能力が原因であると言われた方が納得できた。魔法を回避しないということは魔法に当たることで何かしら、有利になることが起きている。そして、これだけ消費の少ない魔法をしつこく撃ってくるということは、魔法に当たるだけで何か起こるのかもしれないと考えいた。どちらにせよ、そろそろマギアルに戻って、デンファレたちの様子を見たいところだ。
(そろそろ、いいでしょうか。ここで彼を倒せば、ここに引き付けておく意味もないです)
彼女はその場の魔法を全て相殺した。相手の火球が全て消える。彼女はずっと同じ場所に立っている彼を見た。その瞬間、彼のローブに傷がつき、その隙間から血が噴き出した。
「……なっ、何が、起きたんですかねぇ。このワタシがマホウを見切れなかった、の、ですか、ねぇ」
「そろそろ、私も図書館に戻りたいのです。それに、私、しつこい男は嫌いなのです」
さらに、ローブが切り裂かれ、噴き出した血がローブに染み込んでいく。
「サ、サイゴの、アガキ」
彼はローブから歪な筋肉の付き方をした腕をベルへと向ける。しかし、魔法は彼からは出てこない。空から自身のような音がした。ベルは空を見上げた。そこにあったのは巨大な岩石の塊。この位置に落ちれば、マギアルと周辺の森ごと消えるだろう。
「コレデシネル……」
死に際までねっとりとしつこく絡んでくる彼に、ストーカーを嫌悪するような気持になりながらも、ベルは彼の最期を見ていた。彼は最後のあの魔法を使ったせいで体内の魔気が無くなり、絶命したのだろう。彼の体内から魔気が消失していくのを感じていた。




