連携攻撃
オブストは魔法で三つの文字を出現させて、デンファレの作戦を三人のエルフに伝えた。その文字は、三人のエルフの内の一人が作り出した一文字に様々な意味を込めた圧縮文字と呼んでいるものだ。そして、マギアルの防衛をする者たちはその文字を知っているため、そこにいるデンファレ以外には意味が分かる。
エルフたちはさっそく、彼女の伝えた作戦を開始した。この戦闘エリアの宙には魔法の弾幕が展開された。もし相手が飛べば、少なからず魔法に直撃することになる。魔法に当たり続け、少しでも動きを止めればそこに魔法の集中砲火を受けることになるだろう。それでも、デンファレは油断しない。勝てるという確信が油断になるのは先ほどのベルとトールの模擬戦でも話していたことだ。もしかすると、魔法に対する耐性を持っているかもしれない。そうでなくとも、何か秘策を持っている可能性を頭の片隅に置いておく。最悪、トールが回復するまで待っていれば、トールがここまで来てくれるだろう。そうすれば、相手に勝てる戦力になるはずだと彼女は考えていた。しかし、そこまで長引かせるつもりはない。彼にばかり頼らなくてもいいというところを彼にも見せたい。
弾幕が展開したため、デンファレとオブストが翼の男性と対峙した。目を合わせても相手は何も言わない。だから、二人から話すこともない。先に仕掛けたのはデンファレだった。剣を相手のいる場所に向けて横に振る。明らかに躱すも防ぐも簡単な太刀筋だ。相手は弾幕を意識しているのか、跳ばずにしゃがんでその剣を回避する。しゃがむのと同時にデンファレの足を引っかけた。右足をとられたものの、バランスを崩すことなく、彼女は剣を振り下ろした。その太刀筋も相手にとっては見え見えのもので横に移動することで避けた。そして、その場所はデンファレの影ではなくなる。そして、相手の背後からオブストが音もなく蹴りを放つ。それが翼の付け根の辺りを捕らえた。確実に翼にダメージが入る。それが飛べなくなるほどの者だったのかはわからない。何せ、相手の表情や態度にはそれが現れないのだ。相手は蹴りが無かったかのようにオブストの方へと振り返り、その勢いで回し蹴りをオブストに当てようとするが、オブストはそれを簡単に受け流す。相手は受け流された勢いを利用して、再び相手の顔を狙った回し蹴りを繰り出した。同じ攻撃が当たるはずもなく、オブストは相手の足の下に潜り込んで、懐から腹に拳を打ち込んだ。
彼が相手にしているのは人間ではなかった。腹に拳を当てれば、少しは怯むはずなのだが、この翼の男性は少しも怯まなかった。そして、オブストの顔を狙った足だまだ彼の上にある。相手はそのまま足を下ろし、彼の肩に膝裏がかかる。その膝裏が肩を掴んでいるような感覚で、そのまま相手の後ろに飛ばされた。オブストはすぐに体勢を立て直したが、既に翼の男性はオブストに近づいて、その拳を自身の腹の辺りに持ってきて、拳を入れる準備をしていた。オブストを自身のリーチに入った瞬間に拳が突き出される。その拳とオブストの間にデンファレが入りこみ、剣の面でこの拳を受けた。それと同時に、オブストが彼女の背後から飛び出て、蹴りをかました。背中に衝撃と共にダメージを入れているはずだが、相手に動じた様子は無い。相手は地面に手を付いて、頭を下にして足を開いてコマのように回転した。それは攻撃ではなかったが、二人は足が届かない範囲に逃げるしかない。二人が離れた後、相手は手で地面を押して、デンファレに向かって飛び蹴り。デンファレは再び剣の面でその攻撃をガードし、オブストがその足を横から蹴り飛ばす。
しかし、その攻撃も効いている様子はなく、蹴り飛ばされた相手は地面に蹴られた足をつき、その場に立っていた。一瞬の間の後、相手が動きだす。一歩踏み出し、間合を計る。二歩目で体に力を全身に回す。三歩目で飛んで、素早く力のこもったパンチが繰り出される。たまたま、オブストより前にいたデンファレにその拳が当たる。彼女の体にその拳は触れておらず、剣で守ったはずなのに、かなりの衝撃が彼女の体にぶつけられた。その衝撃で後ろに飛ばされそうになったが、後ろにいたオブストが彼女の体を受け止めた。短くお礼を言って、相手の方へと視線を移した。しかし、デンファレの体に痺れがあった。致命的ではないにしても、もう一度その攻撃を食らえば、しばらくは動けなくなるかもしれない。体に直撃すれば、確実に戦力外だろう。
オブストは彼女の体の動きがおかしいことに気が付いたが、ここでそれを指摘してもどうすることもできないことがわかっているので、何も言わない。彼女が恐怖や不安を感じながらも、こうして戦っているのだ。それを邪魔することは彼にはできなかった。
渾身の拳を放った相手はその場で動きを止めていた。見ようによっては足を庇っているようにも見える。しかし、二人はその様子が不気味で攻撃が出来ない。隙がありすぎて罠にしか見えないのだ。そして、最大の隙が無くなり、相手は再び動き出した。




