魔導書図書館 館主
螺旋階段から降りてきたのは女の子だった。背丈はデンファレのくらい。顔つきや体つきも子供のようだ。金色の髪を持ち、前髪は眉の上の辺りで切りそろえられ、後ろ髪は後頭部で団子になるようにまとめてある。大きな瞳に丸い輪郭。体つきも細く、女性らしい膨らみは無く、子供のような見た目だ。
「私はこの図書館の館主です。名前をベル、と申します」
ガラスのようなソプラノ声。しかし、そこにはこの場所に長年勤めているという貫禄があった。子供らしい見た目と声ではあるが、彼女は館主であることを埃に思い、プライドがあることがよくわかる。それは子供の背伸びのようなものではなく、積み上げたきたものがその一言に表れていた。
「王女様から話は聞いています。世界を救うための経験や物を探しているとか。この図書館にあるのは、魔法の知識のみです。それが貴方たちの役に立つのかはわかりませんが、どうぞごゆっくりと、知識の探求を。図書館の右隣の樹には仮眠室や食事室など、生活に必要なことが出来るようになっております。そして、わからないことがあれば、いつでも私の名を呼んでください。いつでも、助力しましょう。それでは」
彼女はそこまで言い切ると、螺旋階段を上がっていった。
「小さい人だったけど、なんというか、凄い人だったわね」
「おそらく、かなり強力な魔法の使い手であることは確かでしょう。魔法は想像によって作られるのですから、知識があれば、想像力もあることでしょう。それにパシューの研究も知っている場合は、この世界で彼女に勝てる魔法の使い手はいないでしょうね」
トールがそこまで言うのだから、本当に強い人なのだと、デンファレは納得した。
「それはそうと、ここには魔法についての知識があるのよね。私に必要かしら」
「必要かどうかは、魔導書の一冊を読んでからでもいいのではないですか?」
彼女が図書館の中で、不用意なことを言ったせいか、いきなり螺旋階段からベルの声がした。彼女の姿がすぐに表れる。怒っている風ではないが、先ほどとは違い、瞳の中に闘志が見える気がした。
「魔導書はただの魔法一覧ではありませんよ。弱い魔法でも、威力の高い魔法に勝つともできるのです。それ以外にも、魔気の効率的な運用の仕方や魔法を使った戦術、戦略。それ以外にもエルフが研究した魔法の全てがこの図書館にあるのです。読みもせずに、必要ないとは言わせません」
「ご、ごめんなさい」
息継ぎもせず、一息に話していたためか、その圧が凄く、さすがのデンファレも思わず、謝った。その後、ベルはデンファレたちにおすすめの魔導書を渡していた。デンファレは読みはじめこそ嫌々と言った様子であったが、読み始めると本にのめりこんでいった。トールは自分で棚を眺めて、棚の前で本を読んでいた。デンファレに二倍以上の速度で読んでいるトールは次から次へと本を読んでいる。二人が集中して本を読んでいる隣で、ベルも集中して本を読んでいた。
三人が本を読むのをやめたのは、それから三時間ほど経った頃だった。デンファレが三冊目を読み終わったところで集中力が切れたのだ。
「どうです。必要ないことでも面白かったでしょう」
「ええ、そうね。必要なことじゃないわけでもなかったわ。剣と魔法を組み合わせて戦えたら戦術の幅が広がるし」
「それは良かったです。武器と魔法を合わせて使用するという内容なら、ここらの本にも記載がありますよ。必要ならここの本も読んでみてください」
「……ベルさん。この知識を実践したいのですが、訓練所と言うものはこの近くなのですか」
デンファレとにこやかに話していたベルに、トールが話しかける。デンファレの二倍以上の本を読んで、この世界の魔法の仕組みについて少し学ぶことができた彼は得た知識を実践してみたくなったのだ。
「訓練所はこの図書館の後ろの樹です。こちらもご自由にお使いください。ちなみに、先ほど言い忘れていたのですが、この樹の左隣は職員用の休憩場所ですので、立ち入らないようにお願いします」
「ベルさんが魔法の訓練の相手になっていただくことは可能でしょうか」
トールは彼女の実力が気になるようで、魔法の理論を試すのと同時に、彼女に相手してほしいと考えていた。トールもデンファレと過ごして、彼女が持つ図々しさを持ち始めていたが、彼にその自覚はなかった。ベルは彼の不躾な言葉に顔色一つ変えずに答えた。
「そうですね。少しは私の実力を理解してもらえるかもしれませんし、いいでしょう。訓練所はあまり大きくないので、本気は出せませんが、訓練の相手くらいはできるでしょうから。では、行きましょうか」
彼女が図書館を出ていく。その後ろにトールは付いて行く。デンファレは一人で本を読んでいるのも寂しいと感じたので、二人に付いて行った。それから、魔導書図書館の裏に回ると、また幹の大きな樹があった。ベルが扉を潜ってその中に入っていくのに、続いて二人はその中に入った。
中は簡素な作りだった。天井が十メートルほどあり、壁には明かりが灯っている。樹の幹の中、全てがフィールドのようで、観客席や休憩所などもなかった。印象としてはただただ広い空間というもの。ベルが扉の近くにあるボタンを押すと、樹の内側に半透明の白い壁が作られた。これだけで、魔法が外に漏れることが無くなるらしい。準備が整ったところで、ベルとトールはフィールドの中央に移動した。




