マギアルに近づく危機
ベルの光の槍、それは雷でできたものであった。魔法でガードしよとしたトールはその魔法を防ぐことはできず、もろにその攻撃を受けてしまった。彼は飛んで付けた勢いは称しつし、地面に落ちた。かろうじて足から着地はしたが、膝は地面についている。そして、すぐには動けない。手練れ相手に少しの間でも少しも動けなくなるというのは負けを意味していた。
「油断がありましたね。どんな相手あっても、勝てる、そう思った瞬間から負ける道を歩んでいると思った方がいいです。いくら強い力があっても、油断は隙を作ります」
戦えなくなったトールの正面まで移動して、ベルはそう言った。トールは言われたことは理解していたはずのことなのに、超能力を使用した後、一気に近づけたことでそのことを忘れて勝てると思った。相手の罠も回避して、行く先に置かれた魔法も回避した。そして、明らかに相手に近づけているという手応え。それが油断を誘っているものだと気が付かなかった。
「まさか、魔法だけで相手の心理まで掌の上にしていたとは。敵うわけがありませんでした」
「貴方なら心配することもないでしょうが、この経験で心を折らず、精進してください」
「はい」
トールはその場からしばらく動けず、ベルとデンファレはそこでしばらく一緒に休憩している。ベルはいつの間にか、カップを持ってきて床に時価座りしながら、紅茶か何かを啜っていた。デンファレも同じものを渡されて、一緒になってそれを飲んでいる。少し苦みのある緑茶のような味がする飲み物だった。
しばらく、訓練所にいるとトールも回復して立ち上がった。疲れた様子はそこにはなく、いつもの堂々とした立ち姿だ。
「ベルさん。模擬戦をしていただいてありがとうございました。既に克服したと思っていたことがまだ、完全に克服できていなかったことを痛感しました」
「そうですね。ですが、私もまだまだ、油断することはあります。勝てる、そう思ってしまうことは仕方がない。そこから思い直して、戦い方を考え続けられるか。私はそこが大切ではないかと思います。次回の挑戦を待っています」
ベルはそう言うと、ニコリと笑う。彼女の笑顔は顔の作りから無邪気なものに見える。
彼女たちが訓練所で休憩している頃、マギアルに危機が迫っていた。この国には他の国のように国を囲む壁は無いに等しい。その代わり、魔獣が森の周辺にうろついていて、基本的にこの国まで来ることはできないのだ。しかし、空を飛ぶ魔獣よりもさらに高く飛べる何かがいれば話は変わってくる。それが魔獣なら、マギアルには寄って来ないだろう。それが魔獣でなければ、簡単にこの国に入ることが出来てしまうのだ。
「さて、こっから先はマギアルってエルフの国なんだが。あんた、この国になんか用事か?」
オブストがデンファレに会った時のように、国の周りを哨戒していた。その紹介で不審な人物を見つけたのだ。デンファレやトールとは違い、何か良くないオーラを持っていた。この人をマギアルの中に入れてはいけない。彼はそう持った。
その見た目で一番特徴的なのは、鳥類の獣人が持っているような翼だ。しかし、その翼は歪だ。蝙蝠が持つような翼の形に見えるが、その翼には羽毛が生えているようだった。茶色や白、黒に赤。どれも全く調和しておらず、子供が壁に描いた落書きのような翼。相手は地面にいるのに、その翼が閉じられていない。そして、獣人であれば全身に鳥類の特性が見て取れるはずだが、顔にくちばしがあるだけで、その人物の胸や腹には羽毛などは無く、人間のそれであった。露出した足も人間のものだ。下半身はオブストと似たズボンを履いているので見えない。しかし、その人物がただの獣人でないことは明らかであった。
「返事はしないのか。黙ったままだと、倒さないと行けなくなるんだが、返事の一つくらいしてくれてもいいじゃねえの」
「そうすれば、通してくれるのだろうか」
翼を持った人間がようやく口を開いた。声が低すぎて、聞き取るのが難しい。オブストには何とか聞き取れたようだ。
「目的によるな。悪いことをしようとしてるんだったら通せねえけど」
「悪いこと……。我々はそれを判断するには魂が混ざりすぎているようだ。命令に従いに来た」
翼を持った人間の黒い目には何も移していないようだった。認識はしているが、それが何か理解できていない。そんなような目だ。オブストはマギアルの中に入れてはいけないと確信した。
「悪いな。きっと、それはいいことじゃねえ。ここを通すわけにはいかないな」
「我々は拒絶されたらしい。それでは、任務が。押し通ればいいだろう。そうだ、無理やり突破だ。そうしよう。……意見が一致した。我々は貴方を殺して進むことになりそうだ」
「そう言う奴は悪い奴だって決まってんだよな」
オブストは拳を構えて戦う準備をして、翼を持つ不気味な人間と戦った。




